22 / 697
1章
20 初めてのこと
しおりを挟む
アリシアが目を覚ますと、レイヴンの腕の中だった。
「おはよう、アリシア」
「…おはようございます」
レイヴンと朝、ベッドの中で言葉を交わすのは初めてだ。
以前は互いに目が覚めるとすぐに自室へ移っていたし、最近はアリシアが昼頃まで眠っているので、レイヴンと言葉を交わすことがなかったのだ。
レイヴンはアリシアの頬に掛かった髪を後ろへそっと払うと、そのまま髪を撫で始めた。
その感触に昨夜のことを思い出す。
昨日は互いに楽な服装をして、2人きりで夕食を食べた。
アリシアがうまく話せなくてもレイヴンは気にした様子を見せずに、アリシアの興味を引きそうな話を続けてくれていた。
とても気を使ってくれていたのだと思う。
レイヴンは食後のお茶の時間も、その後も、アリシアが眠りに落ちる瞬間まで優しく接してくれていたのに、アリシアはその優しさに応えることができなかった。
アリシアは今、突然変わった状況に適応できずに、自分の感情に振り回されてしまっている。
だけど今は、昨日の陰鬱な気分は無くなっていた。
早い時間からぐっすりと眠ることができたからだろうか。
今日はいつも通りに接することができそうだ。
寝室の扉を叩く音が聞こえる。レイヴン付きの侍女が起こしに来たようだ。
レイヴンががっかりしたような顔をする。
「レイヴン様、今日は私の部屋で一緒に朝食をいただきましょう」
自然と言葉が出ていた。
瞬間、レイヴンは驚いたような顔をして、アリシアを強く抱き締める。
無自覚にも花がほころぶような笑顔を見せていたのだ。
朝食はアリシアの部屋のテラスで食べた。
そよぐ風が気持ちいい。
レイヴンは終始上機嫌で、アリシアも普段通りにレイヴンと話をすることが出来ていた。
不思議なほど和やかな時間だった。
この日、アリシアはゆっくりと過ごすことにした。
久しぶりに朝から起きているので時間がたっぷりある。
レイヴンが執務に出た後は読書をしたり刺繍をしたりしてした。
午後、庭園を散策して部屋に戻ると、レイヴンとレオナルドが待っていた。
部屋の中にはドレス、装飾品、調度品が溢れている。
初めて見るものばかりだ。
「…これは何ですの?」
呆然として呟くアリシアを、レイヴンがいつもの様に抱き締める。
レオナルドは困ったような笑みを見せていた。
「昨日喧嘩をしたから、仲直りの贈り物だよ」
レイヴンはアリシアの唇にちゅっと口づけた。
その表情はとても幸せそうで、アリシアは戸惑ってしまう。
昨日のあれは喧嘩ではない。
レイヴンがアリシアの心得違いを注意して、注意を受けたアリシアが癇癪を起しただけだ。
「喧嘩ではありませんわ。あれは私が悪いのですもの」
「だけど嫌な思いをさせただろう?ごめんね、アリシア」
背中にまわされた腕に力がこもる。
レイヴンが謝ることではないのだと言おうとして気がついた。
悪いのはアリシアなのに、昨日からレイヴンばかりが謝っていてアリシアは謝っていない。
今日もレイヴンがいつも通りに接してくれているから、アリシアも何もなかったかのように過ごしてしまった。
レイヴンの体をそっと押して距離を取ると、アリシアは頭を下げた。
「申し訳ありませんでした。私の心得違いでございました。お許しくださいませ」
レイヴンはアリシアの頬に触れると、そっと上げさせた。
2人の視線が絡む。
「僕がもっと早くに言うべきことだったんだ。アリシアが無事で良かった」
「喧嘩をしておられたのですか」
レオナルドの声がして、アリシアはハッとなった。
レオナルドが面白い物を見るような目で2人を見ている。
レイヴンはアリシアの腰に腕を回して引き寄せてから、レオナルドに向き直った。
「そうだよ。僕たちは初めて喧嘩をして、初めて仲直りをしたんだ」
レイヴンはそう言うと、アリシアの額にちゅっと口づける。
レイヴンは浮かれ切っていた。
アリシアは昨日初めてレイヴンに怒りを見せた。
泣かせてしまったことには心が痛むけれど、取り繕ったものではない、素の感情を見せてくれていた。
喧嘩も仲直りも、感情を見せずに表面だけで接していたこれまでにはできなかったことだ。
ずっと危険だと思っていたことも改善することができたし、アリシアも今は理解してくれている。
昨日はレイヴンにとって良いことばかりだった。
レイヴンは、アリシアと一緒に並べられtドレスや調度品を見る。
「僕が選んだ贈り物を気に入ってくれたら嬉しいな」
…贈り物に関しての、これまでの鬱憤晴らしもしているようだ。
「おはよう、アリシア」
「…おはようございます」
レイヴンと朝、ベッドの中で言葉を交わすのは初めてだ。
以前は互いに目が覚めるとすぐに自室へ移っていたし、最近はアリシアが昼頃まで眠っているので、レイヴンと言葉を交わすことがなかったのだ。
