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1章
16 孤児院訪問①
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それから数日は何事もなく過ぎた。
レイヴンの過度な愛情表現は続いており、それを平常だと考えれば…なのだけど。
この日、アリシアは昼過ぎから出掛けることになっていた。
馬車へ乗り込もうとしているところで呼び止められ、振り返るとレイヴンが走ってくる。
「執務室からアリシアが見えたから…。間に合ってよかった。どこに行くの?」
「クロノスの孤児院ですわ」
アリシアは月に数度、孤児院や修道院、病院へ慰問している。
そこで子どもたちやシスター、医師と交流し、問題があれば改善するよう努めている。
建物の修復や増設が必要であれば資金を寄付し、治安に不安がある場所には警備団を創設した。医師が足りない地域には新たに派遣できるよう、医師となる為の養成所を設立した。
それらは王太子妃としての公務であるが、慰問自体は結婚前の公爵令嬢であった時から続けていることだ。
だけどレイヴンは表情を歪める。
「駄目だよ、遠すぎる。」
「え?」
「そんな遠くまで行くなんて許可できない」
思いがけない言葉にアリシアは驚いた。
今日訪問予定の孤児院はアリシアにとって何度も訪れたことのある馴染みの場所だ。
それにこれまで外出するのにレイヴンの許可などもらったことはない。
「これまでも何度も行ったことのある孤児院ですわ」
だけどレイヴンは譲らない。
アリシアの腰に腕をまわしてぎゅっと抱き締める。
これでは出掛けられない。
「今日はもう先触れも出してしまっておりますから…。このお話は戻ってからに致しましょう」
やんわり押し返すと、更に強く抱き締められる。
「アリシアを危険な場所に行かせられない。諦めてくれ」
アリシアは困ってしまった。
毎月数度慰問に出ているが、危険な目にあったことはない。
だけどレイヴンのこの様子では諦めるしかないだろう。
そう思う気持ちと同時に、なぜ諦めないといけないのかと反発する気持ちが湧いてくる。
アリシアはこれまでと同じ生活を続けている。
何一つ変えていない。急に態度を変えたのはレイヴンなのだ。
突然アリシアに干渉してくるようになったレイヴンに、なぜ合わせなければならないのか。
「おかしなことを仰らないでくださいませ。今まで私がどこへ行こうと気になさらなかったでしょう」
自分でも驚くほどの堅い声が出た。
「…本当は今までも危ないと思っていたんだ。だけど言えなかった。アリシアが慰問活動を大切にしているのがわかってたから。でもやっぱり駄目だ。こんな少ない護衛で外出するなんて。アリシアに何かあったらと思うと耐えられない」
「…危険なことなどありませんわ。クロノスは確かに王都の外れですけど、馬車なら三刻程で着きますもの」
「駄目だよ。お願いだから止めて欲しい。アリシアは王太子妃なんだよ。悪意を持つ人間がどこにいるかわからないんだ」
「レイヴン様!」
腕から逃れようと強く体をよじると、レイヴンは酷く傷ついた顔をした。
「お話し中失礼致します」
二人に割って入ったのは護衛頭のマーフィーだった。
マーフィーは、アリシアが幼い頃から公爵家で護衛をしてくれていた。結婚した後も所属を移して護衛を務めてくれている。
「殿下は護衛の数が少ないことが気がかりなのですね?それでは護衛を増やしたらいかがでしょう」
「…少なく等ありません。最近増やしてくださいましたから、いつもより多いのですよ」
「妃殿下、殿下が安心するだけの護衛を連れて行きましょう」
マーフィーの言いたいことはわかった。
慰問に行きたいアリシアと行かせたくないレイヴン。折り合えるところを探すしかない。
確かにこのまま言い合っていても時間が過ぎるばかりである。
レイヴンを見るとこちらも渋々といった様子で頷いた。
「それじゃあ王室騎士団を」
「王室騎士団?!」
マーフィーも驚いている。
王室騎士団は30人もいるのだ。どこまで行くつもりなのか。
「王室騎士団など必要ありませんわ。外れとはいえ、クロノスは王都なのですよ?それに騎士をそんなに大勢引き連れていたら、子どもたちが怖がってしまいます」
「それじゃあ…半分を」
それでも15人だ。
マーフィーを見ると静かに頷いていた。出掛けたいなら従うしかない。
「…わかりましたわ」
アリシアは不本意ながら受け入れた。
15名の騎士が選ばれるまでしばらく時間が掛かった。孤児院に着くのは予より大分遅くなりそうだ。
