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1章
15 シェルツ国の扇③
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話を聞いたアリシアは驚くばかりだ。
あの日泣いていたことを知られていたのも、代わりとなる扇を用意してくれていたのも知らなかった。
「あの扇はお祖母様が、ひいお祖母様からいただいたものなのです。お祖母様には娘が生まれなかったので、孫の私にくださると」
ルトビア前公爵夫人とその前の公爵夫人は婿を取り、公爵家を継いでいる。
要するに夫人方が直系なのだ。
今の公爵は3人兄弟で、長兄がルトビア公爵家を継ぎ、次男がキャンベル侯爵家へ婿に入り、三男はモルガン伯爵家へ婿入りしている。
「「私は結婚して公爵家を出ましたから、いずれ兄に娘が生まれたらそちらに譲ろうと思っています」
あの扇は高価であること以上に、ルトビア公爵家の直系女性に受け継がれる大切なものなのだ。
学生のアリシアが使うには分不相応なものだった。
だけど卒業と同時に結婚して公爵家を出ることが決まっていたアリシアが、あの扇を使えるのは学生の間だけだったのだ。
今はレオナルドに娘が生まれて年頃になるまではと思い、アリシアが大切に保管している。
「この扇をいただいてもよろしいですか?」
この扇もまた、学生のアリシアが使うには高価すぎるものだ。
だけど今のアリシアは王太子妃である。王太子妃が使うものに、高価すぎるものはない。
「だけどそれは…。もう使い道がないだろう」
扇面に描かれているのは、当時シェルツ国で流行っていた絵柄だ。
外国で流行りの品を持つことは社交界でステータスとなる。
だがこの絵柄が流行っていたのは既に5年も前のことで、今となっては流行遅れの品である。
確かに社交界では流行遅れだと陰口を言うものもいるだろう。
だけどそれが何なのか。
お祖母様の扇と同じくらい、レイヴンの気持ちが籠った扇なのだ。
「アンティークの品は、初めからアンティークではありません。大切に受け継がれていくうちに、アンティークと言われるようになるのですわ」
そういうとレイヴンはとても嬉しそうな、切ないような笑顔になった。
「ではこれは僕たちの娘に伝えよう」
そして今度こそ本気でアリシアをベッドへ押し倒した。
「これではその前に潰れてしまいますわ!」
レイヴンとアリシアの体に挟まれた扇が抱き潰されそうになり、アリシアはまた必死に抵抗した。
レイヴンは笑いながら扇を取り上げ、サイドテーブルへと追いやった。
翌日。アリシアは自室のソファでぐったりしていた。
昨夜のレイヴンはこれまでにも増して情熱的であり、散々揺さぶられることになった。
明け方、眠りについたというより気絶したアリシアが目を覚ましたのは昼前で、それはここ最近と同じことではあるのだが。
侍女に聞いた話ではレイヴンの様子が違っていたという。
これまでは朝アリシアが目覚めなくても、レイヴンは同じ時間に起きて朝食を食べて執務に向かっていた。
それが今日は、侍女が起こしに来るまで眠っているアリシアを抱き締めて離さず、やっとベッドから降りたと思っても、身支度を済ませるとまた寝室へ戻って執務が始まるぎりぎりまでアリシアの寝顔を見ていたという。
昼食は共に摂ったが、レイヴンは蕩けそうな顔をしてアリシアを抱き締めると顔中に口づけし、中々食事を始めることができなかった。
休憩時間も同様で、これまでもぴったり体を寄せて座っていたのが、今日はそれでおさまらずにアリシアは膝に乗せられ、これまた顔中に口づけられた。
私が結婚したのは本当にあの方かしら。
実は忌み子とされる双子で生まれたレイヴンが、知らないうちに片方の兄弟と入れ変わってしまったのではないかしら、とアリシアは半ば本気で不安になっていた。
あの日泣いていたことを知られていたのも、代わりとなる扇を用意してくれていたのも知らなかった。
「あの扇はお祖母様が、ひいお祖母様からいただいたものなのです。お祖母様には娘が生まれなかったので、孫の私にくださると」
ルトビア前公爵夫人とその前の公爵夫人は婿を取り、公爵家を継いでいる。
要するに夫人方が直系なのだ。
今の公爵は3人兄弟で、長兄がルトビア公爵家を継ぎ、次男がキャンベル侯爵家へ婿に入り、三男はモルガン伯爵家へ婿入りしている。
「「私は結婚して公爵家を出ましたから、いずれ兄に娘が生まれたらそちらに譲ろうと思っています」
あの扇は高価であること以上に、ルトビア公爵家の直系女性に受け継がれる大切なものなのだ。
学生のアリシアが使うには分不相応なものだった。
だけど卒業と同時に結婚して公爵家を出ることが決まっていたアリシアが、あの扇を使えるのは学生の間だけだったのだ。
今はレオナルドに娘が生まれて年頃になるまではと思い、アリシアが大切に保管している。
「この扇をいただいてもよろしいですか?」
この扇もまた、学生のアリシアが使うには高価すぎるものだ。
だけど今のアリシアは王太子妃である。王太子妃が使うものに、高価すぎるものはない。
「だけどそれは…。もう使い道がないだろう」
扇面に描かれているのは、当時シェルツ国で流行っていた絵柄だ。
外国で流行りの品を持つことは社交界でステータスとなる。
だがこの絵柄が流行っていたのは既に5年も前のことで、今となっては流行遅れの品である。
確かに社交界では流行遅れだと陰口を言うものもいるだろう。
だけどそれが何なのか。
お祖母様の扇と同じくらい、レイヴンの気持ちが籠った扇なのだ。
「アンティークの品は、初めからアンティークではありません。大切に受け継がれていくうちに、アンティークと言われるようになるのですわ」
そういうとレイヴンはとても嬉しそうな、切ないような笑顔になった。
「ではこれは僕たちの娘に伝えよう」
そして今度こそ本気でアリシアをベッドへ押し倒した。
「これではその前に潰れてしまいますわ!」
レイヴンとアリシアの体に挟まれた扇が抱き潰されそうになり、アリシアはまた必死に抵抗した。
レイヴンは笑いながら扇を取り上げ、サイドテーブルへと追いやった。
翌日。アリシアは自室のソファでぐったりしていた。
昨夜のレイヴンはこれまでにも増して情熱的であり、散々揺さぶられることになった。
明け方、眠りについたというより気絶したアリシアが目を覚ましたのは昼前で、それはここ最近と同じことではあるのだが。
侍女に聞いた話ではレイヴンの様子が違っていたという。
これまでは朝アリシアが目覚めなくても、レイヴンは同じ時間に起きて朝食を食べて執務に向かっていた。
それが今日は、侍女が起こしに来るまで眠っているアリシアを抱き締めて離さず、やっとベッドから降りたと思っても、身支度を済ませるとまた寝室へ戻って執務が始まるぎりぎりまでアリシアの寝顔を見ていたという。
昼食は共に摂ったが、レイヴンは蕩けそうな顔をしてアリシアを抱き締めると顔中に口づけし、中々食事を始めることができなかった。
休憩時間も同様で、これまでもぴったり体を寄せて座っていたのが、今日はそれでおさまらずにアリシアは膝に乗せられ、これまた顔中に口づけられた。
私が結婚したのは本当にあの方かしら。
実は忌み子とされる双子で生まれたレイヴンが、知らないうちに片方の兄弟と入れ変わってしまったのではないかしら、とアリシアは半ば本気で不安になっていた。
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