トラウマ克服の為にクズに徹します

きるる

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変異種 2




「僕はね。運良く家族に恵まれて生きてこれた。…でも根底に潜在する残酷な部分はしっかりある。孔雀族は元々諜報や密偵だけでなく暗殺や汚れ仕事に向いているけど、人によっては任務を遂行する為に心を殺して担う者もいる。だけど僕はそれを嬉々として出来る異常者なんだよ」


微笑みながらシュナの頬を撫でるイアンの手が微かに震えている。


「相手がどんなに苦しもうが絶叫しようが泣き喚こうが全然平気。それが雌だろうが幼子だろうが。何の感情も湧かずに遂行できちゃう」


イアンが突然話し出した変異種の本質の話。
何故急にそんな話をし始めたのだろう。


「僕は元々感情の起伏が少ない。顔だけ適当に微笑んでおけば大体皆騙される。そして微笑んだまま淡々と拷問もできちゃう。僕はそんな人種でそれが悪いと思ったことも感じたこともない」


イアンの微笑みが虚ろになっていく。
自身を厭い嫌悪が滲むように見えたシュナは思わず頬を包んだ。

イアンが目を丸くする。
まるで触れてくれると思わなかったかのように。

シュナは頬を包んだまま額を合わせて目を閉じた。


シュナは変異種の話を『今』わざわざしたイアンの真意を考えてすぐに察する。


「シュナ…?」
「……あの場所に来てくれてた、んだね」


頬を包んでいたイアンがぴくりと動く。
それが答えだ。

あの陵辱現場に居た。
きっとシュナの『愚痴』も全て聞いていたのだろう。


イアンはあんな目に遭ったシュナに未だに優しく触れてくれている。

イアンはシュナの為に――前と同じように対等に立とうとしてくれている。

その事実がシュナの心をどれだけ救ってくれていることか。

そして変異種の話をしてくれたことでシュナと距離を置くことはないと証明してくれた。


イアンが頬に触れているシュナの手を綺麗な手で一度包んでから手の平を向けてきた。


「…僕の手はね。沢山の人を苦しませて殺している。任務上仕方ないのもあるけど、僕はただの一度も良心の呵責に苛まれたことも無いし、情けをかけたことも無い。快楽で人を殺める趣味はないけど必要と判断したり任務って名目で難なく実行できる。そんな残忍極まりない人種」


仕事柄と血筋柄。
変異種だから尚のこと。
そう言いたいのだろう。


それでも。

シュナは手の平を遠ざけようとしたイアンの手を掴んで自分の頬に寄せて目を閉じる。


それでもこの綺麗な温かい手はシュナにただの一度も酷いことをしたことはない。

あいつと違って。


何度もシュナに触れてくれた。
何度もシュナを落ち着かせてくれた。
何度もシュナに快楽を植え付けてくれた。

何度もシュナを助けてくれた優しい手なのだ。



アーロにまた陵辱されたことでシュナが壊れないように、言わずに隠し通せば良かったことを不利になっても敢えて出してくれるような人なのだ。

シュナがまた蹲って一人で自分を守らないように。

これが優しさでなく何だと言うのだろう。
例えそれがシュナ限定だったとしてもだ。



「イアンの手は、私には…いつも…優しいよ」
「…それでも僕の異常性は治らないよ、一生。残虐なま、ま…だ」


語尾が震えイアンの鮮やかな瞳からぽろぽろと涙が溢れる。シュナは驚いて思わず目元に触れるが、イアンの涙が止まる様子は無い。


「今回だってシュナの元に行くまで僕は何人も惨殺したよ。それこそ障害物をどかすくらいの感覚。何の感慨も湧かず、ただ僕が進む為に邪魔なものがあるってだけの理由で」


言わなければ知らなかったことをイアンはまるで自分の傷口を開くように淡々と話していく。

イアンがそうした理由はシュナがアーロに囚われていたからだ。シュナを助ける為にそうしたのだ。


「でも…今まで一度足りとも思ったことなかったけどさ。シュナに逢って…初めて変異種である自分を悍ましいと思った」


変異種で残虐で心が動かなくても。

イアンが来てくれたからシュナは救われた。

イアンはシュナだけに心を動かしてくれた。

そして。

イアンの優しさがシュナだけに一心に向けてくれるのならば。


シュナはその全て、今のイアンを丸ごと喜んで受け入れる。


「僕は狡猾で残酷で非情な生きもの――――でも、生まれて初めてずっと傍にいて欲しい人が出来た。…その人がどんなに自分を卑下しようが、穢れていると言おうが、離れる気も離す気も塵ほどにも無い。先を読んで包囲網作って雁字搦めにするんだ」


イアンの潤む綺麗な橙色の瞳はシュナしか見ていない。


「もう僕からは絶対に逃げられないし、逃げても地の果てまで追いかけて連れ戻すし、何なら籠作ってそこから出さないように徹底するし、逃げる可能性が僅かにでもあるなら誰にも会わせない。僕だけ見てれば良いよ」


涙を流しながら不穏な言葉を次々に並べるイアン。


「これが僕の性質。シュナはそんな僕を嫌いになる?離れたくなる?…もし嫌いになってもこの顔と身体で何とかならない?」


なんて物騒でなんて切ない告白なのだろう。


まるで拙い子供のような話し方と駆け引きの言葉にシュナの心がぐしゃりと潰れそうになる。
視界が揺れ涙が頬を流れるが、シュナはイアンの頬を包んで引き寄せて軽い口づけを何度もする。


どう言えばシュナの気持ちが伝わるのだろう。

どう伝えれば物々しい言葉を連ねて重ねて脅すしかできない、…純粋な異色の孔雀を安心させてあげることができるのだろう。

シュナは口付けしながら頭をフル回転させる。





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