【完結】エリート産業医はウブな彼女を溺愛する。

花澤凛

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ゴールデンなウィーク

お姉様襲来

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 今度はもっとゆっくりと帰省することを約束して夕方には東京に向かう新幹線に乗った。柾哉さんが私の肩にもたれかかりながら安堵の息をつく。

 「果穂が素直でいい子な理由わかったよ」
 「…そうかな?」
 「うん。ご両親もお姉さんもお兄さんも良い人だね」
 「家族仲は良い方だと思う。昔は喧嘩したこともあったけどね」
 「それぐらい普通だよ。温かくていい家族だなって思った。俺も果穂とそんな家庭を築けたらいいな、って」

 ナチュラルに結婚後の話をされて「うん」と頷きそうになって慌てた。さっき実家でもちゃんと伝えてくれたけど、まだ付き合って一ヶ月ほどなのに。

 「…私でいいの?」
 「なにが?」
 「まだ付き合って一ヵ月しか経ってないし」
 「そんなの関係ないよ。俺が果穂を望んで、果穂も俺を望んでくれるなら、時間なんて関係ない」
 「…うん」
 「医療の知識がなくてもいいし、病院関係者じゃなくてもいい。“福原果穂”であればいいんだ。俺はそのままの果穂が好きなんだから」

 もしここがベッドの中だったら人目を気にせず抱きしめられたのに。キスをねだってそれ以上、もっと、と彼に甘えられたのに。

 肩にもたれている彼を見つめる。
 「うん」と頷けば彼は目元に手をやった。

 「(まいった。早く帰りたい。……って思ったのは俺だけ?)」
 「……そんな」
 「明日仕事入れなければよかった」
 「ふふふふふ」

 時間じゃない、と柾哉さんは言う。
 望んで望まれればそれでいい、と。

 「(……私も早く帰りたい、です)」

 繋いだ手をキュッと握る。彼の耳元で囁けば、悔しそうな声が漏れた。

 「(次で降りてホテル探す?)」
 「(次って…長野から大宮まで止まらないよ)」

 私はごく普通のサラリーマン家庭の末っ子で生まれた。年の離れた姉と兄に可愛がれ、遅めにできた末娘のせいか、両親ともにあまり怒られた記憶はない。

 素直なのかどうかはわからないけど、少なくともあの両親の娘だから、単純ではあると思う。

 「(…柾哉さんが私と同じ気持ちで嬉しい)」

 ただそれだけで胸が苦しくなる。
 このまま誰もいないところまで攫ってほしい。柾哉さんの熱ですべて埋めるように、隙間なくきつく抱きしめてほしい。

 「果穂」って呼んでいつもみたいに「かわいい」って「俺の果穂」って甘やかしてほしい。

 「果穂以上に欲してると思うけど」
 「そこでどうして張り合うの」
 「「ははは(ふふふ)」

 顔を見合わせて笑って新幹線を降りてタクシーに乗ってもずっと手を繋いだままだった。

 

 柾哉さんのマンションに帰ってくるとそのままベッドへ…とは行かなかった。

 「柾哉」

 エントランスロビーで待っていた、ショートヘアの長身美女。彼女は柾哉さんに気づくなり気安い様子で声をかけた。

 「…俺、住所教えたっけ?」
 「母さんには教えてたでしょ?」
 「そうだけど」
 「ごめん、果穂。姉」
 「こんばんは。柾哉の姉の芳佳ヨシカです」

 まさかの修羅場?!と思っていたら柾哉さんのお姉さんだった。よくよく見れば何となく顔立ちは似ている気がする。

 「ふ、福原果穂です。初めまして」
 「そもそも連絡ぐらいしろ」
 「その連絡を無視したのは誰よ?」

 私の挨拶に被せるように柾哉さんが牙を剥いた。しかしあっさりとやり込められている。

 「私は別にいいのよ?柾哉が茅野ちゃんじゃなくても、誰と付き合おうが、結婚しようが。その代わり興味あるじゃない」
 「ない」
 「私があるのよ」
 
 芳佳さんが私を見て「にこり」と微笑んだ。
 その笑い方が初めて柾哉さんと会ったあの会議室の日を彷彿させる笑い方だ。

 「というわけで、飲みに行こう!」
 「行かない」
 「行くのよ」
 「今、彼女の実家から帰ってきたばかりなんだよ。察しろ」
 「夜勤明けで帰れると思ったら緊急オペが入ったの。その終わりに時間を割いてきたのよ?察しなさい」
 「頼んでない」
 「頼んでなくてもちょっとぐらいいいじゃない。ねぇ、果穂ちゃん」
 「そこで果穂に同意を求めるな。肯定しかできないだろうが」

