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第18話 魔王をぶっ飛ばすためにアリスは空を飛ぶ
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ゆっくりと目を開けると目の前にはどこか見覚えのある顔があった。フードの影ではっきりとは見えないけど、とても綺麗な女性が私の顔を覗き込んでいた。
「気がついた? アリスちゃん、だったよね?」
「あなたは……確かあの時の……」
「そういえば名乗ってなかったわね。私はシンシア。シンシア・ブラックよ。まだどこか痛む?」
全身黒づくめの怪しい風貌だけど、彼女の声はとても優しく穏やかだった。私の体をあちこち擦りながら心配そうな顔をしていた。
「痛みなんてまったくないです。むしろ体が軽くて、たっぷり寝た後みたい」
あまりに私がけろりとしているもんだから、彼女は思わずクスっと笑った。それからすぐに「あら?」っと軽く首を傾げた。
「あのペンダントが見当たらないけど……」
「ああ、あれなら捨てちゃいました」
「捨てた!? どうやって?」
「引きちぎってポイって。勝手に捨ててごめんなさい」
私がぺこりと頭を下げるとシンシアさんは声を立てて笑い出した。
「いーの、いーの! 気にしなくて! あれはあなたのお父さんに依頼されてやったことだから。でもかなり強い制限魔法を付与してたんだけどねぇ。相当な魔力の持ち主だとは思ったけど、まさかここまでとはね……おっと、そんな事より今はあっちだね」
シンシアさんが立ち上がりフードを外した。彼女の視線を追うと、騎士団と魔王が激しい戦闘を繰り広げていた。
「足止めしてくれているみたいだね。魔王相手に立派だ。立てるかい? アリスちゃん」
シンシアさんが差し出した手をぎゅっと握る。彼女はニコリと笑って「よいしょ」と私の手を引っ張った。
「じゃあ思いっきりやっておいで。なんかあった時は援護するから」
シンシアさんの言葉に私はコクリと頷いた。吹き抜ける風が、優しく私の頬を撫でた気がした。
「では行きます! 風の羽!」
丘を駆け下りた時のように私は強く大地を蹴った。私の体は一瞬で空へと舞い上がり風とひとつになる。速度を一気に上げると魔王への距離がみるみる縮んでいった。
「みなさーん!! 引いてくださーい!!」
声を風に乗せてみんなの元まで届けた。その声に気づいた騎士団長らしき人がなにかを叫ぶと、皆が一斉にその場を離れた。
こちらに振り向いた魔王と視線が交差した。その目は激しく怒り狂い、私を射殺さんばかりだ。そして両手を掲げすでに魔法を放つ体勢を取っていた。でも速さだったら絶対負けない。
「暴風波!!!」
風の斬撃が幾重にも絡み合いながら一つの塊となって飛んで行く。魔王が放つよりも早く私の風魔法が届いた。慌てて振り下ろした爆炎と暴風がぶつかり激しい爆発を起こす。炎と煙が立ち込めるその灼熱の中へ、私は一気に突っ込んだ。
うねりをあげる炎を抜けると、そこには驚愕した表情の魔王の姿があった。私は思い切り腕を振りかぶり、自分の拳に風を纏わせた。
「さっきのお返し!!!!」
渾身の力を込めて魔王の顔面を殴りつけた。めりっと音を立てて魔王の顔が歪み、そして竜巻に巻き込まれたかのように回転しながら魔王は吹き飛んだ。
「念には念をね」
いつの間にか後ろにいたシンシアさんが杖を掲げた。眩い光が魔王を照らしたかと思うと、瞬く間に黒い霧となり風に流され消えて行った。
「すご……」
思わずびっくりしてシンシアさんを見ると彼女はふふんと鼻を鳴らした。
「これでもザリンガでは有名な魔法使いなのよ。ところでアリスちゃん――」
彼女はふわふわと飛びながら私に近づいた。そして弾けるような笑顔を浮かべながら私をぎゅっと抱き締めた。
「見事な魔法だったよー! 私が見た中でも一番の風魔法使いだ! 是非私の弟子にならない?」
「えへへ」
嬉しくて思わず照れ笑いが出てしまう。思えばマーカス以外の人に褒めてもらうのは初めてかもしれない。今まで私がどんなに頑張っても誰もこんな風に私を褒めてくれた事なんてなかった。そしてこんなに自由に、自分の想いのままに魔法を使えた事がなにより嬉しかった。
見渡せば、いつの間にか空はすっきりと晴れ渡っている。そして共に喜んでくれているかのように、心地良い風が私の髪を撫でていた。
―――――――――――――――――――
