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2章
5 ジェーンの家庭事情と婚約者①
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舞踏会の日から数日経った。
あの日からアリシアの機嫌が悪い。
機嫌が悪いとはいってもレイヴンに不機嫌な様子を見せるわけではなく、侍女や侍従に当たるわけでもない。
逆に不機嫌な様子を一切見せないように振舞っているので、レイヴンの他に気がついている者はいないだろう。
そして隠している限り、レイヴンにその理由を話してくれることもない。
そこに見えない壁がある。
レイヴンはそれが哀しかった。
アリシアに会いに部屋へ行くと、庭園に散歩に出ていてまだ戻らないという。
レイヴンはアリシアを探しに庭園へ出た。
随分歩いて、奥まった森の様になったところまで来た時、アリシアにつけている護衛たちが、木々の間に隠れるようにして控えているのが見えた。
もう少し先に東屋がある。
アリシアはそこにいるのだろう。
だけど護衛たちがここまで離れているのは人払いをしているのだろうが、好ましいことではない。
「やっぱりそうなのですね。私、絶対許せませんわ…!」
東屋に近づくと、珍しくアリシアの荒げた声が聞こえた。
アリシアがこんな話し方をする相手はレオナルドしかいない。
「アリシア」
声を掛けると、2人が反射的に振り返り、立ち上がろうとする。
レオナルドを手で制して座らせ、アリシアを抱き寄せて額に口づけた。
「会いたかったよ、僕のアリシア。可愛い君をそんなに怒らせているのは誰?」
アリシアの体が強張った。
思い当ることはある。
アリシアの機嫌が悪いのは、あの舞踏会からだ。
舞踏会ではジェーンの婚約者と義妹が、まるで恋人であるかのように振舞っていた。
ジェーンと親しいアリシアにはそれが許せないのだろう。
だけどアリシアから教えて欲しい。
そのまましばらく沈黙の時が流れる。
レイヴンはアリシアの背中へまわした手で、優しく背中を撫でていた。
レオナルドが何か言おうとするのを、目で制する。
そのまま5分程経っただろうか。
アリシアが諦めたように口を開いた。
「…ジェーンのことですわ。いえ、ジェーンの婚約者と義妹のことです」
レイヴンは頷いた。
レオナルドへ目をやると、嘆息して話し出した。
「こちらで軽く調べようと人をやったのですが、調べるまでもありませんでした。2人の関係は、中級以下の貴族の間では随分前から有名だったようです。下級貴族が主催する夜会、要するに我々ルトビア公爵家の者が決して参加しない催しには、2人で何度も参加していたそうです」
「しかしある程度の地位がある貴族であれば、ジョッシュの婚約者が別人だと知っているだろう。2人の結婚式はもうすぐじゃなかったか?」
「…半年後ですわ」
レイヴンは思わず息をのんだ。
ジョッシュがジェーンと結婚することでキャンベル侯爵家へ婿に入り、侯爵家を継ぐ。
これは政略結婚である。
そして貴族間の結婚では、夫が愛人を持つことも珍しくはない。
だけど初めから夫に愛人がいて、それが妻の義妹だというのはあまりに酷い話である。
「随分前から有名だったというが、ジェーンは知っているのか?知っていれば婚約を解消するだろう」
「知っているもなにも、2人は侯爵家でも人目を憚らず睦み合っているそうです。ジョッシュは結婚式の準備を口実に侯爵家へ来てはエミリーと部屋に籠っているそうで、結婚式の準備はジェーンが一人でしているとか」
レイヴンの腕の中でアリシアの体が一層強張った。
アリシアが怒るのもわかる。
ジェーンに特別な思い入れのないレイヴンが聞いても不愉快な話だった。
あの日からアリシアの機嫌が悪い。
機嫌が悪いとはいってもレイヴンに不機嫌な様子を見せるわけではなく、侍女や侍従に当たるわけでもない。
逆に不機嫌な様子を一切見せないように振舞っているので、レイヴンの他に気がついている者はいないだろう。
そして隠している限り、レイヴンにその理由を話してくれることもない。
そこに見えない壁がある。
レイヴンはそれが哀しかった。
アリシアに会いに部屋へ行くと、庭園に散歩に出ていてまだ戻らないという。
レイヴンはアリシアを探しに庭園へ出た。
随分歩いて、奥まった森の様になったところまで来た時、アリシアにつけている護衛たちが、木々の間に隠れるようにして控えているのが見えた。
もう少し先に東屋がある。
アリシアはそこにいるのだろう。
だけど護衛たちがここまで離れているのは人払いをしているのだろうが、好ましいことではない。
「やっぱりそうなのですね。私、絶対許せませんわ…!」
東屋に近づくと、珍しくアリシアの荒げた声が聞こえた。
アリシアがこんな話し方をする相手はレオナルドしかいない。
「アリシア」
声を掛けると、2人が反射的に振り返り、立ち上がろうとする。
レオナルドを手で制して座らせ、アリシアを抱き寄せて額に口づけた。
「会いたかったよ、僕のアリシア。可愛い君をそんなに怒らせているのは誰?」
アリシアの体が強張った。
思い当ることはある。
アリシアの機嫌が悪いのは、あの舞踏会からだ。
舞踏会ではジェーンの婚約者と義妹が、まるで恋人であるかのように振舞っていた。
ジェーンと親しいアリシアにはそれが許せないのだろう。
だけどアリシアから教えて欲しい。
そのまましばらく沈黙の時が流れる。
レイヴンはアリシアの背中へまわした手で、優しく背中を撫でていた。
レオナルドが何か言おうとするのを、目で制する。
そのまま5分程経っただろうか。
アリシアが諦めたように口を開いた。
「…ジェーンのことですわ。いえ、ジェーンの婚約者と義妹のことです」
レイヴンは頷いた。
レオナルドへ目をやると、嘆息して話し出した。
「こちらで軽く調べようと人をやったのですが、調べるまでもありませんでした。2人の関係は、中級以下の貴族の間では随分前から有名だったようです。下級貴族が主催する夜会、要するに我々ルトビア公爵家の者が決して参加しない催しには、2人で何度も参加していたそうです」
「しかしある程度の地位がある貴族であれば、ジョッシュの婚約者が別人だと知っているだろう。2人の結婚式はもうすぐじゃなかったか?」
「…半年後ですわ」
レイヴンは思わず息をのんだ。
ジョッシュがジェーンと結婚することでキャンベル侯爵家へ婿に入り、侯爵家を継ぐ。
これは政略結婚である。
そして貴族間の結婚では、夫が愛人を持つことも珍しくはない。
だけど初めから夫に愛人がいて、それが妻の義妹だというのはあまりに酷い話である。
「随分前から有名だったというが、ジェーンは知っているのか?知っていれば婚約を解消するだろう」
「知っているもなにも、2人は侯爵家でも人目を憚らず睦み合っているそうです。ジョッシュは結婚式の準備を口実に侯爵家へ来てはエミリーと部屋に籠っているそうで、結婚式の準備はジェーンが一人でしているとか」
レイヴンの腕の中でアリシアの体が一層強張った。
アリシアが怒るのもわかる。
ジェーンに特別な思い入れのないレイヴンが聞いても不愉快な話だった。
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