 完全に姉と弟だ。
 私はふたりを眺めながら、まどかちゃんと優ちゃん(姉と兄)を思い出した。

 「あ、あの。柾哉さん、私はいいから」
 「果穂」
 「芳佳さん、ひとつだけ。柾哉さん、明日お仕事なので早めの解散をお願いします。芳佳さんもお疲れでしょうし」
 「もちろんよ!というわけでいきましょう!お腹空いたのよ~」

 芳佳さんがるんるん気分で先を歩く。
 私たちは今潜ったばかりの扉にUターンすると芳佳さんが好みそうな…ではなく、柾哉さんの独断と偏見で決めた店で食事することが決まった。

 
 いったい何を言われるのやら、と初めこそドキドキしていたけど、芳佳さんはただ純粋に私に興味があったらしい。

 「だって、柾哉の口から“大切にしたい人がいるから”なんて聞くとねぇ」
 「姉さん」
 「ずっと言ってるじゃない。私は柾哉が産業医になろうが、サラリーマンになろうが応援するって。好きにすればいいのよ」

 あっけらかん、と言い切った芳佳さんに私は目を丸くして驚いた。てっきり家族総出で柾哉さんの道に反対しているのかと思っていたから。

 「……よ、芳佳さんはどうして外科医になったんですか?」
 「ん?わたし?そうね…」

 芳佳さんは「うーん」と考えて、困ったように笑った。

 「特にやりたいことがなかったから、かな」
 「……やりたいことが、ない?」
 「うん。私ね、とても飽き性なうえ、器用だから何でもできるの。勉強も運動もある程度は」
 「ごめん、果穂。これ、素だから」

 絶句していると柾哉さんがフォローしてくれる。「本当のことでしょ!」と芳佳さんがプリプリと頬を膨らませた。

 「もちろん、父も祖父も外科医だったから、という理由もあるわよ?でも、それだけじゃ外科医ってやってけないわ。命ってふたつとないもの。すべての命に向きあって患者の命を救う。たとえ同じ症状で同じ手術でも違うものよ。言葉を選ばず言うと繰り返しがないから毎回新鮮なの。それが飽き性な私には合ってたわ」
 
 芳佳さんは唐揚げをつまみながらフフフと笑った。

 「ドエムだな」
 「あの良さが分からないなんて柾哉はお子ちゃまね~」
 「わかりたくもない。俺には俺の信じた医学があるから」
 「はいはい。というわけで果穂ちゃん?私は本当に柾哉が茅野ちゃんと付き合おうが果穂ちゃんを選ぼうがどっちでもいいの。30も過ぎた大人に口出しすることじゃないでしょう?柾哉が選んだ人なら家族になるから気になった。だってあの柾哉が『大切な人がいるから余計なことをするな』ってパパに釘を刺したのよ?フフフフフフ」

 隣をみれば柾哉さんの耳は真っ赤だった。きっと視線を感じているはずなのにこっちを見てくれない。
 
 「茅野ちゃんから協力要請がきたけどそれも私が口出しすることじゃないしね?」
 「…はぁ。余計なことを」
 「でも先に柾哉が連絡をブロックしたせいでしょう?」
 「いや、普通に鬱陶しいし」
 「自分が一番柾哉とつりあってるしって自信あったんでしょう?変なプライドばかり高いじゃない、あの子」
 「…姉さんは茅野のこと」
 「嫌いじゃないけど柾哉の嫁にはきて欲しくないかなぁ。まああなたたちは同僚色の方が強くて想像つかなかっただけだけど」
 「なんだ。姉さんは茅野のこと好きなのかと思った」
 「パパのお友達の娘だからね。下手に本音なんか言えないわよ」

