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2章
46 2人の母と2人の娘①
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アリシアはレオナルドが広げたハンカチーフの上に座っている。
レオナルドとロバートはこうなることを見越して大判のハンカチーフを持ってきていたのだ。
思わず表情を曇らせたレイヴンにアリシアが気がついた。
「どうかなさいましたか?」
「レイヴン殿下はアリシア様が使われるものをご自身で用意したかったのですわ。レオ兄さまに妬いておられるのです」
答えたのはジェーンだった。
驚いた顔をするアリシアに、ジェーンがふふっと笑う。
それからレイヴンへ視線を向けた。
「気持ちを伝えるお手伝いですわ。本当はもっと早くからこうしていれば良かったのですけれど…。直接言葉にしないと伝わらないこともございます」
特にアリシア様が相手では、とジェーンは心の中で呟いた。
「…そうだな」
身につまされたレイヴンは神妙に頷くと、アリシアへ熱い視線を向けた。
「次は必ず僕が用意するからね」
そう言ってがふわりと笑う。
レオナルドに妬いたのだと全面的に認めたということだ。
反応に困ったアリシアは、小さな声で「…お願いいたします」と頷いた。
「まあまあ、随分と仲がよろしいんですねぇ」
ハンナが2人をにこにこ顔で見守っていた。
バスケットを届けた後、すぐに立ち去るつもりでいたハンナをレイヴンが引き留めたのだ。
それからハンナは給仕にまわっている。
アリシアが過ごしてきた日常を――完璧に装われた「王太子の婚約者」ではない、本当のアリシアを――知りたくてハンナを引き留めたレイヴンだが、手放しで喜ばれると居心地が悪く感じてしまう。
ハンナが無条件でレイヴンを歓迎してくれているのは、これまでの2人を知らないからだ。
レイヴンはアリシアの実家であるルトビア公爵家の侍女には嫌われていることを自覚していた。
もちろん公爵家の侍女として、王太子であるレイヴンに無礼な態度をとる者はいない。
それでもアリシア付きの侍女から向けられた視線はいつも冷ややかだった。
そもそもレイヴンは、アリシアと10年も婚約していたのに数回しか公爵家を訪問したことがない。
その僅か数回の時でさえ、レオナルドに会いに来たように装っていた。
アリシアは婚約者として出迎えてくれても、挨拶をしただけですぐに部屋へ戻ってしまう。
アリシアの後ろに控えた侍女がレイヴンに何かを言うことはない。
非難されることがないかわりに、仲を取り持とうとされたこともなかった。
アリシアの一番傍近くで仕えていたその侍女の名前も、レイヴンは知らないのだ。
ジェーンの花園は美しい。
ここはアリシアにとって大切な思い出の場所だろう。
それでもレイヴンは、ルトビア公爵家の庭でこんな風に過ごしてみたかったと思わずにはいられなかった。
レイヴンは公爵家でアリシアとお茶を飲んだことさえないのだ。
「あんなに小さかったアリシアお嬢様が奥方様になられて、ジェーンお嬢様ももうすぐ結婚なさるなんて、あたしも年をとるはずですねぇ。お揃いのドレスを着たお嬢様方が手を繋いで歩いていらしたのが昨日のことのようですのに」
「ああ、覚えている。あれは可愛かった」
レオナルドとロバートが、幼い頃の2人を思い出して頬を緩める。
レイヴンはそんな2人に視線を向けた。
レオナルドとロバートはこうなることを見越して大判のハンカチーフを持ってきていたのだ。
思わず表情を曇らせたレイヴンにアリシアが気がついた。
「どうかなさいましたか?」
「レイヴン殿下はアリシア様が使われるものをご自身で用意したかったのですわ。レオ兄さまに妬いておられるのです」
答えたのはジェーンだった。
驚いた顔をするアリシアに、ジェーンがふふっと笑う。
それからレイヴンへ視線を向けた。
「気持ちを伝えるお手伝いですわ。本当はもっと早くからこうしていれば良かったのですけれど…。直接言葉にしないと伝わらないこともございます」
特にアリシア様が相手では、とジェーンは心の中で呟いた。
「…そうだな」
身につまされたレイヴンは神妙に頷くと、アリシアへ熱い視線を向けた。
「次は必ず僕が用意するからね」
そう言ってがふわりと笑う。
レオナルドに妬いたのだと全面的に認めたということだ。
反応に困ったアリシアは、小さな声で「…お願いいたします」と頷いた。
「まあまあ、随分と仲がよろしいんですねぇ」
ハンナが2人をにこにこ顔で見守っていた。
バスケットを届けた後、すぐに立ち去るつもりでいたハンナをレイヴンが引き留めたのだ。
それからハンナは給仕にまわっている。
アリシアが過ごしてきた日常を――完璧に装われた「王太子の婚約者」ではない、本当のアリシアを――知りたくてハンナを引き留めたレイヴンだが、手放しで喜ばれると居心地が悪く感じてしまう。
ハンナが無条件でレイヴンを歓迎してくれているのは、これまでの2人を知らないからだ。
レイヴンはアリシアの実家であるルトビア公爵家の侍女には嫌われていることを自覚していた。
もちろん公爵家の侍女として、王太子であるレイヴンに無礼な態度をとる者はいない。
それでもアリシア付きの侍女から向けられた視線はいつも冷ややかだった。
そもそもレイヴンは、アリシアと10年も婚約していたのに数回しか公爵家を訪問したことがない。
その僅か数回の時でさえ、レオナルドに会いに来たように装っていた。
アリシアは婚約者として出迎えてくれても、挨拶をしただけですぐに部屋へ戻ってしまう。
アリシアの後ろに控えた侍女がレイヴンに何かを言うことはない。
非難されることがないかわりに、仲を取り持とうとされたこともなかった。
アリシアの一番傍近くで仕えていたその侍女の名前も、レイヴンは知らないのだ。
ジェーンの花園は美しい。
ここはアリシアにとって大切な思い出の場所だろう。
それでもレイヴンは、ルトビア公爵家の庭でこんな風に過ごしてみたかったと思わずにはいられなかった。
レイヴンは公爵家でアリシアとお茶を飲んだことさえないのだ。
「あんなに小さかったアリシアお嬢様が奥方様になられて、ジェーンお嬢様ももうすぐ結婚なさるなんて、あたしも年をとるはずですねぇ。お揃いのドレスを着たお嬢様方が手を繋いで歩いていらしたのが昨日のことのようですのに」
「ああ、覚えている。あれは可愛かった」
レオナルドとロバートが、幼い頃の2人を思い出して頬を緩める。
レイヴンはそんな2人に視線を向けた。
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