やはり多少のネタバレになってしまいそうなので最初のタイトルに戻しました。
何度も変更して申し訳ありません。
「気がついた? アリスちゃん、だったよね?」
「あなたは……確かあの時の……」
「そういえば名乗ってなかったわね。私はシンシア。シンシア・ブラックよ。まだどこか痛む?」
全身黒づくめの怪しい風貌だけど、彼女の声はとても優しく穏やかだった。私の体をあちこち擦りながら心配そうな顔をしていた。
「痛みなんてまったくないです。むしろ体が軽くて、たっぷり寝た後みたい」
あまりに私がけろりとしているもんだから、彼女は思わずクスっと笑った。それからすぐに「あら?」っと軽く首を傾げた。
「あのペンダントが見当たらないけど……」
「ああ、あれなら捨てちゃいました」
「捨てた!? どうやって?」
「引きちぎってポイって。勝手に捨ててごめんなさい」
私がぺこりと頭を下げるとシンシアさんは声を立てて笑い出した。
「いーの、いーの! 気にしなくて! あれはあなたのお父さんに依頼されてやったことだから。でもかなり強い制限魔法を付与してたんだけどねぇ。相当な魔力の持ち主だとは思ったけど、まさかここまでとはね……おっと、そんな事より今はあっちだね」
シンシアさんが立ち上がりフードを外した。彼女の視線を追うと、騎士団と魔王が激しい戦闘を繰り広げていた。
「足止めしてくれているみたいだね。魔王相手に立派だ。立てるかい? アリスちゃん」
シンシアさんが差し出した手をぎゅっと握る。彼女はニコリと笑って「よいしょ」と私の手を引っ張った。
「じゃあ思いっきりやっておいで。なんかあった時は援護するから」
シンシアさんの言葉に私はコクリと頷いた。吹き抜ける風が、優しく私の頬を撫でた気がした。
「では行きます! 風の羽!」
丘を駆け下りた時のように私は強く大地を蹴った。私の体は一瞬で空へと舞い上がり風とひとつになる。速度を一気に上げると魔王への距離がみるみる縮んでいった。
「みなさーん!! 引いてくださーい!!」
声を風に乗せてみんなの元まで届けた。その声に気づいた騎士団長らしき人がなにかを叫ぶと、皆が一斉にその場を離れた。
こちらに振り向いた魔王と視線が交差した。その目は激しく怒り狂い、私を射殺さんばかりだ。そして両手を掲げすでに魔法を放つ体勢を取っていた。でも速さだったら絶対負けない。
「暴風波!!!」
風の斬撃が幾重にも絡み合いながら一つの塊となって飛んで行く。魔王が放つよりも早く私の風魔法が届いた。慌てて振り下ろした爆炎と暴風がぶつかり激しい爆発を起こす。炎と煙が立ち込めるその灼熱の中へ、私は一気に突っ込んだ。
うねりをあげる炎を抜けると、そこには驚愕した表情の魔王の姿があった。私は思い切り腕を振りかぶり、自分の拳に風を纏わせた。
「さっきのお返し!!!!」
渾身の力を込めて魔王の顔面を殴りつけた。めりっと音を立てて魔王の顔が歪み、そして竜巻に巻き込まれたかのように回転しながら魔王は吹き飛んだ。
「念には念をね」
いつの間にか後ろにいたシンシアさんが杖を掲げた。眩い光が魔王を照らしたかと思うと、瞬く間に黒い霧となり風に流され消えて行った。
「すご……」
思わずびっくりしてシンシアさんを見ると彼女はふふんと鼻を鳴らした。
「これでもザリンガでは有名な魔法使いなのよ。ところでアリスちゃん――」
彼女はふわふわと飛びながら私に近づいた。そして弾けるような笑顔を浮かべながら私をぎゅっと抱き締めた。
「見事な魔法だったよー! 私が見た中でも一番の風魔法使いだ! 是非私の弟子にならない?」
「えへへ」
嬉しくて思わず照れ笑いが出てしまう。思えばマーカス以外の人に褒めてもらうのは初めてかもしれない。今まで私がどんなに頑張っても誰もこんな風に私を褒めてくれた事なんてなかった。そしてこんなに自由に、自分の想いのままに魔法を使えた事がなにより嬉しかった。
見渡せば、いつの間にか空はすっきりと晴れ渡っている。そして共に喜んでくれているかのように、心地良い風が私の髪を撫でていた。
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やはり多少のネタバレになってしまいそうなので最初のタイトルに戻しました。
何度も変更して申し訳ありません。
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