82 / 697
2章
52 『花の王国』③
しおりを挟む
「『花の王国』とはそんなお話です」
「…詳しいな」
「この2人が好きで、良く読まされましたからね」
レオナルドは肩をすくめるが、レオナルドもロバートも優しい顔をしている。
幼いアリシアとジェーンに絵本を読み聞かせる少し年長のレオナルドとロバート。
微笑ましい光景が目に浮かぶようだった。
「ねえ、ジェーン。使節団のこと、やっぱりお願いできないかしら?」
アリシアが硬い表情で呼びかけた。
アリシアからはこれまでの楽しい雰囲気が消えている。
聞いてはいけない話だと即座に判断したハンナは、そっと立ち上がると席を外した。
さすがにサンドラがいた頃からの者は、下働きであってもしっかり教育されているのだ。
「私たち『花の王国』に憧れていたわよね。あの頃私たちが憧れていたのは、お姫様かしら?ミアではなかったかしら?」
幼い頃を思い出す。
大好きだった物語。
あの頃2人で憧れていたのは、花々や妖精に囲まれたお姫様ではなかった。
大人になり、自分の意志で知らない世界へ旅に出るミアだった。
「私たちもいろんなところへ行ってみたいわね」
そう言って笑い合っていた2人は、成長していくうちに自身の身分や立場を理解してしまった。
世界を旅するミアは夢となり、今は花の王国を模した庭園が拠り所となっている。
「私たち、知らない世界に憧れたわね。ミアのように色んな国へ旅をしたいと思っていたわ。私にはもう難しいけれど…、あなたにはチャンスがあるの。使節団に入ればアルスタへ行くことができるのよ。アルスタの暮らしや文化、歴史、芸術、技術や産業、そこに住む人々。新しいものにたくさん出会って、学べることがたくさんあるわ。もちろん使節団としての仕事が第一だけど、お休みの日には私の分もいろんなところへ行って、いろんなものを見てきて欲しいわ」
ジェーンはアリシアの言葉を俯いてきいていた。
それはこれまで一度も忘れたことがない夢だ。
ただ、夢だった。
「それに私、学園でのあなたを知っているわ。3年間ずっとAクラスで、私たちと常にトップを争っていたわよね。あなたはアルスタ語も話せるし、歴史にも詳しいわ。でもなにより私はあなたと討論するのが楽しかった。あなたは自分の考えをしっかり言葉にして相手に伝えることができる。そして相手の考えを取り入れて、柔軟に自分の意見を変えることもできるわ。それは外交をする上で重要な能力だと思うの。秀でた能力を持っているのに使う場所がないなんて勿体ないことだわ」
ジェーンは俯いたまましばらくじっとしていた。
誰も、何も言うことができない。
ただ黙って2人を見守っていた。
「アリシア様」
しばらくしてジェーンが顔を上げた。
覚悟を決めた顔をしている。
答えが出たようだ。
「私、使節団加入のお話、お受けしたいと思います」
アリシアの顔がパッと輝いた。
それは同時にジョッシュとの婚約を解消するということでもある。
「使節団のお話は私にとって初めから魅力的なものでした。ですがその為にはジョッシュ殿との婚約を解消しなければいけません。…本当の目的はそちらなのですものね?」
ジェーンが悪戯っぽく笑いかけると、アリシアは視線を逸らした。
それを見てジェーンが笑う。
明るい笑顔だった。
「…詳しいな」
「この2人が好きで、良く読まされましたからね」
レオナルドは肩をすくめるが、レオナルドもロバートも優しい顔をしている。
幼いアリシアとジェーンに絵本を読み聞かせる少し年長のレオナルドとロバート。
微笑ましい光景が目に浮かぶようだった。
「ねえ、ジェーン。使節団のこと、やっぱりお願いできないかしら?」
アリシアが硬い表情で呼びかけた。
アリシアからはこれまでの楽しい雰囲気が消えている。
聞いてはいけない話だと即座に判断したハンナは、そっと立ち上がると席を外した。
さすがにサンドラがいた頃からの者は、下働きであってもしっかり教育されているのだ。
「私たち『花の王国』に憧れていたわよね。あの頃私たちが憧れていたのは、お姫様かしら?ミアではなかったかしら?」
幼い頃を思い出す。
大好きだった物語。
あの頃2人で憧れていたのは、花々や妖精に囲まれたお姫様ではなかった。
大人になり、自分の意志で知らない世界へ旅に出るミアだった。
「私たちもいろんなところへ行ってみたいわね」
そう言って笑い合っていた2人は、成長していくうちに自身の身分や立場を理解してしまった。
世界を旅するミアは夢となり、今は花の王国を模した庭園が拠り所となっている。
「私たち、知らない世界に憧れたわね。ミアのように色んな国へ旅をしたいと思っていたわ。私にはもう難しいけれど…、あなたにはチャンスがあるの。使節団に入ればアルスタへ行くことができるのよ。アルスタの暮らしや文化、歴史、芸術、技術や産業、そこに住む人々。新しいものにたくさん出会って、学べることがたくさんあるわ。もちろん使節団としての仕事が第一だけど、お休みの日には私の分もいろんなところへ行って、いろんなものを見てきて欲しいわ」
ジェーンはアリシアの言葉を俯いてきいていた。
それはこれまで一度も忘れたことがない夢だ。
ただ、夢だった。
「それに私、学園でのあなたを知っているわ。3年間ずっとAクラスで、私たちと常にトップを争っていたわよね。あなたはアルスタ語も話せるし、歴史にも詳しいわ。でもなにより私はあなたと討論するのが楽しかった。あなたは自分の考えをしっかり言葉にして相手に伝えることができる。そして相手の考えを取り入れて、柔軟に自分の意見を変えることもできるわ。それは外交をする上で重要な能力だと思うの。秀でた能力を持っているのに使う場所がないなんて勿体ないことだわ」
ジェーンは俯いたまましばらくじっとしていた。
誰も、何も言うことができない。
ただ黙って2人を見守っていた。
「アリシア様」
しばらくしてジェーンが顔を上げた。
覚悟を決めた顔をしている。
答えが出たようだ。
「私、使節団加入のお話、お受けしたいと思います」
アリシアの顔がパッと輝いた。
それは同時にジョッシュとの婚約を解消するということでもある。
「使節団のお話は私にとって初めから魅力的なものでした。ですがその為にはジョッシュ殿との婚約を解消しなければいけません。…本当の目的はそちらなのですものね?」
ジェーンが悪戯っぽく笑いかけると、アリシアは視線を逸らした。
それを見てジェーンが笑う。
明るい笑顔だった。
20
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
すれ違いのその先に
ごろごろみかん。
恋愛
転がり込んできた政略結婚ではあるが初恋の人と結婚することができたリーフェリアはとても幸せだった。
彼の、血を吐くような本音を聞くまでは。
ほかの女を愛しているーーーそれを聞いたリーフェリアは、彼のために身を引く決意をする。
*愛が重すぎるためそれを隠そうとする王太子と愛されていないと勘違いしてしまった王太子妃のお話
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる