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2章
48 侯爵家の過去①
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「王太子殿下は随分とお優しいのですねぇ。ジョッシュ様も、その1/10でもジェーンお嬢様を大切にして下さるとよろしいんですが…」
それまでにこにこしていたハンナの表情が曇る。
ジョッシュの不誠実な態度は侯爵家の隅々にまで知れ渡っているようだ。
「あたしはあの家でエミリー様の世話をするなんて、絶対に嫌ですよ。もしそんなことになったらお暇をいただきます」
ハンナはすぐ先に見える家に視線を向けると憤慨として言った。
ハンナが管理している家である。
「あの家でエミリー嬢を?エミリー嬢はあの家のことを知らないのだろう?」
レイヴンはハンナの視線を追って家の方を見る。
事情を知らないレイヴンが疑問に思うのは当然のことだった。
「あの家は、いえ、このエリアは、本来当主が身分の低い愛人を囲う為に作られたものなのです」
「…なんだって?」
ジェーンが気まずそうに説明を始めた。
余計な話題を出したことに気づいたハンナが、「しまった」という顔をする。
しかしもう取り消すことはできない。
「最近では私のお祖父様が、侯爵家で働いていた女中に手を出して愛人にしていました。愛人にあの家を与えて囲っていたのです」
ジェーンは家の方に視線を向けた。
「愛人になった女中は仕事を辞めてあの家に移り住みました。お祖父様は月に数回、日が暮れてからあの木戸を潜ってこちらの家に通っていたそうですわ」
あの家での暮らしは侘しい。
一切の労働を免除されるかわりに人づきあいは制限される。
そもそも身分の低い女中に侯爵家まで訪ねてくるような知り合いがいるはずがなく、それまでの女中仲間は当主の御手付きになった女へ蔑んだ目を向けて親しく口をきく者はいない。
あの家で1人、侯爵の訪れをただ待つだけの日々となる。
ジェーンの祖父は、デミオンのように本妻を放置して愛人に入れ込むようなことはなかった。
愛人となった女は孤独な日々を送っていたようだ。
「その女性は自分の立場をよく理解していて、あの家に移ってからは決して表に出てくることはなかったそうです。お祖父様も女主人であるお祖母様を蔑ろにすることは決してなく、家族のことも大切にしておられました。年末年始や花祭り、建国記念日といった家族で過ごす休日は、必ず本邸でお祖母様やお母様と過ごしていたのです。だからお祖母様は同じ敷地内に愛人がいても黙認することができたのです」
それはある意味とても貴族らしいことだった。
家の為に妻を娶り、跡取りをもうける。義務を果たした後であれば、愛人の1人や2人持っていても当然のことなのだ。
妻は女主人として家の全権を握るかわりに夫の愛人を黙認する。
多くの貴族はそうやって秩序を保っている。
「その女性がなにを思って過ごしていたのか、私にはわかりません。彼女は皆が家族で過ごす休暇を、常に1人で過ごすことになりました。特に年末年始休暇の時は…。10日程もある休みの間、お祖父様があの家を訪れることは決してありません。本邸の敷地からは侯爵家に挨拶に訪れる方々の馬車の音、馬の声、人々のざわめきが聞こえていたでしょう。寂しかったと思いますわ」
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ジェーンは家の方に視線を向けた。
「愛人になった女中は仕事を辞めてあの家に移り住みました。お祖父様は月に数回、日が暮れてからあの木戸を潜ってこちらの家に通っていたそうですわ」
あの家での暮らしは侘しい。
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あの家で1人、侯爵の訪れをただ待つだけの日々となる。
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