余命の残りを大切な人にくれてやります

きるる

文字の大きさ
49 / 80

全部くれてやる 2

しおりを挟む




スーランは目を閉じて一度だけゆっくりと深呼吸してしっかりと目を開いた。自分の全ての魔力と技術を駆使して悪辣な呪いに挑む。



バウデンの胸元に蔓延るどす黒い魔力に向かって手を伸ばしバウデンの胸元に当てた瞬間、物凄い勢いで呪いがスーランを襲った。


「っ…!」


思った以上の量と濃さ、そして攻撃力だが想定範囲内ではある。それらをスーランの体内に誘い出し、大きく象った球体の中に次々に送り込んでいく。

球体の中を縦横無尽に荒らし餌の魔力を食い尽くした呪いが出ようとする前に魔力で封鎖させて消滅を図る。

その間にも球体以外の場所に潜り込んだ呪いが器の魔力を減らしていく。それに眉を潜めるもスーランは次の球体を作る作業に移る。この繰り返しだ。


バウデンを見ると、耳飾りの残りの一つが色褪せかかっている。まだ中には手強いのがいるらしい。

スーランはそっちよりこっちの方が美味い魔力があるとでもいうように誘うように魔力を動かして誘い出し、同時に球体を完成させてそこに取り込んでいく。


「装飾品を!」


テゼルの声が聞こえたが、スーランはバウデンの胸元に置いていない方の手で付け替えてと手振りで示す。テゼルが色褪せた耳飾りを変えた時、もう一つの耳飾りも完全に色褪せた。

テゼルは他にもかき集めてきた指輪や腕輪などを次々につけていく。全部付け替え少し経つと、僅かだがバウデンの表情が和らいだ印象を受けて少しだけ安堵した。


対してスーランはもう五回以上の球体を作り、その間にも魔力を食い荒らされていた。バウデンに触れていない手を動かし、キリウが手に乗せてくれた魔力薬を飲み干す。

だが飲んでもすぐに呪いにかき消され舌打ちしたい気持ちになりながらもその分体内の魔力を動かしていく。じわじわと魔力が食い尽くされる悍ましさに呑まれそうになるも気合を入れ息を止めながら痛みを逃し、球体を作り消滅させることに専念する。

徐々にバウデンから流れてくる呪いの数が減ってきてはいるが、暴れまわる呪いと魔力薬を飲み過ぎた反動か、吐きそうな気持ち悪さが襲い、一瞬意識も飛びそうになるが何とか耐え手を差し出し続ける。キリウから「残り五本」と言われ頷く。

すると廊下から走る音が聞こえ、少し息の切れた飾らない王子の声が聞こえた。


「スーラン!コーネインから―――」
「リグリアーノさん、すぐにこちらにください」
「あ、ああ」


新しい魔力薬を飲んでもやはりあっという間に失せてしまうが、一瞬の隙にはなる。

それでも魔力を喰われる方に徐々に押され魔力枯渇手前になった時、ぐらりと頭が揺れ気張るとふわりと耳元が温かくなった。どうやらバウデンから贈られた耳飾りが反応しスーランの身体に彼の魔力が流れ込んできた。


(ああ…本当に心地良い。――――幸せだった、なあ)


時折顔を歪ませながらも、バウデンの魔力を感じたスーランは眉を下げて微笑んで思うことはそれだった。


とても幸せだったのだ。


「王子、ありがと」


それだけ伝えて、スーランはバウデンの魔力と共に弱まってきた呪いにとどめを刺しに行く。

バウデンの魔力を借りて、手先に集中させ魔力を近づけると散らばった間隔で呪いが流れてくる。


そしてついに一つも流れてこなくなった。


再度もう一つの耳飾りから流れてくる魔力を溜めて手に集中させても、何も誘われてこないことを確認し、ゆっくりとバウデンの胸元から手を離した。

そしてバウデンのずっと顰められていた眉が戻っていたことに安堵する。



だが、残りの呪いが最後の悪足掻きのようにスーランの中で暴れ出した。スーランは負けるものかと意地でも声も漏らさないで戦う。バウデンから離した手を胸に当て万が一にもバウデンに戻らないように数歩下がる。


「…スーランさん?」
「…スーラン?なあ、キリウ一体何が…」


キリウの怪訝な声とリグリアーノの戸惑った声。

最後の締めだ。
例え余命が殆ど無くなっても奴らを微塵たりともこの身体に残してやることなんてしない。

ここからは根比べとなる。

暴走する呪いはついに少ない魔力だけでなく器まで攻撃し始めたようだ。ぐっと胃が熱くなるが、スーランは震える手で魔力薬を飲み続ける。

もう何本飲んだだろうかと思った瞬間、胃の中から異様な熱さがこみ上げてスーランはごふりと血を吐いた。


「す、スーランさん!!」
「…拭い、て…もうすぐ終、わる…」
「おい、キリウ!どういうことだ!」


隣から嗚咽と共にハンカチで拭われる。リグリアーノの声にもキリウは泣きじゃくりながら首を横に振っているのを何となく薄暗くなった視界に捉える。


(これで……最後!)