レイヴンはアリシアの頬に掛かった髪を後ろへそっと払うと、そのまま髪を撫で始めた。
その感触に昨夜のことを思い出す。
昨日は互いに楽な服装をして、2人きりで夕食を食べた。
アリシアがうまく話せなくてもレイヴンは気にした様子を見せずに、アリシアの興味を引きそうな話を続けてくれていた。
とても気を使ってくれていたのだと思う。
レイヴンは食後のお茶の時間も、その後も、アリシアが眠りに落ちる瞬間まで優しく接してくれていたのに、アリシアはその優しさに応えることができなかった。
アリシアは今、突然変わった状況に適応できずに、自分の感情に振り回されてしまっている。
だけど今は、昨日の陰鬱な気分は無くなっていた。
早い時間からぐっすりと眠ることができたからだろうか。
今日はいつも通りに接することができそうだ。
寝室の扉を叩く音が聞こえる。レイヴン付きの侍女が起こしに来たようだ。
レイヴンががっかりしたような顔をする。
「レイヴン様、今日は私の部屋で一緒に朝食をいただきましょう」
自然と言葉が出ていた。
瞬間、レイヴンは驚いたような顔をして、アリシアを強く抱き締める。
無自覚にも花がほころぶような笑顔を見せていたのだ。
朝食はアリシアの部屋のテラスで食べた。
そよぐ風が気持ちいい。
レイヴンは終始上機嫌で、アリシアも普段通りにレイヴンと話をすることが出来ていた。
不思議なほど和やかな時間だった。
この日、アリシアはゆっくりと過ごすことにした。
久しぶりに朝から起きているので時間がたっぷりある。
レイヴンが執務に出た後は読書をしたり刺繍をしたりしてした。
午後、庭園を散策して部屋に戻ると、レイヴンとレオナルドが待っていた。
部屋の中にはドレス、装飾品、調度品が溢れている。
初めて見るものばかりだ。
「…これは何ですの?」
呆然として呟くアリシアを、レイヴンがいつもの様に抱き締める。
レオナルドは困ったような笑みを見せていた。
「昨日喧嘩をしたから、仲直りの贈り物だよ」
レイヴンはアリシアの唇にちゅっと口づけた。
その表情はとても幸せそうで、アリシアは戸惑ってしまう。
昨日のあれは喧嘩ではない。
レイヴンがアリシアの心得違いを注意して、注意を受けたアリシアが癇癪を起しただけだ。
「喧嘩ではありませんわ。あれは私が悪いのですもの」
「だけど嫌な思いをさせただろう?ごめんね、アリシア」
背中にまわされた腕に力がこもる。
レイヴンが謝ることではないのだと言おうとして気がついた。
悪いのはアリシアなのに、昨日からレイヴンばかりが謝っていてアリシアは謝っていない。
今日もレイヴンがいつも通りに接してくれているから、アリシアも何もなかったかのように過ごしてしまった。
レイヴンの体をそっと押して距離を取ると、アリシアは頭を下げた。
「申し訳ありませんでした。私の心得違いでございました。お許しくださいませ」
レイヴンはアリシアの頬に触れると、そっと上げさせた。
2人の視線が絡む。
「僕がもっと早くに言うべきことだったんだ。アリシアが無事で良かった」
「喧嘩をしておられたのですか」
レオナルドの声がして、アリシアはハッとなった。
レオナルドが面白い物を見るような目で2人を見ている。
レイヴンはアリシアの腰に腕を回して引き寄せてから、レオナルドに向き直った。
「そうだよ。僕たちは初めて喧嘩をして、初めて仲直りをしたんだ」
レイヴンはそう言うと、アリシアの額にちゅっと口づける。
レイヴンは浮かれ切っていた。
アリシアは昨日初めてレイヴンに怒りを見せた。
泣かせてしまったことには心が痛むけれど、取り繕ったものではない、素の感情を見せてくれていた。
喧嘩も仲直りも、感情を見せずに表面だけで接していたこれまでにはできなかったことだ。
ずっと危険だと思っていたことも改善することができたし、アリシアも今は理解してくれている。
昨日はレイヴンにとって良いことばかりだった。
レイヴンは、アリシアと一緒に並べられtドレスや調度品を見る。
「僕が選んだ贈り物を気に入ってくれたら嬉しいな」
…贈り物に関しての、これまでの鬱憤晴らしもしているようだ。
17
あなたにおすすめの小説
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
すれ違いのその先に
ごろごろみかん。
恋愛
転がり込んできた政略結婚ではあるが初恋の人と結婚することができたリーフェリアはとても幸せだった。
彼の、血を吐くような本音を聞くまでは。
ほかの女を愛しているーーーそれを聞いたリーフェリアは、彼のために身を引く決意をする。
*愛が重すぎるためそれを隠そうとする王太子と愛されていないと勘違いしてしまった王太子妃のお話
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる