調律協定~王女、司書になる~

四季の二乗

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戦争の負け方

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 第一小隊が先陣を切る。
 統率された狩人たちの背中を見届けながら、装備をもう一度確認した。
 ……用心は、越したことがない。

 現在、村は調律協定の私有地として完全に切り離されている。
 一キロ先の農地まで完全に閉鎖されており、周りには石垣と鉄格子に守られ十数人規模の現地職員によって管理運営されている。
 この国の政府としても、汚点の管理を他人に擦り付けるのは都合が良かったのだろう。

 雑草だらけの区画内へ入ると、重々しい扉が閉じる。
 無事に帰る保証は、何処にもない。

 覚悟を決めて、私達は先を急いだ。

「こちら、”プラットホーム”。隊長、報告を」
『RM1だ。周囲は未知のツタで覆われており視界が悪い。潜入口を捜索しているが、葦タイプに阻まれている。
 未確認の植物が家々に張り巡らされている。接触時スーツに異常は見られないが、先程実験用マウスを放った所侵食性が確認された。入り口の其れと同様の物だと思われる。接触の際は、細心の注意を払え』
「了解、道標は?」

 特注のスーツは、視認性が悪く動きがとりづらい。七人の護衛集団が前方と後方に分かれて前進を続ける。
 彼らの歩幅は大きく、その小さな体は私よりも身軽だ。
 動きずらいその服を身に着けていてもそれは変わらない。
 其れに遅れないように、息を上げながら体を動かす。

 血の味を味わいながら、鈍い私はソレに続いた。
 どんくさい自分が、何時も嫌いになる。

『すでに塗布してある。現在伐採作業を続けているから、偵察行為が遅れている。博士も無理をするなよ。この異常に対して、あんたの不死性は致命的な筈だ』
「分かってますよ。__この先の、村長宅へと向かいます」
『了解。先導を再開するぞ』

 数キロ前進し、ようやく目的地へと到着した。
 村の入り口には、赤赤しい植物がツタの様に張り巡らされていた。脈打つような幻覚を見せる程、その植物は通常ではない。
 先に到着した先遣隊が残したのだろう。青く光る蛍光色が、村の奥へと続いている。確認をした隊員が、周囲を警戒しつつ前進を開始。
 少しばかり肺を落ち着け、私も後へ続く。

 木構造の建築物はここら一帯では珍しくない建築法であり、道がらの途中には少し前まで生活していたらしい痕跡がまだ残っていた。
 異常空間の可能性が捨てきれない現在、この辺り一帯を詳しく調べる事よりも、直接的な物証を得ることが確実である為歯痒い思いも捨てきれない。
 死体や生存者を確認する事も無く、この村は十日前で止まっている。

 不思議なのは、そんな状態だというのに昆虫は沸いて、ハエが飛んでいるという事だ。この植物は昆虫には作用しない様で、明確に遮断している防護服は悪臭を緩和していると思われる。

『RM2、周辺の状況を』
「クリア。敵性存在の確認はできない」
『こちらは村南東地点23へ到着。報告を忘れるな』
「こちらは21へと進行中。目立った動きは見られない、心配するなよ隊長」
『そういった油断をするなといっている』

 人型タイプの存在は確認できない。
 静寂の中に、風の音と葦が揺れる音だけが響く。その中には、不気味な気配が漂うのだけれど。それでも今は異常は見られない。
 今は。

『ミーティング通りだ。植物共は可燃性が強く、周囲の家等に燃え移る可能性が高い。火器を使う際には十分に注意しろ』

 強いて言うのなら、点在する蘆の群生が奇妙な形をしていた。
 その群生は、普通の葦にしては赤みがかって見える。
 人が管理していないこの場所で、なぜ葦は”人の形”を象るように群生している?
 それ以外には、草の一本も生えていないというのに。

 それは、単純な話で。
 タイプβと呼ばれるそれら全てが、人の死体であるからだ。

 この村は、沢山の墓標の巣窟という訳だ。

『家に到着。座標108.20、植物の幹に血痕らしき跡がある。攻撃性のある個体がある模様、注意せよ』
「108.20、了解しました。第一小隊は現状を維持。第二班到着まで周辺を索敵してください」
『了解ですよ。植物観察に勤しみます』
『私語は慎め、RM3。プラントホーム、索敵を行いながら待機する』

 小人達が警戒する中、第一小隊により整備されたとはいえ未だ残る葦のような植物の間をかき分ける。
 視界は開けた。
 其処には外壁を侵食され、所々石が落ちている少し大きめの家が見えた。それが村長宅であるのは間違いないだろう。定時連絡に乗せた位置座標も、先行部隊が通信を行った通りだ。
 どうやらここを発生源として植物はが生い茂ったらしい。進むごとに深くなる植物の壁の中心にはこの世界でも類を見ないモノで溢れていた。

 そこに、見知った影を見る。
 こちらが手を振ると、彼らは銃を下ろし手を揚げて答えた。

「一時間ぶりですね」
「無事だな、お姫様」
「五体は満足ですよ。ちょっと息が苦しいですけど」

 如何やらRM1達は早々に周囲の草花を切り倒し、ある程度の侵入光を模索していたようだ。積みあがった彼らの背丈の何倍もの雑草を横目に、これからの事を考える。
 村の地図によればこの村長宅は七つの部屋に分かれており、子供部屋が一つづつ。夫婦の寝室とキッチンを覗けば母屋から離れた家が一つ。執務室というどうにも怪しい部屋が離れにある。離れへの道は繋がっているようだが、まずは母屋への探索を終わらせたい。
 というのも、ガラス越しから見ればこの邸宅の室内には植物が押し寄せていない。もしかすると植物を無効化する手段があるのかもしれない。何より、術者が生きている可能性がある。

「中に入れそうにありませんか?」
「入り口は鍵が掛かっているな。それと、ツタが絡まって開けるのは難しい」

 裏口を探そうにも植物が邪魔で動けない……と。あまり長居したくはない場所だ。
 しかし先程の血痕はどうやら家の中まで続いているようだ。浅黒くない、それは中の人間が生きている可能性がある事を示している。生存者の可能性がある。その言葉に、緊張が走る。

「この手記の化け物は、ページごとに違います。だから、酒場での連中とこの事態を起こした人は違う」
「だけど、カフカさん。確か、紙片は所々に撒かれているのでは?」

 緑の売人は植物図鑑のような手記であると説明したが、それ故にページに現存する植物の種類とその特性は此処によって違う。人型の植物はその中でも異質な部類の代物だ。そう何枚も現存しているのはおかしい。だからこそ、この事態はコピーされた紙片による状況と考えられている。

「__だからそもそも、紙片が出回っているのも不思議なんですよね。副官が植物人間を量産しているのは分かるんですが、それ以外に、同じ紙片をバラ撒いている人間がいる。まあ、”人型”は人間社会にとって致命的なガンですからね。志を受け継いだ愚か者がいても不思議ではない」
「誰かが同じぺージの紙片を量産していたって事ですか?」
「少なくとも、”植物共”を気に入っている奴がいるみたいだな」
 
 雑談を程々に、RM1が口を開く。
 進入路に対しては窓を破るよりも入り口から侵入をした方がいいという事になった。

「肝心の進入路だが、家の中を確認した所中まで侵食はされていない。だから蝶番を外せば普通に侵入は可能だろう。カギは掛かっているようだがな」
「マスターキーはありますか?」
「此方に。姫殿下」

 RM4が携帯しているのは、ポンプアップ式のショットガン。
 非常時の際に、鍵として使用できる。


「では、御邪魔しましょう」
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