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大輔(万恵パパ)②
②
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「あっ結だ!」
十時ちょうどにインターホンが鳴ると、万恵が玄関にダッシュした。万恵は「まだかなあ、まだかなあ」と起きた瞬間から言っていて、待ちくたびれていたところだ。
「万恵!」
「結!」
二人は玄関で抱き合うと、結ちゃんは靴を放り出して二階の万恵の部屋に駆けていった。どうやら保育園でおもちゃの見せ合いをしようと約束していたようだ。結ちゃんもガチャガチャ音がするリュックを背負っている。
「ちょっと靴! あ、お邪魔します」
美穂ちゃんが続いて笑顔で入ってきた。可愛い。いつも履いていないデニムなんて履いている。脚が長くて似合う。
「車、路駐で大丈夫ですか?」
「うんうん、あとでうちのやつが帰って来たとき停められそうかな?」
「あ、スペースあけました」
「オッケー」
お土産にお菓子をもらい荷物を置いてもらうと、大輔と美穂はリビングに取り残された格好になった。子供達は上で盛り上がっているようで、笑い声が聴こえる。
「えーと……」
こういう時、どうしたらいいんだろう。ピザを焼くには早いし、美穂ちゃんと雑談してていいんだろうか。
「コーヒーでも飲む?」
「あ、いただきます……ていうか、子供達の様子見に行かなくても大丈夫ですか?」
「あっそうか」
なるほど。こういう時は子供達のところで親は待機するのだな。大輔はコーヒーを仕込むと美穂ちゃんを連れて万恵の部屋に行った。掃除が甘くないだろうか? 二階で美穂ちゃんといることは想定していなかった。一方美穂ちゃんはじっくりと家を見回している。なんだか恥ずかしい。万恵と結ちゃんは偶然同じおもちゃを持っていたようで、親などそっちのけで遊んでいる。
「素敵なおうちですね」
ふいに美穂ちゃんが言った。
「いやいや、俺もうちの奴も全然こういうの疎いからよくわからんまま分譲買ったんだよ。子供も一人しかいないから将来部屋余るよね」
大輔の家は4LDKである。どさくさに紛れて子供が一人なことを愚痴っている自分がいた。美穂ちゃんは子供達についている必要はないと思ったのか、階段を降り始めた。
「まだ増えるかもしれないじゃないですか。奥さんお若いんでしょ?」
「それがあんな童顔なのにもう三十五だからね。って、俺もだけど」
「えぇ嘘でしょ? すごく二人とも若く見える。私のほうが上だと思ってたら、二個下でした」
「あ、三十三なんだね。美穂ちゃんの方こそ二人目がそろそろかな」
「え」
あ、ヤバい。つい美穂ちゃんと。
しかし訂正するのもあれなので、大輔は慌ててコーヒーを注ぎに行った。熱いから気を付けて、と渡す時さりげなく美穂ちゃんの表情を確認したら、なんだか暗い顔をしていた。やっちまったか。
「……私、四歳差で二人、欲しかったんですよね。もう無理ですけど」
美穂ちゃんは苦笑いをした。あぁ、しまった。子作りはデリケートな問題なんだ。軽々しく言ってはいけないんだ。大輔だってセックスレスに死ぬほど悩んでいるではないか。微妙な空気を打破したくて、大輔はつい誰にも言えなかったことを言ってしまった。
「いやーわかるよ。ごめんね。俺だって二人目ほんとは死ぬほど欲しいんだけど、うち産後からずっとないんだよね。ほんっと辛いわ。でも今更言い出せなくてさ」
十時ちょうどにインターホンが鳴ると、万恵が玄関にダッシュした。万恵は「まだかなあ、まだかなあ」と起きた瞬間から言っていて、待ちくたびれていたところだ。
「万恵!」
「結!」
二人は玄関で抱き合うと、結ちゃんは靴を放り出して二階の万恵の部屋に駆けていった。どうやら保育園でおもちゃの見せ合いをしようと約束していたようだ。結ちゃんもガチャガチャ音がするリュックを背負っている。
「ちょっと靴! あ、お邪魔します」
美穂ちゃんが続いて笑顔で入ってきた。可愛い。いつも履いていないデニムなんて履いている。脚が長くて似合う。
「車、路駐で大丈夫ですか?」
「うんうん、あとでうちのやつが帰って来たとき停められそうかな?」
「あ、スペースあけました」
「オッケー」
お土産にお菓子をもらい荷物を置いてもらうと、大輔と美穂はリビングに取り残された格好になった。子供達は上で盛り上がっているようで、笑い声が聴こえる。
「えーと……」
こういう時、どうしたらいいんだろう。ピザを焼くには早いし、美穂ちゃんと雑談してていいんだろうか。
「コーヒーでも飲む?」
「あ、いただきます……ていうか、子供達の様子見に行かなくても大丈夫ですか?」
「あっそうか」
なるほど。こういう時は子供達のところで親は待機するのだな。大輔はコーヒーを仕込むと美穂ちゃんを連れて万恵の部屋に行った。掃除が甘くないだろうか? 二階で美穂ちゃんといることは想定していなかった。一方美穂ちゃんはじっくりと家を見回している。なんだか恥ずかしい。万恵と結ちゃんは偶然同じおもちゃを持っていたようで、親などそっちのけで遊んでいる。
「素敵なおうちですね」
ふいに美穂ちゃんが言った。
「いやいや、俺もうちの奴も全然こういうの疎いからよくわからんまま分譲買ったんだよ。子供も一人しかいないから将来部屋余るよね」
大輔の家は4LDKである。どさくさに紛れて子供が一人なことを愚痴っている自分がいた。美穂ちゃんは子供達についている必要はないと思ったのか、階段を降り始めた。
「まだ増えるかもしれないじゃないですか。奥さんお若いんでしょ?」
「それがあんな童顔なのにもう三十五だからね。って、俺もだけど」
「えぇ嘘でしょ? すごく二人とも若く見える。私のほうが上だと思ってたら、二個下でした」
「あ、三十三なんだね。美穂ちゃんの方こそ二人目がそろそろかな」
「え」
あ、ヤバい。つい美穂ちゃんと。
しかし訂正するのもあれなので、大輔は慌ててコーヒーを注ぎに行った。熱いから気を付けて、と渡す時さりげなく美穂ちゃんの表情を確認したら、なんだか暗い顔をしていた。やっちまったか。
「……私、四歳差で二人、欲しかったんですよね。もう無理ですけど」
美穂ちゃんは苦笑いをした。あぁ、しまった。子作りはデリケートな問題なんだ。軽々しく言ってはいけないんだ。大輔だってセックスレスに死ぬほど悩んでいるではないか。微妙な空気を打破したくて、大輔はつい誰にも言えなかったことを言ってしまった。
「いやーわかるよ。ごめんね。俺だって二人目ほんとは死ぬほど欲しいんだけど、うち産後からずっとないんだよね。ほんっと辛いわ。でも今更言い出せなくてさ」
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