余命の残りを大切な人にくれてやります

きるる

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全部くれてやる 1

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スーランが苦しみながら戦い続けているバウデンに向き直り魔力を動かし始めようとした時。


「スーラン!」


入ってきたのはガブリアルノだ。


「国王、ご無事ですか」
「…ああ」
「何よりです」


スーランは視線を向けずにまずは体内にある魔力を動かし始める。


(昨夜性交したから魔力は満たされている。…けど四分の一程度…枯渇で早まったか…それでも何とかする、いや絶対にする)


スーランは心の中で己を鼓舞する。


「…バウデンは」
「呪いを一手に引き受けました。今体内で応戦してます」


スーランは手を胸元に置き一呼吸する。


「スーラン…?まさか」
「私が助けます」
「スーラン!」
「それしか総帥を助ける方法は無いです。助けられるのは私だけ」
「だが!もし魔力の器が消滅でもしたらスーランが死ん―――」
「国王」


ガブリアルノの失言にスーランは内心舌打ちをして名称で呼び止めたが。

必死にスーランを止めようとするガブリアルノの焦った表情とその言葉をキリウが見逃すはずもなく。


「――スーランさん?今の話はどういうことですか?」
「大したことじゃないよ」
「嘘吐かないでください!スーランさんの都合悪い時の表情を僕が分からないとでも思っているんですか!」


スーランは軽く溜息を吐き、動かしていた魔力を手元に集中させる。


「スーランさん!」
「時間がない。大まかに伝えるから魔力薬の蓋を開け始めて。総帥の編み込んだ髪」
「っ!」


編み込みの煌めきが大半失せている。体内の魔力が底を尽き始めている証拠だ。


「総帥に婚姻の交渉する数月前に魔力漸減症だと判明。残りあともって三ヶ月も無い。魔力の器は四分の一くらいになっている」
「…え?」
「婚姻中に死ぬわけにはいかないから半年だけ」


前回の枯渇で器が小さくなってしまっているなら今回もそうなるだろう。スーランは手元に集中させた魔力を重力魔術に置き換えようとすると、キリウが叫んだ。


「待って…ちょっと待ってください!それじゃあ、もし今スーランさんが呪いと戦ったら―――」
「そのまま枯渇超えて魔力の器そのものが消える可能性もあるね」
「そんなの許す訳ないじゃないですか!止めてください!!」
「許されなくてもいいの。私は総帥を助ける」
「スーランさん!!そんなことをして父上が喜ぶと―――」
「キリウ。大義を見失うな」


スーランの言葉にキリウが瞠目する。


「私を慕ってくれているからこその言葉だとわかってるよ、勿論。でもね総帥が悲しんだとしてもその前に死んだら終わりなの。何も出来なくなるの」


涙を溢しているキリウを見てからスーランは静謐な瞳で表情を歪ませているガブリアルノを見つめる。


「私に置き換えないで普通に考えてください。余命三ヶ月の魔術師と統括総帥。どちらを取るかなんて天秤にかけるまでもない。彼が今居なくなったら国の大打撃どころではなく、甚大な損失になります。…ガブさん、あなたの盟友でもある。そんな人が今ここで死ぬべきではない」


ガブリアルノの赤紫色の瞳がこれでもかと見開いた。


「恐らく急激に魔力を消失するので器消滅の可能性もあります。総帥の中を荒らす呪いを総帥の体液と一緒で私が過去最高に気合入れてとことん吸い取ってやりますよ」


そう言ってスーランはにこりと微笑んだ。


「仮死状態になったらすぐに離縁届を出しといてくださいね。約束ですよ」
「…スーラン!」


ガブリアルノの悲痛な声とキリウの嗚咽にスーランも心苦しくなるが、それ以上にスーランはバウデンの苦しみを取り除きたい。何が何でも助けたい。


「…大切なんですよ、何よりもこの人が。私の残りの命よりも」


今も尚苦しんでいるバウデンの編み込みの煌めきは完全に消えた。

スーランは手に溜まった魔力を重力魔術に置き換え体内には大きな誘い込む球体を練り上げていく。どの程度の呪いが襲来するかわからないから特大にして。破られるわけにはいかない。


「国王。今貴方がやるべきことを」
「!」


ガブリアルノの瞳がぶわりと潤んだ瞬間ぐっと目を閉じ、握った拳の中が血が滲み出そうなほど握り締めている。そして瞼を上げた時の顔は『国王』だった。


「…スーラン、バウデンを頼んだ」
「御意」


スーランは最初で最期のまともな臣下としての言葉を返す。その言葉に一つ頷いてガブリアルノは出て行った。


「キリウ」
「っ、っ…は、い」
「私の部屋の机の引き出しに漸減症の月毎にまとめた魔力の器の減り具合の記載、それと研究成果をまとめたものがあるから」
「!…っ、ぅ、す、スーランさん…!」
「…伝えられなくてごめんね」


滂沱の涙を流しているキリウに微笑んだスーランはある程度魔術を固め体勢を整えたその時。

魔術服の内側のポケットからチャリンと音がした。

スーランが一つ瞬いてから取り出したそのものとは。

バウデンからもらった藍色の雫型の耳飾りだった。それに指で触れスーランは微笑んだ。


(バウデンさん、これを付けて一緒に戦おう)


スーランは耳飾りを両耳に付けた。しゃらんとなる音は存外不快ではない。じわりとバウデンの魔力を感じ、スーランの笑みは深まる。

そしてバウデンの耳飾りの一つが色褪せてきたのを確認して、スーランはバウデンの顔に近づき耳元で囁いた。


「誰よりも大切なバウデンに全部くれてやる。全力でいくよ。一緒に戦おう」


スーランはすっとバウデンの顔に近づいて触れるだけの口づけをした。



何をもって愛すだとか恋い慕うだとかスーランには今でもわからない。

でも今頭…いや心が叫んでいることは。

大切なバウデンを絶対に失いたくない。

それだけだった。


「キリウ、準備は良い?」
「…っ、はいっ…!」
「私の最強の助っ人。頼んだよ」
「はい!」


スーランは目を閉じて一度だけゆっくりと深呼吸してしっかりと目を開いた。自分の全ての魔力と技術を駆使して悪辣な呪いに挑む。





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