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拙い孔雀 1
しおりを挟む『リア、…私だけのリア』
黙れ。お前にはもう負けない。
『リア、私だけ―――ぐぎゃっ!』
お前なんかにもう惑わされない。
『シュナ。僕だよ』
うん。イアンじゃなきゃ嫌だからね。
『うん。僕だけのね』
うん。イアンだけが良い。
『シュナが頑張り過ぎないように僕が見ておかないと』
うん。ありがとう。
『大丈夫。全部僕が守ってあげるからね』
うん。イアンを信じる。
温かいぬくもり。
腕を取られて温かい背中に手を回される。
もう丸まって自分を守らなくても良いよって言ってくれているみたいに。
シュナは手を回して温くて安心できるものにくっつく。くすりと笑う声が聞こえて腰に温かい腕が回り頭に熱が落ちてくる。そして頭上から規則的な気持ち良さそうな寝息が聞こえてくる。
きゅる…
…そう言えば拉致されてから何も食べていないような気がする。
きゅるる…
…お腹空いたかも、しれない。
でもこの温かさに今は浸っていたい。
きゅるぅ…
「ふはっ…シュナ、起きて?お腹ぺったんこになっちゃう」
甘い甘い少しだけ掠れた声が耳元で囁く。
顔を動かされて唇に温かいものが触れて、まるで起きてという風にぬるりと入ってきた舌にシュナの意識がゆっくりと浮上する。
「ん、…イ、アン?」
「うん。おはよ」
「お、はよ…?」
「ふふ。シュナ何も食べてないでしょ?」
「…んー…」
「ほら。起きて」
また優しい動きでシュナの口の中に舌が入ってきてシュナの意識を浮上させてくる。
「ふ、んー…」
「んー、シュナほら起きて」
ようやく目を開けると、そこには美麗な艶々としたご尊顔。
昨夜は子供のように咽び泣いたような記憶があるのだが、目の前の麗しい顔はそんなことがあった欠片も見当たらない。
「―――め」
「うん?」
「ゆ、め…」
「見なかった?あればかりは無防備な空間だから完全に断つまでゆっくりやっていこうね」
「見た、けど」
「え」
「…でも、何か…蛙の潰れた声で、どこかに…その後イアンが…」
「あはは!」
イアンが弾けるように笑ったのでシュナはぱちりと目が覚め、寝起き姿が色っぽい目の前の孔雀を見ながら首を傾げる。
「ふはっ…いやさ、あの時突撃した初っ端に思い切り回し蹴りしちゃって。その時にそんな声出してた。それがシュナの耳に残っていたのかな?良かったー蹴っといて」
「回し蹴り…」
「うん。綺麗に入って多分腕と肋あたりのどっか数本折れてる」
「折れ…」
朝から中々な話題である。
目の前に御わす甘く整った顔からは想像つかないが、彼は特殊部隊の優秀な一員なのだからそういうこともあるのだろうとシュナはゆっくりと体を起こそうとした。
だがちょっと腰が不安定でぐらりと揺れる。
「あ、無理しないで。僕が支えて起こすから。ちょっとやり過ぎちゃったからね」
甲斐甲斐しく世話をしながら宣った言葉の通り、シュナはイアンの猛攻によりちょっと座位を保つのも一苦労なくらいだった。
「そう言えば僕のシャツお守り代わりに持ってた?」
急に振られた話に心臓がどきんと鳴ったシュナは急いで掛布を被り黙秘を貫く。
ヘッドボードにクッションを沢山敷き詰められ、黙秘を続けるシュナごと抱えられ「やることが可愛いんだけどー」とにこにこのイアンがひっくり返らないように座らせてくれた。
そしてホカホカ湯気の立つパン粥と果実水をいただいた。
イアン手ずから。
「これやってみたかったんだ。フェリウスがいつも楽しそうにやっているから」
あーんして?と首を傾げながら麗しい顔を湛え、シュナは半ば無の境地で口を開けた。
そしてあの無表情しか記憶にないフェリウスが嬉々としてイリエに給餌する想像が全然つかないので早々に考えることを諦めた。
イアンは時折わざとかと思うほど口からパン粥を垂らせて、それを指で拭ったり口で舐め取りながらついでに口づけしたり、更には同時進行で自分の食事も済ませていく。
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