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第3話 級友の突然死
①大学ラグビー選手権大会準決勝戦のことだった
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それは全国大学ラグビー選手権大会トーナメントの準決勝戦、ハーフタイム五分後のことであった。
ハーフラインの十ヤードほど手前でスクラムは激しく揉み合い、味方のスクラムが完全に潰されて、ボールは敵のバックローセンターから左のロックに移った。起き直った味方のフォアードが敵のボールを追って走り出したとき、グランドの上に達哉だけが倒れたまま蹲って残った。彼は味方のチームメイトが走った方向へ自分もボールを追って走ろうと意図したが、全く身体が動かなかった。立ち上がるどころか手足の感覚が全く無く、首から下がピクリとも動かない。
おかしいな!俺の身体、どうかなったかな!これはヤバイかも!達哉は慌てた。
そして、暫く石のように動かなかったが、やがてゆっくりと低く崩れて転がった。
気づいたレフェリーがホイッスルを吹いた。
走り寄ったチームメイトが上から覗き込んで声を掛けた。
「おいッ!どうした!大丈夫か?」
彼等は口々に訊ねた。
「変なんだ。首から下の感覚がまるで無い。俺の身体、ちゃんとくっ着いているか?」
数人が抱えて起こしかけた時、達哉の首がぐらりと揺れてのけぞった。
「駄目だ。寝かせろ、そっとだぞ!」
キャプテンの佐藤が言った。
寝かされた達哉は仰向いたまま、手を動かそうとしたが、動かなかった。手だけでなく身体全体が意思に反して全く動かない。
佐藤が彼の手足や胴を数箇所押しては尋ねた。
「どうだ?」
達哉は何も感じなかった。顔中の眼や唇や小さな筋肉は絶え間なく引きつったように動くのに、首から下の身体はピクリとも動かない。
「マネージャー、救急車だ、直ぐ呼べ!」
ベンチサイドに向かって佐藤が怒鳴った。
青い空に白い雲が浮いていた。初冬の空がこれほど抜けるように高く澄み切っているということに、達哉は初めて気づいた。
綺麗だな、と彼は心底、思った。
身体の苦痛は何も無かったが、心の中には言いようの無い不安が膨れ上がっていた。
救急車が呼ばれ担架に乗せられて達哉は救急病院へ搬送された。病院までの短い距離を閉ざされた車の中で仰向けに寝たまま達哉はじっと天井を見ていたが、知らぬ内に涙が滲んでいた。気づいて拭おうとしたが手が動かない。
「この野郎」「こん畜生!」達哉は思わず言っていた。
救急治療室に運び込まれて、強心剤が注射され、酸素吸入器での吸入が始まった。時折、達哉の胸の中を憤りのような感情が通り過ぎた。
達哉は高校生の頃、柔道部の友人が第三脊椎を骨折して首から下の全身が動かなくなり、即死はしなかったものの手の施しようが無く、二時間後に死んでいったのを看取っていた。
その日、達哉たちラグビー部員はグラウンドでタックルの練習に励んでいたが、急に体育館に人だかりがし出した。柔道部員が数人慌てて職員室の方へ走って行くのが見えた。
達哉たちも練習を中断して体育館へ駆けつけた。
床に敷かれた畳の上に、肌蹴た柔道着もそのままに友人が仰向いて、転がっていた。覗き込んだ達哉の目に、当人には未だ不可解の、恐怖に慄いた赤い炎の揺らめく、大きく見開かれた友人の瞳が飛び込んで来た。達哉は瞬間的に、そして、本能的に、これはもう駄目だな、と思った。
あれと同じだな、と今、達哉は思う。首から上だけはまともに話をし続けることが出来ても、後僅かな時間で、どうしようもなく死んで行かなくてはならないことを、達哉は覚った。
目を瞑ったまま達哉はこれまでの自分について、急いで、出来る限りの総てを思い出してみようと考えた。急がなくてはならない、どうしてもやらなければならない、自分の総てをもう一度整理して思い出さなければならない、と何かに急き立てられるように、思った。人間は、いつかはこれをしなければならない。そして、その機会が今なのだ、達哉はそう強いられているように思えた。が然し、迫ってくる何かに追われて、何故か、同じところを堂々巡りしているようで一向に前へ進まない。己が空転しているもどかしさばかりに捉われて、達哉は次第に慌てて来た。
俺は恐れているのか?何を恐れているのだ?
