【本編完結】幸福のかたち【R18】

朱里 麗華(reika2854)

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2章

61 デミオンとの取引③

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 あの夜、帰宅したデミオンは家令から留守の間にあったことを教えられたようで、鬼気迫る形相で公爵邸に現れた。

「アンジュを返せ!貴様ら、アンジュを返せ!!」

 玄関ホールで喚きながら家令に迫るデミオンを、公爵家の護衛が両側から止めていた。
 そこにアダムが2階から降りてくる。

「アンジュを返せだと?」

 怒りを漲らせた低い声に、普段は対抗心を剥き出しにしているデミオンも、アダムの怒りの深さを察したようで身を竦ませた。

「お前はあの女が娘に何をしていたのか知っているのか?」

 アダムに睨みつけられてデミオンが俯く。
 デミオンが知っていて黙認していたのだと確信したアダムはデミオンを殴りつけた。
 2度、3度と殴りつける。
 デミオンを拘束していた護衛が手を離すとその場に崩れ落ちた。

「頼む、アンジュを返してくれ。頼む、この通りだ…」

 玄関ホールに蹲ったデミオンは、アダムに縋りついて懇願し始めた。
 アンジュがしたことは犯罪であり、ルトビア公爵家の権力を使えばこのまま闇に葬ることも可能なのだと、デミオンは知っているのだ。

「頼む、アンジュがいないと俺は生きられない…。アンジュがいないと生きていけないんだ…。頼むよ…」

 足元に泣き縋る弟を、アダムは怒りに打ち震えながら睨んでいた。

「あの女は我が公爵家の血筋に手を上げて怪我を負わせた。処分を決めるのは母上が来てからだ」

 それだけ言うと、護衛たちに「門の外へ捨てておけ」と告げて足に絡みついた腕を振り払い、踵を返した。

 デミオンはアダムが命じた通り、護衛たちの手によって門の外に捨てられた。
 屋敷に現れてからつまみ出されるまで、一度もジェーンのことを口にしなかった。

 ルトビア前公爵夫人が領地から出て来たのは、それから5日後のことだった。




「5日後?」

 公爵領の中でも場所によるが、主要な邸宅がある場所からなら王都まで5日も掛からない。
 レオナルドが笑った。

「父ですよ。父も祖母もデミオン殿が継承権を盾にアンジュの開放を要求することは分かっていました。その対応策を練る為と、…解放せざるを得ないアンジュへ罰を与える為に時間を稼いだのです。実際はその頃祖母は領地ではなく王都にある別邸にいたので、当日父が帰宅するより早く公爵邸へ来ていました」

 既に社交界から爪はじきにされていたデミオンとアンジュだけが、前公爵夫人は領地にいると思い込んでいたのだ。
 
 オレリアから知らせを受けたアダムも早々に帰宅していた。
 父と祖母の話し合いはジェーンがいる客間で行われ、レオナルドたちは入ることが許されなかった。

 この時レオナルドは15歳、アリシアは12歳。
 周りから優秀だと言われていても、まだ子どもなのだと思い知らされた。

「お父様が侯爵位の継承権を盾にアンジュ殿の開放を求めるのはわかりきったことでした。お父様は…アンジュ殿を心から愛しているのです」 

 忌々しいがそれは認めるしかない。
 デミオンがサンドラと結婚したのは、アンジュとの生活資金の為であり、デミオンにとってはジェーンの存在も侯爵位も、アンジュを裏切り不貞をはたらいた証でしかなかった。
 アンジュの命を助ける為なら不貞の証である侯爵位など簡単に捨ててしまえるのだ。

 そして案の定話し合いの席で、デミオンは「アンジュを返さなければ侯爵を引退する」と言い立てた。




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