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きるる

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無知なりの防衛本能 1

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ガタガタと揺れ続ける何人も詰め込まれたカビ臭い匂いが立ち込める箱の中。

随分急いでいるのか、悪路なのか薄汚い布が敷かれた状態でも体が常に振動で浮いてしまい、体の節々が段々と痛くなる。後ろに腕を縛られているので体のバランスも取りづらくて仕方ない。

ウルスナは蹲っていた膝を戻し、足を曲げて尻の下に敷く。振動で今度は足が痛くなるが、尻の感覚が多少戻るまでは耐えようと小さく溜息を吐いた。

周囲は荒い運転にか細く悲鳴をあげたり、啜り泣く声が嗚咽に変わったり、体を丸めて震えたりしている――――ウルスナ含め拉致された女達が何人も居た。






時は遡り一日前のことだった。

ウルスナは大体いつも同じ時間に屋敷の庭の端に向かう。
端にある大きな木の下で一人になれる時間を確保する為に移動した矢先、突如数人の見知らぬ男達が裏口から侵入しウルスナは捕らわれた。

猿轡と目隠しをされ両腕を後手に縛られ、どこかに突き飛ばされるように放り込まれたと思ったら、馬の蹄が聞こえ中が揺れ始めたので恐らく馬車の荷台のような所に放り込まれたのだろう。


(ここまでするんだ…)


ウルスナは溜息を一つ吐いた。
先日の舞踏会の出来事からまだものの数日だ。良く手配出来たなと思う。

視界が分からない状態の中、馬車の音以外に啜り泣くような声が聞こえてくる。そこにウルスナも放り込まれたということはそういうことなのだろう。

人攫い。
ウルスナは拉致されたのだ。

ウルスナが捕らえられたのは何故か屋敷の庭の外れ。
外に出られる内側からかけているはずの鍵が何故か空いていた。
錆びて簡単には開かないはずなのに、だ。


(最近使用人達が噂していた人攫い…?行く末は奴隷か娼婦あたり…かな)


ウルスナは周囲から聞こえてくる悲壮感漂う女性達のように絶望に嘆くこともなく、ただただ再度ゆっくりと溜息を吐いた。





*****************




ウルスナはランドル国の子爵家の長女として生まれた。

父親のリチャードは遊学中にとある集落からたまたま買い出しに来ていた母親だったスルタナに出逢い一目惚れしたらしい。

集落に戻らなければならないスルタナに猛アタックをして会う約束を取り付け、遊学最終日になるまでリチャードは毎日スルタナに会いに行ったのだとか。

スルタナも毎日律儀に会いに来て愛を乞うリチャードに次第に絆されるような形で二人は付き合うことになり、婚姻まで至った。

リチャードのスルタナへの溺愛ぶりは周りも驚くほどだったそうで、それでも二人は婚姻し程なくして子も授かり、ウルスナが産まれ三人で幸せに暮らしていた。

スルタナはピアノを弾くことがとても好きで、毎日ウルスナを膝に乗っけながら弾き、それを横からリチャードが愛しそうに母子を見ながら三人でいつも母の部屋で穏やかな日々を過ごしていた。

ウルスナもスルタナが弾くピアノが大好きで膝に乗って鍵盤を叩いたり、少し離れたソファに座ってきらきらした目で母の美しい姿と旋律を耳にしながら育った。

その影響からウルスナも小さい頃からピアノの椅子に乗せる特注の椅子を作ってもらい、ぷくぷくした小さな手で不協和音を奏でながら満面の笑みで弾き、それを母は優しく微笑みながら「ウルスナは音に感情を乗せるのが上手だわ」といつも沢山褒めてくれた。

ウルスナはいつかスルタナのように上手に弾けるようになるのだと毎日母の奏でる音色を聞き、時には拙い弾き方で真似て、時には母に教えてもらいながら五歳になる頃には年相応以上の曲が弾けるようになっていた。

リチャードも「スルタナと同じようにウルスナも美しい音色を奏でるね」と褒められてとても嬉しかったことを覚えている。


ウルスナが六歳になった時のことだ。

その日はスルタナと共にリチャードが好きな菓子を買いに行こうと少し遠い街に出ていた。

リチャードが共に行く時はいつも屋敷から一番近い街へ行くのだが、スルタナと二人の時は何故か少し遠くにある街へ行く習慣になっていた。

ある時スルタナにそのことを聞いてみると、スルタナは少しだけ困ったように微笑み「…多分守る人が少ないからってことかしらね…」と言っていたのを不思議にいつも思っていた。

子爵家の馬車から降り、街を散策しながら色とりどりの花壇のある公園を見ながらウルスナ達は目的の菓子店に向かう途中のことだった。


小さく奏でる高い音。
けたたましい馬車の音と数人の怒号や悲鳴。
ウルスナを必死に抱え込んだスルタナ。
そして身体がふっ飛ばされてしまうくらいの衝撃。
ウルスナはそこで意識を失ってしまった。





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