ハーフラインの十ヤードほど手前でスクラムは激しく揉み合い、味方のスクラムが完全に潰されて、ボールは敵のバックローセンターから左のロックに移った。起き直った味方のフォアードが敵のボールを追って走り出したとき、グランドの上に達哉だけが倒れたまま蹲って残った。彼は味方のチームメイトが走った方向へ自分もボールを追って走ろうと意図したが、全く身体が動かなかった。立ち上がるどころか手足の感覚が全く無く、首から下がピクリとも動かない。
おかしいな!俺の身体、どうかなったかな!これはヤバイかも!達哉は慌てた。
そして、暫く石のように動かなかったが、やがてゆっくりと低く崩れて転がった。
気づいたレフェリーがホイッスルを吹いた。
走り寄ったチームメイトが上から覗き込んで声を掛けた。
「おいッ!どうした!大丈夫か?」
彼等は口々に訊ねた。
「変なんだ。首から下の感覚がまるで無い。俺の身体、ちゃんとくっ着いているか?」
数人が抱えて起こしかけた時、達哉の首がぐらりと揺れてのけぞった。
「駄目だ。寝かせろ、そっとだぞ!」
キャプテンの佐藤が言った。
寝かされた達哉は仰向いたまま、手を動かそうとしたが、動かなかった。手だけでなく身体全体が意思に反して全く動かない。
佐藤が彼の手足や胴を数箇所押しては尋ねた。
「どうだ?」
達哉は何も感じなかった。顔中の眼や唇や小さな筋肉は絶え間なく引きつったように動くのに、首から下の身体はピクリとも動かない。
「マネージャー、救急車だ、直ぐ呼べ!」
ベンチサイドに向かって佐藤が怒鳴った。
青い空に白い雲が浮いていた。初冬の空がこれほど抜けるように高く澄み切っているということに、達哉は初めて気づいた。
綺麗だな、と彼は心底、思った。
身体の苦痛は何も無かったが、心の中には言いようの無い不安が膨れ上がっていた。
救急車が呼ばれ担架に乗せられて達哉は救急病院へ搬送された。病院までの短い距離を閉ざされた車の中で仰向けに寝たまま達哉はじっと天井を見ていたが、知らぬ内に涙が滲んでいた。気づいて拭おうとしたが手が動かない。
「この野郎」「こん畜生!」達哉は思わず言っていた。
救急治療室に運び込まれて、強心剤が注射され、酸素吸入器での吸入が始まった。時折、達哉の胸の中を憤りのような感情が通り過ぎた。
達哉は高校生の頃、柔道部の友人が第三脊椎を骨折して首から下の全身が動かなくなり、即死はしなかったものの手の施しようが無く、二時間後に死んでいったのを看取っていた。
その日、達哉たちラグビー部員はグラウンドでタックルの練習に励んでいたが、急に体育館に人だかりがし出した。柔道部員が数人慌てて職員室の方へ走って行くのが見えた。
達哉たちも練習を中断して体育館へ駆けつけた。
床に敷かれた畳の上に、肌蹴た柔道着もそのままに友人が仰向いて、転がっていた。覗き込んだ達哉の目に、当人には未だ不可解の、恐怖に慄いた赤い炎の揺らめく、大きく見開かれた友人の瞳が飛び込んで来た。達哉は瞬間的に、そして、本能的に、これはもう駄目だな、と思った。
あれと同じだな、と今、達哉は思う。首から上だけはまともに話をし続けることが出来ても、後僅かな時間で、どうしようもなく死んで行かなくてはならないことを、達哉は覚った。
目を瞑ったまま達哉はこれまでの自分について、急いで、出来る限りの総てを思い出してみようと考えた。急がなくてはならない、どうしてもやらなければならない、自分の総てをもう一度整理して思い出さなければならない、と何かに急き立てられるように、思った。人間は、いつかはこれをしなければならない。そして、その機会が今なのだ、達哉はそう強いられているように思えた。が然し、迫ってくる何かに追われて、何故か、同じところを堂々巡りしているようで一向に前へ進まない。己が空転しているもどかしさばかりに捉われて、達哉は次第に慌てて来た。
俺は恐れているのか?何を恐れているのだ?
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