 どこで誰が聞いているかわからないし、と芳佳さんは唇を尖らせる。

 
 つまり、この話を時系列に沿って並べてみると。

 「…柾哉さんが茅野さんの連絡をブロックして、茅野さんが芳佳さんに連絡をして」
 「そうね。同時に茅野ちゃんが茅野ちゃんパパに連絡してパパ繋がりでその話を聞いたパパが柾哉にチクリと連絡したら柾哉が実家に乗り込んできたの」
 
 …ん?

 今聞きづてならない言葉を聞いた気がする。

 「…え?柾哉さん、が?」
 「そうなのよ。なんでも事後報告で我が道をいく柾哉が果穂ちゃんのことだけはちゃんとパパに面と向かって啖呵切ったのよね」
 
 さっきからドキドキが止まらない。私のせいで喧嘩をさせてしまっているのに、それでも嬉しくて今すぐぎゅうって抱きつきたくなる。

 「…きっと果穂は気にすると思ったんだ。それに果穂の家は想像以上に仲のいい家族だったし」
 「そうなんだ。それでもう結婚の話でもしてきたの?」
 
 ちょっとそれは早過ぎじゃない?と芳佳さんは私を見て言った。
 
 「こ、今後同棲する流れになるかもしれないので、その報告と。…ゆくゆくはそのつもりでいるって両親にちゃんと伝えてくれました」
 「え。まじ?あらぁ」

 芳佳さんが口元に手をあててニヨニヨしている。

 「え。果穂ちゃん柾哉で大丈夫?頑固だし、変にいじっぱりだし、医学ばかだし」
 「仕事に対する姿勢は尊敬しています!そ、それにすごく、優しい、です」
 
 カァと頬が熱くなる。でも目を逸らせたら負けだと思って必死に前を向いた。

 「まぁ100点満点の回答!ちなみにどうして果穂ちゃんは柾哉がいいの?聞いてもいい?ってかお姉様に聞かせて?」
 「姉さん」

 前のめりになる芳佳さんを柾哉さんが嗜める。
 しかし。

 「き、聞いてもドン引きしないでくださいね?」
 「もちろんよ!可愛い義妹の言葉なら喜んで!」

 売られた喧嘩?は買う主義だ。だからこそ私は柾哉さんへの愛を語ることにした。

 だって、柾哉さんが将来を考えてくれていると知ったもの。それなら私だって頑張りたい。どれだけ柾哉さんがかっこよくて可愛くて素敵で。私がどれだけ甘やかされて幸せな日々を送っているかを芳佳さんに心を込めて演説した。

 「えぇー。何そのむずキュン話❤︎弟がそんなに甘い人だったなんてねぇ?いつも仏頂面してるのに」
 
 柾哉さんとの出逢いから今に至るまでをざっくりと話した。時々チラッと柾哉さんを見たけれど、彼は地蔵のように固まっていた。福原家ではあれだけ色々話をしていたのに、あの饒舌はどこにいったのか。

 「…ま、柾哉さんはかっこよさと可愛さと愛おしさを兼ね揃えたスーパー彼氏なんです!お仕事している姿はかっこいいし、家でだらけている姿はキュンキュンするし、なんでも食べれますって顔してるのに椎茸が嫌いって、ちょっと拗ねちゃう姿とか、もう、もう、可愛いが渋滞してて、存在だけで尊…っぃ」

 (しまった!今心の声がダダ漏れたーーっ)

 「……なにこの子。私もほしい!柾哉、私も」
 「やるか!」
 「えーー?時々貸して?ね?」
 「果穂の心が汚れるからだめ」
 
 どうしてよ、ちょっとぐらいいいじゃない!と芳佳さんはプリプリしていたけど、その様子もどこか無邪気で子どもっぽい。そんなお姉さんに呆れながら適当にあしらっている彼を見ていると昔からこんな感じだったのかなぁ、と小さい頃の柾哉さんを想像して勝手に笑みが溢れる。

 
 
 

 

 
 

 
 
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