醜悪な呪いの最後の一欠片をスーランはぼろぼろになったであろう器からかき集めた魔力で小さな球体を作りぐしゃっと消滅させた。

ずたぼろの神経を研ぎ澄ませ、中のほんの僅かな魔力を酷使して見ると、もう縦横無尽に暴れていた呪いはどこにも見当たらなかった。


スーランは立膝のまま、…もう立っていることすら感覚もなかった。



それでも。



視界が暗くなる直前に見えたのは。

スーランを抱き締めて眠るような規則的な呼吸をしていたバウデン。


(良かった……なんとかなった―――大切で…だい、すきな、ばう、で、ん)


スーランはそれは幸せそうに微笑んで目を閉じた。





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】妖精姫と忘れられた恋~好きな人が結婚するみたいなので解放してあげようと思います~

塩羽間つづり
恋愛
お気に入り登録やエールいつもありがとうございます! 2.23完結しました! ファルメリア王国の姫、メルティア・P・ファルメリアは、幼いころから恋をしていた。 相手は幼馴染ジーク・フォン・ランスト。 ローズの称号を賜る名門一族の次男だった。 幼いころの約束を信じ、いつかジークと結ばれると思っていたメルティアだが、ジークが結婚すると知り、メルティアの生活は一変する。 好きになってもらえるように慣れないお化粧をしたり、着飾ったりしてみたけれど反応はいまいち。 そしてだんだんと、メルティアは恋の邪魔をしているのは自分なのではないかと思いあたる。 それに気づいてから、メルティアはジークの幸せのためにジーク離れをはじめるのだが、思っていたようにはいかなくて……? 妖精が見えるお姫様と近衛騎士のすれ違う恋のお話 切なめ恋愛ファンタジー

旦那様に学園時代の隠し子!? 娘のためフローレンスは笑う-昔の女は引っ込んでなさい!

恋せよ恋
恋愛
結婚五年目。 誰もが羨む夫婦──フローレンスとジョシュアの平穏は、 三歳の娘がつぶやいた“たった一言”で崩れ落ちた。 「キャ...ス...といっしょ?」 キャス……? その名を知るはずのない我が子が、どうして? 胸騒ぎはやがて確信へと変わる。 夫が隠し続けていた“女の影”が、 じわりと家族の中に染み出していた。 だがそれは、いま目の前の裏切りではない。 学園卒業の夜──婚約前の学園時代の“あの過ち”。 その一夜の結果は、静かに、確実に、 フローレンスの家族を壊しはじめていた。 愛しているのに疑ってしまう。 信じたいのに、信じられない。 夫は嘘をつき続け、女は影のように フローレンスの生活に忍び寄る。 ──私は、この結婚を守れるの? ──それとも、すべてを捨ててしまうべきなの? 秘密、裏切り、嫉妬、そして母としての戦い。 真実が暴かれたとき、愛は修復か、崩壊か──。 🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。 🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。 🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。 🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。 🔶 いいね❤️励みになります!ありがとうございます!

【完結】2番目の番とどうぞお幸せに〜聖女は竜人に溺愛される〜

雨香
恋愛
美しく優しい狼獣人の彼に自分とは違うもう一人の番が現れる。 彼と同じ獣人である彼女は、自ら身を引くと言う。 自ら身を引くと言ってくれた2番目の番に心を砕く狼の彼。 「辛い選択をさせてしまった彼女の最後の願いを叶えてやりたい。彼女は、私との思い出が欲しいそうだ」 異世界に召喚されて狼獣人の番になった主人公の溺愛逆ハーレム風話です。 異世界激甘溺愛ばなしをお楽しみいただければ。

