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目の前に居るのは 3※
しおりを挟むイアンが今度はちゅっと軽く口付けをしてくれる。
「口付けしてるのは?」
「…イアン」
「シュナの背中と髪に触れているのは?」
「イア、ン」
シュナはまだ震える手をイアンの綺麗な唇に這わす。
「イアン…」
「うん?」
「…イアン、イアン」
シュナはそれしか言葉が喋れないように何度もイアンの名を呼ぶ。
シュナの連呼する様にイアンが蕩けるように微笑む。
シュナは自分から口づけし、目の前にいるのはイアンだけなのだと舌をゆっくり絡ませながら実感していく。
ようやくシュナはついさっき見たものが現実ではなく夢なのだと理解した。
シュナは腟内を未だに陣取るイアンの屹立を腰をくねりと動かして目を閉じて感じようとしたが、脳裏に現れる大嫌いな奴を登場させたくなくて、開けたまま目の前の美しく華やかな雄を眺め続ける。
「…ん、気持ち、良い、イアン…」
「うん。僕も凄く気持ち良い。同じ気持ち良さだね」
「ん、ん…イアン、イアン」
シュナはゆっくりと腰を回しながら少しだけ上げると、腰を引いたイアンがずぶりと下から快感を与えてくれる。
「んんっ!…ん、ぁ、ぁ…」
「シュナ、気持ち良いね?」
シュナはひたすら頷きながら口付けをし、目の前に居るイアンを何度も確認するかのように名を呼び、都度答えてくれる彼に安堵しながら、彼と彼の雄を存分に味わった。
「因みに引き裂けと言ったのはシュナだからね?」
イアンとの性交で意識を飛ばさないのは珍しかった。体力を擦り減らすような激しいものでもなかったのに物凄く気持ち良かったのだ。
イアンが飲み物を持ってきてくれる間にシュナは寝台に落ちた今夜来ていた自分のワンピースが裂かれて放り投げられているのを見て驚いていると、彼はそう言ってきたのだ。
どうやら脱がそうとしてくれたイアンに対しシュナはワンピースを裂けと命令したらしい。物凄く興奮するからと。
シュナがそんなこと――――間違いなく言いそうだ。
確かに揺蕩っている意識の中で引き裂かれる音にとてつもなく高揚した記憶がある。
「まあ僕も興奮して思わず裂いちゃったんだけどね。万が一汚れた時用にって置いておいたシュナの服があって良かったよ」
ヘッドボードに寄りかかったイアンがシュナを引き寄せて寄りかからせながら、蓋の開いた果実水を渡してくれる。
流石に日中に夜の格好で出歩くわけにはいかない。しかも今回に限ってはびりびりだ。部屋に服を置かせてもらっておいて本当に良かった。
お礼を言ってちょびちょび果実水を飲んでいるシュナの髪や首元に顔を埋めていたイアンが不意に尋ねてきた。
「そう言えばシュナの洗体用の石鹸?僕のと一緒だ。僅かに香ってる」
シュナはぴたりと動きを止めた。
「…そうなんだ。最近石鹸屋に行った時に試しに買ってみたの」
「そっか。これ愛用してるんだ。良い香りでしょ」
「…うん」
昨夜にイアンと会うと思っていなかったので、シュナの心臓はばくばく鳴っている。ここは知らぬ存ぜぬを突き通さねば。
時刻を見るともう明け方になろうとしていた。
「…イアン、もう明け方。仕事大丈夫?」
「ん?うん。朝一でまた遠征。今佳境に入りそうなんだ」
「え…ご、ごめん!」
「全然。どうせ移動中の馬車で眠るし。それにシュナに会えたからこの感覚覚えていれば少しは深く眠れそう」
そう言いながらイアンが髪に顔を埋めて「んーこのラベンダーの香り覚えておこ」とすりすりしている。
「忙しいんだね」
「まあね。今回の件が終わったら遠征は暫く無いだろうしゆっくりするよ」
「そっか…今回はどのくらい?」
「長くて三日かな。状況に寄るけど」
シュナの腰に回った綺麗な手に思わず触れる。
「…気を付けて、ね」
「うん。勿論。帰ったら一緒に眠ってくれる?」
「うん」
「やった。助かるーこれ楽しみに遠征頑張ろー」
シュナに負担がかからないだけでなく、嬉しい言葉までくれるイアン。
先ほどのシュナの異常な状態を聞いてくることもない。
それが有り難く思うのと同時に心苦しい気持ちも相まっている。
それでもあの悍ましい出来事をこの綺麗で美しい彼に言うことが。
――――言って蔑まれる表情を見る勇気が。
離れて行ってしまう可能性を考えるとどうしても言えなかった。
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