調律協定~王女、司書になる~

四季の二乗

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地下からの脱出

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『地下は異常なし、生存者も確保しました』
「了解、速やかに此処を離脱します」

 報告を受けた私達は、速やかに建物を脱出する。
 途中彼を襲ったと思われる植物との小規模な戦闘はあったが、特に問題なく通る事は出来た為割愛。
 四名の隊員が担架を持ち、地下室があるという小屋へと急ぐ。その間、RM1が前方を警戒しているが戦力は低い。速やかなこの村からの脱出が望ましいだろう。

 小屋に入ると、うけたしじどうようの石畳の階段が見えた。警戒しながら奥へと進めば、其処には水路がある。地層が露出している粗末なものであるが、中は思った以上に広い。それに水辺は如何やら腰の高さ程度まであるようで、透き通った水が水面で泳ぐ魚を写す。

 しかしその透明度であるにもかかわらず、何処か腐敗臭が漂っている。
 君が悪い所だ。先遣隊は合流している様で、発光マーカーの後が続く。

 水路は迷宮の様になっており、隔てられた陸路と水路が蛇の様に蛇行を繰り返していた。しかし、方角と地下水路の地図があれば迷う事は無い。

『生存者は極度の脱水に見舞われています。通路横に倒れていた所を捕獲。何かに追われていたようです』
「接触の際は注意を。運べそうですか?」
『何とか頑張ります。専門科じゃあないですけど』
「可能なら私が背負います。今の場所は?」
『108.22』
「了解です。こちらの明かりが見えますか?」

 何度か道を曲がれば、見知った小人達と負傷した彼女が見えた。
 年齢は十歳前後だろう。小さな少女は、周りを警戒している小人達に気付く様子も見せず項垂れている。意識がハッキリとしていない様だった。

「見えました、博士」
「私が背負います。とにかく脱出しましょう」

 私が手を差し伸べると、彼女は瞳を此方に向ける。
 混濁している意識から藻掻くように、震える手を差し伸べた。

 その時だ。

 水辺から何かが上がるような音が聞こえた。鋭敏な兵士たちが其方に銃を向ければ、見た事が無い異形がそこに居る。私は彼女を抱き寄せ、その異形から離れた。
 次の瞬間、兵士に目もくれずこちらに向かってきた異形。その身体は人間の其れと何にも変わりないが、頭が触手に覆われている。

「__水路中!敵性生物!!」
「っち!!」

 銃口から放たれた弾丸が、その生物を貫いていく。
 しかしそれを物ともせず、彼は手を伸ばしてくる。

「負傷者を下がらせて!RM1、RM3行けます?」
「誰に言っている。お姫様」
「任せな」

 呼ばれた兵士が、次々と起き上がる触手共と交戦。
 銃弾の雨を浴びせ、それでも倒れない触手共を彼らは的確に殺していく。死屍累々、しかしこちらも負傷者がいる。団体客と戦い続けるには物資も心許ないだろう。

「十三体目です!」

 自ら上がった怪物は、その異臭を撒き散らしながら此方へと向かってくる。
 髭の様な触手が伸びるが、それを躱したRM3が腕を裂き水路の壁に叩きつける。アサルトライフルの咆哮が怪物の胴体に風穴を空かせ、RM4が携行していたショットガンを放り投げた。

「任せろ」
 
 RM3が受け取ったショットガンで頭を潰す。
 吹き飛ばされた残骸が水路へと落ち、怪物はその衝撃で倒れる。僅かに動く触手の塊にさえ慈悲は無く、冷徹なその指が対象を吹き飛ばした。何度かの銃声で、対象は完全に動きを止める。先程まで他の物を相手にしていたRM1も終えたようで、水路から上がった彼らは空のマガジンが乾いた音を発した。

「クリア」
「こっちもだ。クソッタレ植物じゃないな」
「他の奴も居るかもしれません。周辺の警戒をお願いします」
「植物共よりはマシか?」
「どうでしょうね?何とも言えませんが」

 水生生物の様な見た目。要はタコ人間
 しかし現存の人間という訳ではなさそう。地下水路は閉鎖されていたようだが、これが関係するのだろうか?ならば一刻も早くここから立ち去らねば余計な犠牲を生む可能性が出ている。
 そうではなくてもこの悪臭に長時間居るのは衛生上良くはない。

 息を切らしながら進めば、水面の向こう側が反射している事が分かった。
 出口はもう少しだ。そう思えば、自然と足は速くなる。

 後方からは、先程倒したような人間モドキの咆哮と足音が近づいてきた。
 先に離脱した負傷者搬送組が、合流地点である地点に急がせる。迎えは如何やらまだ来ない様だ。

『こちら、キーパー。合流地点に到着。現状を報告せよ』
「キーパー。こちらプラットホーム。地下通路からの通信が回復しました。現在、負傷者二人と魔術書の回収に成功。さらに、証拠物件をいくつか入手しています。こちらは村を出ましたが、職種の化け物に追われています。航空支援を要請します」
『了解、王女陛下。プラントホームの支援に入る』

 ローター音とともに現れたのは、一機のヘリコプター。
 ”ブラックホーク”汎用ヘリの一種だ。
 
『団体さんで連れてきたのか?』
「薙ぎ払っちゃってください!!」
『仰せのままに、ファイア』

 キーパーの声と共に放たれた対戦車用ミサイルが、触手共を爆散させていく。
 肉片が皮を汚していき、煙が晴れた後には何も残らなかった。
 仕事を終えたキーパーが降下し、ヘリは待機状態にはいった。負傷者二名を載せたヘリが飛び立とうとした瞬間、定刻通りに爆発が起きる。
 一切合切跡形もなく消し飛ばすという連絡はしていたのだが、これに少し引いた声音でキーパーが答えた。

『おいおい、王女様。パーティーやるなんて聞いていないぞ?』
「すみません。生憎、時限式でしたので」

 そう言う話ではないと、彼は付け足す。

『ま、いいけどよ。こちらキーパー、支援完了。後片付け部隊は五分後に到着だそうだ。帰るぞ、野郎共』
「二人を宜しくお願いします。我々は徒歩で帰ります」
『王女様の特等席はあるが?』
「たまには運動をしなければなりませんので」
『おっと、女性に聞いちゃいけねぇ奴か。んじゃ、おじさんは退散する事にするぜ。キーパー、アウト』


 飛び立った黒い鳥に手を振り終え。私は隣人たちに聲をかける。
 今日はいろいろあって疲れた。せっかくの休日が仕事として消えた分は、旅行として楽しむ事にしよう。

 だから。

「では皆さん。残りの旅行を楽しみましょう」




 今は、これでと言う様に。
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