亡き姉を演じ初恋の人の妻となった私は、その日、“私”を捨てた

榛乃
恋愛
伯爵家の令嬢・リシェルは、侯爵家のアルベルトに密かに想いを寄せていた。 けれど彼が選んだのはリシェルではなく、双子の姉・オリヴィアだった。 二人は夫婦となり、誰もが羨むような幸福な日々を過ごしていたが――それは五年ももたず、儚く終わりを迎えてしまう。 オリヴィアが心臓の病でこの世を去ったのだ。 その日を堺にアルベルトの心は壊れ、最愛の妻の幻を追い続けるようになる。 そんな彼を守るために。 そして侯爵家の未来と、両親の願いのために。 リシェルは自分を捨て、“姉のふり”をして生きる道を選ぶ。 けれど、どれほど傍にいても、どれほど尽くしても、彼の瞳に映るのはいつだって“オリヴィア”だった。 その現実が、彼女の心を静かに蝕んでゆく。 遂に限界を越えたリシェルは、自ら命を絶つことに決める。 短剣を手に、過去を振り返るリシェル。 そしていよいよ切っ先を突き刺そうとした、その瞬間――。

婚約者が他の女性に興味がある様なので旅に出たら彼が豹変しました

Karamimi
恋愛
9歳の時お互いの両親が仲良しという理由から、幼馴染で同じ年の侯爵令息、オスカーと婚約した伯爵令嬢のアメリア。容姿端麗、強くて優しいオスカーが大好きなアメリアは、この婚約を心から喜んだ。 順風満帆に見えた2人だったが、婚約から5年後、貴族学院に入学してから状況は少しずつ変化する。元々容姿端麗、騎士団でも一目置かれ勉学にも優れたオスカーを他の令嬢たちが放っておく訳もなく、毎日たくさんの令嬢に囲まれるオスカー。 特に最近は、侯爵令嬢のミアと一緒に居る事も多くなった。自分より身分が高く美しいミアと幸せそうに微笑むオスカーの姿を見たアメリアは、ある決意をする。 そんなアメリアに対し、オスカーは… とても残念なヒーローと、行動派だが周りに流されやすいヒロインのお話です。

【完結】姉は聖女? ええ、でも私は白魔導士なので支援するぐらいしか取り柄がありません。

猫屋敷 むぎ
ファンタジー
誰もが憧れる勇者と最強の騎士が恋したのは聖女。それは私ではなく、姉でした。 復活した魔王に侯爵領を奪われ没落した私たち姉妹。そして、誰からも愛される姉アリシアは神の祝福を受け聖女となり、私セレナは支援魔法しか取り柄のない白魔導士のまま。 やがてヴァルミエール国王の王命により結成された勇者パーティは、 勇者、騎士、聖女、エルフの弓使い――そして“おまけ”の私。 過去の恋、未来の恋、そして政略婚に揺れ動く姉を見つめながら、ようやく私の役割を自覚し始めた頃――。 魔王城へと北上する魔王討伐軍と共に行動する勇者パーティは、 四人の魔将との邂逅、そして試練を迎え――。 輝く三人の恋と友情を“すぐ隣で見つめるだけ”の「聖女の妹」でしかなかった私が、 魔王討伐の旅路の中で、“本当の自分”を見つけていく――。 そんな、ちょっぴり切ない恋と友情と姉妹愛、そして私の成長の物語です。 ※「小説家になろう」にも掲載。(異世界転生・恋愛12位) ※ アルファポリス完結ファンタジー8位。応援ありがとうございます。

余命六年の幼妻の願い~旦那様は私に興味が無い様なので自由気ままに過ごさせて頂きます。~

流雲青人
恋愛
商人と商品。そんな関係の伯爵家に生まれたアンジェは、十二歳の誕生日を迎えた日に医師から余命六年を言い渡された。 しかし、既に公爵家へと嫁ぐことが決まっていたアンジェは、公爵へは病気の存在を明かさずに嫁ぐ事を余儀なくされる。 けれど、幼いアンジェに公爵が興味を抱く訳もなく…余命だけが過ぎる毎日を過ごしていく。

英雄の可愛い幼馴染は、彼の真っ黒な本性を知らない

百門一新
恋愛
男の子の恰好で走り回る元気な平民の少女、ティーゼには、見目麗しい完璧な幼馴染がいる。彼は幼少の頃、ティーゼが女の子だと知らず、怪我をしてしまった事で責任を感じている優しすぎる少し年上の幼馴染だ――と、ティーゼ自身はずっと思っていた。 幼馴染が半魔族の王を倒して、英雄として戻って来た。彼が旅に出て戻って来た目的も知らぬまま、ティーゼは心配症な幼馴染離れをしようと考えていたのだが、……ついでとばかりに引き受けた仕事の先で、彼女は、恋に悩む優しい魔王と、ちっとも優しくないその宰相に巻き込まれました。 ※「小説家になろう」「ベリーズカフェ」「ノベマ!」「カクヨム」にも掲載しています。

処理中です...