3 / 24
真理の中の余計な一言
しおりを挟む
ふとロメリアが目を上げると、ヴィヴィニーアは腕を組んだまま、カクン、カクンと頭を微かに揺らしている。
きっと昨夜もまた古い気象記録書などを読み耽り、起こってもいない飢饉などが本当に未然となるよう、手配のあれこれを考えていたのだろう。
そう察しながら揺れる金色の輪を見ながら、ロメリアは優し気な微笑みを浮かべた。
なぜか婚約者であるヴィヴィニーアを前にしてはめったに浮かべないのだけれど、こうして視線を感じなくなると、つい幼子を見守る滋味溢れる表情になる。
「……甘いですわね、わたくしも」
「いえあの……姫様……ロメリア様……そのお顔はとても婚約者様や第二王子殿下を見るお顔ではございませんよ?」
「あら、そう言えばいたんだったわね、ホムラ」
「言わなくてもおります。たとえわたくしが同乗することが叶わなかったとしても、地の精霊がロメリア様をお守りくださるとは思いますが」
「そうねぇ。ヴィヴィが一緒ならば、デュークも共に来てくれるし……お腹に触りはなくて?」
「ええ、ロメリア様の御祈祷をちょうだいしましたおかげで、腹の子はふたりとも元気なようでございます」
まだほとんど目立たない下腹部にそっと手をやり、自分ではなくその部分に優しく視線を落とす専任侍女を、ロメリアはまた優しく見つめる。
ホムラ・リー・ガヴェント──現在はドルント姓となり、馬車の外にある従者用座席で後ろを守っているアディーベルト・ギャラウ・ドルントの妻となり、現在妊娠四ヶ月だった。
本来は忌み子であるといわれる男女の双子を宿しているが、彼女をただひとりの専属として側に置くロメリアが気にしていないため、誰も表立ってホムラを追い出すことはできていない。
そういう動きがあることをもちろんロメリアは知っていて、わざとそういう態度を取っている部分はあるが、本心はホムラが無事に子供たちを出産できれば他人のウザい戯言などどうでもいいのだ。
『忌み子を孕む侍女など、大聖女様に穢れが移ります』
『忌み子を孕ませる従者など、慎みなく大聖女様を穢れさせるやもしれません』
そう言って自ら穢れを纏い、我こそが大聖女のお側仕えにふさわしいと欲塗れで近付いてくる者たちの多かったこと。
そしてそれは今もって継続中である。
『愚者とは面白いほどに己は愚者であるとは言わぬもの。愚者とは面白いほどに己は真実であると言い立てるもの。愚者とは面白いほどに己がどれだ滑稽であるか自覚せぬもの。愚者は面白いほど己の企みが露見せぬと思い込むもの。聖女とは、そのような愚者までも救うもの。感情はどうあれ』
「……最後の一言は余計ですわ、大叔母様」
ロメリアは手にしていた大聖女の心得的な書物を開き、溜め息をつく。
しかし先代大聖女の残した格言は真理のひとつであり、確かにロメリアの耳に要らぬ毒忠告を注ぎ込んでくる者だろうと、感情はどうあれ「御祈祷を」と言われれば施すまでなのだ。
問題はそれがロメリアにとってただの義務にしか過ぎないのに、自分が特別授けてもらったのだと勘違いする輩だということ。
身重のホムラを国に置いてこなかったのは彼女を守るためもあるが、そんな扱いも特別だと思っていないしそもそもロメリアを特別扱いしないでいてくれる数少ない友達のひとりだからである。
そしてその夫であるアディーベルトも同行させたのは、彼がロメリアの側にあって国の草原地域を守る女神シアスターを見ることができる稀有な者であり、やはりロメリアのいない隙を狙って危害を加えられるのを避けるためだ。
きっと昨夜もまた古い気象記録書などを読み耽り、起こってもいない飢饉などが本当に未然となるよう、手配のあれこれを考えていたのだろう。
そう察しながら揺れる金色の輪を見ながら、ロメリアは優し気な微笑みを浮かべた。
なぜか婚約者であるヴィヴィニーアを前にしてはめったに浮かべないのだけれど、こうして視線を感じなくなると、つい幼子を見守る滋味溢れる表情になる。
「……甘いですわね、わたくしも」
「いえあの……姫様……ロメリア様……そのお顔はとても婚約者様や第二王子殿下を見るお顔ではございませんよ?」
「あら、そう言えばいたんだったわね、ホムラ」
「言わなくてもおります。たとえわたくしが同乗することが叶わなかったとしても、地の精霊がロメリア様をお守りくださるとは思いますが」
「そうねぇ。ヴィヴィが一緒ならば、デュークも共に来てくれるし……お腹に触りはなくて?」
「ええ、ロメリア様の御祈祷をちょうだいしましたおかげで、腹の子はふたりとも元気なようでございます」
まだほとんど目立たない下腹部にそっと手をやり、自分ではなくその部分に優しく視線を落とす専任侍女を、ロメリアはまた優しく見つめる。
ホムラ・リー・ガヴェント──現在はドルント姓となり、馬車の外にある従者用座席で後ろを守っているアディーベルト・ギャラウ・ドルントの妻となり、現在妊娠四ヶ月だった。
本来は忌み子であるといわれる男女の双子を宿しているが、彼女をただひとりの専属として側に置くロメリアが気にしていないため、誰も表立ってホムラを追い出すことはできていない。
そういう動きがあることをもちろんロメリアは知っていて、わざとそういう態度を取っている部分はあるが、本心はホムラが無事に子供たちを出産できれば他人のウザい戯言などどうでもいいのだ。
『忌み子を孕む侍女など、大聖女様に穢れが移ります』
『忌み子を孕ませる従者など、慎みなく大聖女様を穢れさせるやもしれません』
そう言って自ら穢れを纏い、我こそが大聖女のお側仕えにふさわしいと欲塗れで近付いてくる者たちの多かったこと。
そしてそれは今もって継続中である。
『愚者とは面白いほどに己は愚者であるとは言わぬもの。愚者とは面白いほどに己は真実であると言い立てるもの。愚者とは面白いほどに己がどれだ滑稽であるか自覚せぬもの。愚者は面白いほど己の企みが露見せぬと思い込むもの。聖女とは、そのような愚者までも救うもの。感情はどうあれ』
「……最後の一言は余計ですわ、大叔母様」
ロメリアは手にしていた大聖女の心得的な書物を開き、溜め息をつく。
しかし先代大聖女の残した格言は真理のひとつであり、確かにロメリアの耳に要らぬ毒忠告を注ぎ込んでくる者だろうと、感情はどうあれ「御祈祷を」と言われれば施すまでなのだ。
問題はそれがロメリアにとってただの義務にしか過ぎないのに、自分が特別授けてもらったのだと勘違いする輩だということ。
身重のホムラを国に置いてこなかったのは彼女を守るためもあるが、そんな扱いも特別だと思っていないしそもそもロメリアを特別扱いしないでいてくれる数少ない友達のひとりだからである。
