【本編完結】幸福のかたち【R18】

朱里 麗華(reika2854)

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2章

4 舞踏会での遭遇②

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   ある伯爵夫人とアリシアが言葉を交わしていた時、アリシアの腰を抱くレイヴンの腕に力がこもった。
 レイヴンの視線を追うと、コリンズ伯爵家の嫡男であるマルセルとその奥方が近づいてくるのが見える。

 レイヴンとアリシアは、マルセルと学園で3年間同じクラスだった。
 アリシアの従姉であるジェーンも同じクラスで、4人でよく行動を共にしていたのだ。

「お久しぶりです、レイヴン殿下、アリシア妃殿下。今日の妃殿下は一段とお美しいですね」

「お久しぶりですわ、マルセル殿。随分お口が上手くなりましたのね」

 マルセルは目を細めてアリシアを見ているが、これは学友への軽口である。

「やあ、マルセル。直接会うのは久しぶりだが、君の貴族院での活躍はよく耳にしているよ」

 マルセルと言葉を交わしながら、レイヴンはアリシアの腰を強く引き、更に抱き寄せる。
 マルセルは学生時代から優秀だった。
 今は学園で培われた能力を存分に発揮しているのだろう。その姿を容易に思い浮かべることができる。
 
 マルセルは学生時代、アリシアが密かに想っていた相手である。
 幼い頃からアリシアが関わる男性といえば、兄のレオナルドと従兄のロバート、そして婚約者のレイヴンだけだった。
 レイヴンの婚約者に選ばれてからは特に、男性と会うことがあっても親しく言葉を交わすようなことはなかった
 そんなアリシアにとってマルセルは、初めて出来た男性の友人だった。
 身内や婚約者ではない、「友人」というこれまでとは違った存在に強く惹かれたのだろう。

 だが、誰にも知られずに終わった想いは、既に過去のものだ。
 アリシアはレイヴンと結婚しているし、マルセルも二人の結婚式の少し後に当時からの婚約者と結婚した。
 今ではこうして時々舞踏会で顔を合わせるくらいである。

 マルセルと会ってももうアリシアの心は動かないし、夫人と並ぶ姿を見ても何も感じることはない。
 あの頃は確かにマルセルに惹かれていたが、一時の感情で愚かなことはしない。
 自分の選択は正しかったと、心から思っている。

「妃殿下を見ていると卒業パーティーを思い出しますね」

 まったくその通りなのだが、レイヴンはばつが悪そうに目を伏せた。

 そういえば、とアリシアは思い出す。
 卒業パーティ―でレイヴンが傍を離れた僅かな隙に、マルセルに話し掛られた。

『レイヴン殿下から贈られたドレスだね。良かった。安心したよ』

 その言葉で、マルセルに2人の仲を心配されていたことを知った。
 確かに学園に通っていた時、アリシアとレイヴンの間には表面的な親しさしかなかったが、アリシアはそれでいいと思っていた。
 安堵した表情を見せるマルセルに、アリシアはいつもの笑顔を返しただけだ。

「今日は仲睦まじいお2人の姿を見られて良かったですよ」

 マルセルは満足げな顔を見せ、夫人と共に去っていく。
 マルセルの姿が見えなくなるまで、レイヴンはアリシアを抱き寄せたままだった。

 その後も何組かの挨拶を受け、流れが途切れたところでレイヴンからダンスに誘われた。
 同じパーティーで2回以上踊るのは初めてだ。

 他の男がこれ以上アリシアに話し掛けるのを止めたくて、レイヴンはアリシアをダンスに誘った。
 噂の為だけではなく、いつにも増して美しいアリシアに視線を投げてくる男は多い。
 レイヴンの中には、レイヴンの色で着飾った美しいアリシアを見せつけたい気持ちと、誰にも見せたくない気持ちが同じくらいある。

 広間の中心にダンスの輪が広がっている。
 その輪に入ろうとした時、アリシアの顔が曇った。
 不快そうな視線を一方に向けている。

「どうしたの?」

「なんでもありませんわ」

 レイヴンの問いに、アリシアは作られた笑顔で答えた。
 全ての感情を消した笑顔である。
 だけどアリシアを見続けてきたレイヴンには、アリシアが気分を害しているのがよく分かった。

 そのまま一曲踊る。
 曲が終わると、アリシアは足早にダンスの輪から抜けた。

「お兄様!」

 アリシアが向かう先にレオナルドがいると気がついていたレイヴンは、少し後ろからついていく。

「これは妃殿下。今日は随分とお美しいですね」

 レオナルドも公の場ではアリシアを妃殿下と呼び、臣下の礼をとる。
 それでもアリシアとレイヴンを見比べて面白そうに笑っていた。
 レイヴンの独占欲丸出しのドレスを揶揄っているのだ。

「お兄様、あれは…」

 アリシアはそんな兄の言葉を無視して、扇で隠した口元を寄せる。
 アリシアの視線を追って、レオナルドは嘆息した。

「妃殿下も気づかれましたか」

 視線の先では、先ほどアリシアが不快な目を向けていたカップルが今も踊っていた。

「ジェーンは?」

「幸いなことに、今日は来ていないようですね」

 ジェーンと聞いてレイヴンは思い出した。
 踊っているカップルの、男の方はジョッシュ・カルヴィエ。
 カルヴィエ伯爵家の三男でジェーンの婚約者である。

 そして女の方はエミリー・キャンベル。
 ジェーンの義妹だった。



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