VS お義母さん

沢麻

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戦力となれる喜び、必要とされる喜び(猫の手でも借りたい子育て)

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 「茅森さん、三つ葉保育園からお電話です」
 杏奈はぎょっとした。仕事復帰してまだ四日である。まさかもう熱が? 恐る恐る電話に出た。
 「瑠璃夏ちゃん三十九度の熱です。お迎えお願いします」
 三十九度! 今までそんな高熱は出たことがない。杏奈は時計を見た。午後二時。道子に頼む時間帯である。そのまま道子に電話する。
 「えっ三十九度? 大変だわ」
 「お義母さん迎えに行ったらそのまま小児科にかかってもらえますか?」
 「わ、わ、わかったわ……」
 ……。大丈夫だろうか。この間一応小児科に行くパターンも道子と練習したが……。道子に買い与えた自転車のチャイルドシートは、一応腰が据われば乗れるガッチリ固定タイプなのだが、元気な時ならいざ知らず、ギリギリ腰が据わったばかりで熱のある瑠璃夏は乗れないのではないだろうか。タクシーで行ってくれ。タクシーで。杏奈は道子にメールしたが、メールとは既読がつかないので確認してくれたかわからないし、更に道子は携帯を携帯しないタイプでかなり怪しい。あぁ心配。道子は頭数には数えているが、こんな時はやはり杏奈でなければならないのでは。杏奈は周囲を見渡すが、子供が熱で帰るなどと言うと露骨に嫌みな態度を取りそうなメンバーがよりにもよって勢揃いしている。更に復帰にあたり、「午後の呼び出しは義母に行ってもらいます」などと上司にどや顔で言ったばかり。ああぁ。しかもこれから会議である。
 
 胸が張り裂けそうになりながら定時を迎え、別部署の和馬と家路についた。道子は経過を報告してくれないので、ものすごく不安である。今どこにいるのか。病院には行けたのか。
 車の中で道子に電話するが、携帯していないようで出ない。
 「まだ病院にいるのかな? どうして電話に出ないのかな」
 「連絡ないってことはうまくやれたんじゃないの? 母さんに任せたんだから信じようよ」
 和馬はのんきに鼻歌など歌っている。なんて奴だ。
 「ちょっと急いでよ」
 「はいはい」
 杏奈は再度道子に発信したが、音沙汰はない。
 やっとの思いで家に着くと、明かりが灯っていてほっとした。杏奈は玄関を蹴破る勢いで中に入った。
 「るりちゃん!」
 「?」
 瑠璃夏は真っ赤な顔はしているが、元気に座っておもちゃで遊んでいる。
 「るりちゃん、大丈夫だった? あら熱いねぇ」
 杏奈は瑠璃夏に駆け寄り抱き締めると、道子を見た。
 「お義母さん電話出てくださいよ! 心配したー!」
 「あら、ごめんなさい。マナーモードにしてたわ」
 道子は今携帯を確認している。遅い。
 「病院行ったんですよね?」
 「行ったわよ。風邪だって。お薬も貰ってきたから」
 道子はにっこりして、台所の方へ行った。
 つ、使える。ちゃんとこなしている。
 「お義母さん、ありがとうございました」
 杏奈は道子に向かって声をかけた。 
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