そしてその夫であるアディーベルトも同行させたのは、彼がロメリアの側にあって国の草原地域を守る女神シアスターを見ることができる稀有な者であり、やはりロメリアのいない隙を狙って危害を加えられるのを避けるためだ。
0
あなたにおすすめの小説
彼女が望むなら
mios
恋愛
公爵令嬢と王太子殿下の婚約は円満に解消された。揉めるかと思っていた男爵令嬢リリスは、拍子抜けした。男爵令嬢という身分でも、王妃になれるなんて、予定とは違うが高位貴族は皆好意的だし、王太子殿下の元婚約者も応援してくれている。
リリスは王太子妃教育を受ける為、王妃と会い、そこで常に身につけるようにと、ある首飾りを渡される。
側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、孤独な陛下を癒したら、執着されて離してくれません!
花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」
婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。
追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。
しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。
夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。
けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。
「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」
フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。
しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!?
「離縁する気か? 許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」
凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。
孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス!
※ 以下のタイトルにて、ベリーズカフェでも公開中。
【側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません】
怒らせてはいけない人々 ~雉も鳴かずば撃たれまいに~
美袋和仁
恋愛
ある夜、一人の少女が婚約を解消された。根も葉もない噂による冤罪だが、事を荒立てたくない彼女は従容として婚約解消される。
しかしその背後で爆音が轟き、一人の男性が姿を見せた。彼は少女の父親。
怒らせてはならない人々に繋がる少女の婚約解消が、思わぬ展開を導きだす。
なんとなくの一気書き。御笑覧下さると幸いです。
冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります
真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」
婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。
そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。
脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。
王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。
公爵令嬢は結婚式当日に死んだ
白雲八鈴
恋愛
今日はとある公爵令嬢の結婚式だ。幸せいっぱいの公爵令嬢の前に婚約者のレイモンドが現れる。
「今日の結婚式は俺と番であるナタリーの結婚式に変更だ!そのドレスをナタリーに渡せ!」
突然のことに公爵令嬢は何を言われたのか理解できなかった。いや、したくなかった。
婚約者のレイモンドは番という運命に出逢ってしまったという。
そして、真っ白な花嫁衣装を脱がされ、そのドレスは番だという女性に着させられる。周りの者達はめでたいと大喜びだ。
その場所に居ることが出来ず公爵令嬢は外に飛び出し……
生まれ変わった令嬢は復讐を誓ったのだった。
婚約者とその番という女性に
『一発ぐらい思いっきり殴ってもいいですわね?』
そして、つがいという者に囚われた者の存在が現れる。
*タグ注意
*不快であれば閉じてください。
【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……
buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。
みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……
元婚約者からの嫌がらせでわたくしと結婚させられた彼が、ざまぁしたら優しくなりました。ですが新婚時代に受けた扱いを忘れてはおりませんよ?
3333(トリささみ)
恋愛
貴族令嬢だが自他ともに認める醜女のマルフィナは、あるとき王命により結婚することになった。
相手は王女エンジェに婚約破棄をされたことで有名な、若き公爵テオバルト。
あまりにも不釣り合いなその結婚は、エンジェによるテオバルトへの嫌がらせだった。
それを知ったマルフィナはテオバルトに同情し、少しでも彼が報われるよう努力する。
だがテオバルトはそんなマルフィナを、徹底的に冷たくあしらった。
その後あるキッカケで美しくなったマルフィナによりエンジェは自滅。
その日からテオバルトは手のひらを返したように優しくなる。
だがマルフィナが新婚時代に受けた仕打ちを、忘れることはなかった。
【完結】聖女の私を処刑できると思いました?ふふ、残念でした♪
鈴菜
恋愛
あらゆる傷と病を癒やし、呪いを祓う能力を持つリュミエラは聖女として崇められ、来年の春には第一王子と結婚する筈だった。
「偽聖女リュミエラ、お前を処刑する!」
だが、そんな未来は突然崩壊する。王子が真実の愛に目覚め、リュミエラは聖女の力を失い、代わりに妹が真の聖女として現れたのだ。
濡れ衣を着せられ、あれよあれよと処刑台に立たされたリュミエラは絶対絶命かに思われたが…
「残念でした♪処刑なんてされてあげません。」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる