【本編完結】幸福のかたち【R18】

朱里 麗華(reika2854)

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2章

56 アンジュの企み②

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 ジェーンが淡々と語る言葉を、アリシア以外の3人は呆然と聞いていた。
 趣味が悪いドレスだとは思ったが、あのドレスがもたらす結果をそこまで理解できていなかったのだ。
 
 ジョッシュは確かにジェーンを裏切り、不貞をはたらいていた。
 だけど貴族として、血筋の大切さは理解している。
 妻の義妹を愛人にしようとするような非道な男であっても、侯爵家の跡継ぎは侯爵家の血筋であるジェーンの子でなければならないと、それだけはわかっているのだ。
 それは貴族としての矜持でもあった。

 それがわかっていたから、アンジュはジョッシュに「ジェーンと関係を持つな」とは言えなかった。
 言われていてもジョッシュは従わないだろう。むしろそんな要求をするアンジュに不信感を持ったに違いない。
 それではどうすれば良いのか。
 ジョッシュ自身がジェーンに嫌悪感を持ち、たとえ義務であっても体を重ねたいと思わない様に仕向ければいいのだ。
 あれはその為のドレスだった。

「なんて女なの…!」

 ジョッシュが不貞をはたらいていたことは腹立たしいが、傷物の女を掴まされた上に衆目環視の中で恥をかかされて怒り狂うというのは、貴族として理解できてしまう。
 そしてジェーンとの初夜を拒否するだけでなく、社交界の笑い者となった復讐に、エミリーが生んだ子どもを跡継ぎに据えようと考えるようになるかもしれないのだ。

 いや、ジョッシュがそう考える様にアンジュが言葉巧み誘導するのだろう。
 ジョッシュや侯爵家の評判を著しく傷つけても己の望みを果たす。
 悪知恵が働くというのか、悪魔の様な狡猾さだった。

 アリシアが唇を噛みしめる。 
 それ以上強く噛むと傷になってしまうとジェーンが注意をする前に、気づかわし気なレイヴンの指がアリシアの唇に触れていた。
 アリシアがハッとして噛みしめていた唇をほどく。
 そんな2人を見て、こんな状況なのにジェーンは安堵していた。
 
「私が当初の予定通り初夜の夜に傷痕を見せていた場合のことですが、私は彼と長く婚約していました。望むような関係を築くことはできませんでしたが、その年月で少しでも情を持ってくれていたら、受け入れてくれるのではないかと一縷の望みを持っていました。ですがそれと共に、たとえ受け入れられなかったとしても、伯爵家の三男であるジョッシュ殿は私と離縁した場合、伯爵家の居候となるしかありません。そのまま私を受け入れて侯爵家の当主となるか、離縁して伯爵家に戻り居候になるのか。彼はきっと侯爵家の当主になる為に渋々でも私を選ぶと思っていました。ですがノティス殿下は違います」

 ノティスはジェーンと結婚しなければ公爵となる。
 今は後ろ盾になろうという貴族がいないとしても、公爵になった後であれば関係を繋ぎたいと思う貴族はいるはずだ。
 その中から後ろ盾となる家と、妻として迎える令嬢を選べばいい。

「ノティス殿下は信じていた大人たちの悪意やその本性を知ってしまった為に人が信用できないと仰いましたわね。それなのに私と結婚をして、初夜の床で私が傷物であることを知らされたりしたら…。妻になった女にまで騙されていたのだと知れば、殿下は今度こそ人を信じることができなくなるでしょう。しかもこれはレイヴン殿下や国王陛下、王妃様にまで望まれた結婚です。皆さまに騙されたと思われるかもしれません。これまで辛い思いをしてきた殿下に、これ以上そんな思いをさせるわけにはいきません」

 だからこの婚約はお断り致します。

 ジェーンはきっぱりとそう言った。



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