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束間

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ゲームでは語られなかった『悪役令嬢の真相』──そう表現していいのか。
どうやら心の安定も取り戻してきたらしいルエナ嬢を見て、自分の生徒となったエリー嬢を見て、シーナは二ヘラと顔を緩ませた。
リオンとイストフが地団駄踏んで悔しがりそうな光景である。
「薬も抜けてきたし、美貌も戻ってきた……元より貴族的礼節はしっかり身についているし……そう言えば、学力ってどうなんだろう……?」
「シーナおねえさま?どうされましたの?」
実物に比べると少し歪んだ花瓶に膨らみを感じさせるための影をつけていたエリーが、シーナの呟きを聞き取ったようで、首を傾げながらこちらを見上げるという器用な姿勢だ。
「関節柔らかいねぇ……じゃなくって。ほら、ちゃんと見ないと。あの花瓶は左右対称でしょ?」
「たいしょう?さ…ゆう……」
「えぇと……右側と左側が同じ膨らみ方なんだけど……エリーは少しこっち側をシュッとしちゃってるから、こう丸みを……」
「しゅ……というのは?」
「あ、うん、ごめん…ちょっとアタシ独特な言い方で……うん、いい感じ……で、花だけじゃなくて、こう葉とか茎とか……」
まあ貴族令嬢が画家として大成する必要はないのだから手遊び程度でもいいのかもしれないが、何となくいいかげんなことはしたくなくて、シーナは自分が知る限りの知識と、この世界に転生してから身に付けた技術を伝授するような心持ちでエリーを指導している。
「まぁ…………」
チラチラとこちらを気にしてたルエナがやっと近付いてきて、エリーのデッサンを覗き込んで感嘆の声を上げた。
「これは……素晴らしいわ……」
「そ、そうですか?」
ゆっくりと近付いてきたルエナは思いのほかグイグイと前のめりに見つめ、キラキラと目を輝かせてエリーを褒めた。
それはさすがに前世のような写実的なものというわけではないが、少なくとも肖像画にも抽象的手心を加えるのが良しとされているこの世界において、シーナが教えた手法はある意味斬新なのだ。
そしてその描き方はエリーの感性に良く作用したらしく、シーナの目から見てもかなりの出来である。
「ですよねっ!素晴らしいですよねっ!」
「そそそそそんなっ……」

興奮して頬を上気させる美女となりつつある少女と、褒め慣れていないために戸惑いながらも照れで頬を染めるこれから成長しつつある幼い少女──ああ、眼福。

シーナはますます顔をだらしなく笑み緩め、今日のところは問題を先送りにしようと決めた。


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