今度こそ馬車に乗り込み、アリシアはため息をついた。
心配そうな顔のレイヴンが見送っていた。
レイヴンの過度な愛情表現は続いており、それを平常だと考えれば…なのだけど。
この日、アリシアは昼過ぎから出掛けることになっていた。
馬車へ乗り込もうとしているところで呼び止められ、振り返るとレイヴンが走ってくる。
「執務室からアリシアが見えたから…。間に合ってよかった。どこに行くの?」
「クロノスの孤児院ですわ」
アリシアは月に数度、孤児院や修道院、病院へ慰問している。
そこで子どもたちやシスター、医師と交流し、問題があれば改善するよう努めている。
建物の修復や増設が必要であれば資金を寄付し、治安に不安がある場所には警備団を創設した。医師が足りない地域には新たに派遣できるよう、医師となる為の養成所を設立した。
それらは王太子妃としての公務であるが、慰問自体は結婚前の公爵令嬢であった時から続けていることだ。
だけどレイヴンは表情を歪める。
「駄目だよ、遠すぎる。」
「え?」
「そんな遠くまで行くなんて許可できない」
思いがけない言葉にアリシアは驚いた。
今日訪問予定の孤児院はアリシアにとって何度も訪れたことのある馴染みの場所だ。
それにこれまで外出するのにレイヴンの許可などもらったことはない。
「これまでも何度も行ったことのある孤児院ですわ」
だけどレイヴンは譲らない。
アリシアの腰に腕をまわしてぎゅっと抱き締める。
これでは出掛けられない。
「今日はもう先触れも出してしまっておりますから…。このお話は戻ってからに致しましょう」
やんわり押し返すと、更に強く抱き締められる。
「アリシアを危険な場所に行かせられない。諦めてくれ」
アリシアは困ってしまった。
毎月数度慰問に出ているが、危険な目にあったことはない。
だけどレイヴンのこの様子では諦めるしかないだろう。
そう思う気持ちと同時に、なぜ諦めないといけないのかと反発する気持ちが湧いてくる。
アリシアはこれまでと同じ生活を続けている。
何一つ変えていない。急に態度を変えたのはレイヴンなのだ。
突然アリシアに干渉してくるようになったレイヴンに、なぜ合わせなければならないのか。
「おかしなことを仰らないでくださいませ。今まで私がどこへ行こうと気になさらなかったでしょう」
自分でも驚くほどの堅い声が出た。
「…本当は今までも危ないと思っていたんだ。だけど言えなかった。アリシアが慰問活動を大切にしているのがわかってたから。でもやっぱり駄目だ。こんな少ない護衛で外出するなんて。アリシアに何かあったらと思うと耐えられない」
「…危険なことなどありませんわ。クロノスは確かに王都の外れですけど、馬車なら三刻程で着きますもの」
「駄目だよ。お願いだから止めて欲しい。アリシアは王太子妃なんだよ。悪意を持つ人間がどこにいるかわからないんだ」
「レイヴン様!」
腕から逃れようと強く体をよじると、レイヴンは酷く傷ついた顔をした。
「お話し中失礼致します」
二人に割って入ったのは護衛頭のマーフィーだった。
マーフィーは、アリシアが幼い頃から公爵家で護衛をしてくれていた。結婚した後も所属を移して護衛を務めてくれている。
「殿下は護衛の数が少ないことが気がかりなのですね?それでは護衛を増やしたらいかがでしょう」
「…少なく等ありません。最近増やしてくださいましたから、いつもより多いのですよ」
「妃殿下、殿下が安心するだけの護衛を連れて行きましょう」
マーフィーの言いたいことはわかった。
慰問に行きたいアリシアと行かせたくないレイヴン。折り合えるところを探すしかない。
確かにこのまま言い合っていても時間が過ぎるばかりである。
レイヴンを見るとこちらも渋々といった様子で頷いた。
「それじゃあ王室騎士団を」
「王室騎士団?!」
マーフィーも驚いている。
王室騎士団は30人もいるのだ。どこまで行くつもりなのか。
「王室騎士団など必要ありませんわ。外れとはいえ、クロノスは王都なのですよ?それに騎士をそんなに大勢引き連れていたら、子どもたちが怖がってしまいます」
「それじゃあ…半分を」
それでも15人だ。
マーフィーを見ると静かに頷いていた。出掛けたいなら従うしかない。
「…わかりましたわ」
アリシアは不本意ながら受け入れた。
15名の騎士が選ばれるまでしばらく時間が掛かった。孤児院に着くのは予より大分遅くなりそうだ。
今度こそ馬車に乗り込み、アリシアはため息をついた。
心配そうな顔のレイヴンが見送っていた。
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