トラウマ克服の為にクズに徹します

きるる

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前を向いて進んで 3

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目の前には大好きな花々。
美しく可憐な数多の芳しいローズに可愛い花をつけるベイビーズブレス、百合や季節の切り花が溢れていて華やかだ。

他にもイランイランや胡蝶蘭などの鉢植えも豊富でシュナはいつもここに来ると心が踊り嬉しくなる。

シュナの淀んだ心を和らげて癒してくれる様々な花。

いつか花に囲まれた小さな家で暮らすことが密かな夢だ。




そんな大好きな空間の中にいる異質な存在。


何故そこに彼が存在しているのだろう。


美しく整った顔立ちだと言われ、一代限りの叙爵なのにその辺の貴族より紳士然としていて、商才があり人当たりが良い。

高価な貴族服を着こなしシルクハットを粋に被り誰にでも穏やかに微笑みながら対応する彼の評判はすこぶる良いそうだ。


これらは彼の表向きの姿。


実際は誰よりも下衆で卑劣な人間であることはシュナが知っている。

いや、知っているのはシュナだけだろう。

自分を産んだ人ですら彼の全ては知らないかもしれない。



シュナのトラウマの元凶だ。



周りに褒めそやされる彼の微笑みはシュナにとって不気味でしかないし、優しく囁く声は恐怖でしかない。
男性なのに綺麗だと言われる手も顔もシュナにとっては悍ましいものでしかない。


何年も経ってようやくシュナに対する執着も失くなっただろうと思っていた頃に何故突然現れたのか。


そして案内してくれたあの子は何故悪びれもなくにこにこ微笑んでいるのだろう。


ずっとずっと。


何年もトラウマを乗り越えるためにシュナは自分を鼓舞して目を背けずに生きてきた。

記憶から消すことではなく、敢えて常に目の前に掲げて自ら奮起させ克服してやろうとしてきたつもりだった。


それなのに。

足が竦む。全身が強張る。
何年も顔を合わせなかったからか。
それとも過去の出来事が未だにシュナにとって恐怖となっているのか。


(ようやく…忌まわしい過去から抜けて…あの人と共に前を向いて生きていきたいと思い始めたのに)


少しだけ似た境遇で出逢ったあの人との束の間の快楽の時間の共有。

そしてその時間が少しずつ範囲と共に広がり、頑丈に閉まっていたシュナの心の扉が少しずつ動きだしていた。

小さな種が少しずつ蒔かれ、栄養を与えられ、育まれ、芽吹き始めて蕾になって。

もう少しで咲くはずだった。

どんな色でどんな形の花が咲くのだろう。
彼と共に歩んでいく人生の花道。

恋の一つすらしたことのないシュナに異性そのものの認識を少しずつあの人が変えてくれて、シュナの心が少しずつ解されてきたというのに。


(共にずっと居たいって…初めて思った人なのに)


過去は淀んで濁って薄汚れていた道を、この先の道は少しでも清らかに胸を張れるかもしれないと。


未来を。
あの人と。
一緒に。



「私のリア。ようやく見つけた」



ゆっくりと近づいてくる彼にシュナは瞬きもせず、体も凍ったように動けなかった。




シルクハットから覗く相変わらず、いやより情欲に濁りきった瞳。

カツンカツンと革靴の音がシュナにとってはまるで絶望に向かう音に聞こえて。



「先日この花屋にいらっしゃったんです。シュナさんをずっと探していたって!驚かせたいから協力してくれって!シュナさんの本名はシュリアナさんって言うんですね!」


万が一にも悪いと思っていないポックの話し方にシュナは僅かに安堵した。全て理解してシュナを騙す為に裏口に招いたわけではないとわかったからだ。


「本当は顔を出すのは今はちょっと危険を伴うんだけどね。迎えに来るのにちゃんと洒落込まないと、リアが拗ねそうだから」


相変わらず明後日の方向に思考がいく目の前のイカれた男がシュナの目の前で止まり、頬に触れ―――そうになった瞬間。


(嫌だ!!!!!)


体全体が拒否するように後ろに仰け反ると誰かにぶつかり、直後に後ろから伸びてきた手に持った布で口を覆われた。

ツンと頭に響く匂いに眉を顰めた瞬間、身体がぐらりと弛緩する。「触れるな。私のものだからね」とアーロの声が聞こえ、シュナの大嫌いな元凶にぎゅっと痛いほどに抱きかかえられる。


「…ぇ、え?何…?ど、どういうことですか!?―――わっ!」


ガシャンと花のバケツがひっくり返る音と、ドスンと誰かが倒される音。


「ご苦労さま。さあ、リア。屋敷に帰ろう」


悍ましい声が耳元にぞわりと響き、べろりと耳を舐められる。


「な、何で…!?シュナさんのっ―――ぐっ、うぅ…」


ポックの叫び呻く声。


(止めて。花と、ポックには……)



シュナの意識はそこでドンと落ちた。





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