【本編完結】幸福のかたち【R18】

朱里 麗華(reika2854)

文字の大きさ
92 / 697
2章

62 デミオンとの取引④/アリシアの秘密①

しおりを挟む
 ジェーンはまだ12歳で結婚もしていない。

 デミオンが引退したら侯爵位は遠縁の者に移る。
 キャンベル侯爵家の一族としてジェーンは何度も顔を合わせているが、彼には既に息子がいる。彼が侯爵位を継いでしまえばその後継は彼の息子だ。

 ルトビア公爵家としても、他家の継承権について口出しをすることはできない。
 公爵家がジェーンに侯爵位を返すよう要求すれば、公爵家が己の血筋を使って侯爵家を乗っ取ろうとしていると非難されるだろう。
 公爵家の権力が強いだけに、反発する貴族が多く出てくるのは間違いなかった。

 爵位をジェーンが受け継ぐには、ジェーンが結婚するまでデミオンが侯爵でいるしかない。
 そこでアンジュを返す代わりに条件が提示された。

・2度とジェーンに暴力を振るわないこと。
・衣服や食事など、生活する為に必要なものをきちんと与えること。
・ジェーンの結婚と同時にその夫に爵位を譲ること。
・今後ジェーンの社交活動を妨害しないこと。

「これを守るならアンジュは解放し、資金援助もしてやる。破ったら即資金援助を打ち切るからな」

 アダムにそう言われてデミオンは一も二もなく頷いた。
 地下牢から憔悴して薄汚れたアンジュが引き出されてくると、その身を抱き寄せ、1度も振り返らずに帰っていった。
 傷つけられたジェーンへの気遣いや謝罪は結局1度もなかった。




「社交活動の妨害?」

「アンジュ殿は私を嫌っていましたが、初めから手を上げられていたわけではありません。それが始まったのは私がお茶会に招かれるようになってからです」

 ジェーンがお茶会に招かれるようになると、祖母の前公爵夫人が必要なドレスや装飾品を贈ってくれた。
 それは当然用意すべき侯爵夫妻が用意しないからだが、アンジュにそんなことは関係ない。
 ジェーンのものを欲しがるエミリーがそれを見逃すはずがないが、さすがのデミオンも自分の母親が贈ったものを横取りするとどうなるかわかっていたようで、最初の頃はエミリーを止めていた。
 だがそうするとアンジュがヒステリーを起こす。

「なぜあの女の子どもを庇うのよ!!エミリーよりあの女の子どもが可愛いんでしょう!!やっぱりあの女を愛してたのよ!!!」

 アンジュに惚れているデミオンは、ジェーンがお茶会に出掛ける度にそう言って泣き喚くアンジュが可哀想であり、他の女と子どもを作った罪悪感に苛まれてしまう。
 次第にエミリーを止めるのをやめ、好きにさせるようになった。

 そうするとドレスのないジェーンはお茶会に出られない。
 出席の返事をしているお茶会を直前で欠席することもあった。
 それは当然アリシアから祖母の耳に入る。

 だがここで祖母は直接デミオンを叱責しなかった。
 この頃ルトビア前公爵夫人と現公爵夫人は、それぞれ社交に精を出していた。
 2人を囲むのは公爵家と親交を持ちたい貴族の夫人たちだ。心配顔の夫人たちからジェーンの話題が出ることになる。

「〇〇侯爵夫人のお茶会を欠席されたようですが…」
「〇〇伯爵夫人のお茶会も直前で欠席されたと聞いています」

 そう言われると、彼女たちは憂い顔でこう話すのだ。

「性の悪い女がジェーンの社交を邪魔するのです。自分の生んだ娘が跡を継げないからといって、意地の悪いことですわ」

 それだけで貴婦人たちは正しく事情を察してくれた。




しおりを挟む
感想 441

あなたにおすすめの小説

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

俺様上司に今宵も激しく求められる。

美凪ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。 **2026.01.02start~2026.01.17end** ◆エブリスタ様にも掲載。人気沸騰中です! https://estar.jp/novels/26513389

黒の神官と夜のお世話役

苺野 あん
恋愛
辺境の神殿で雑用係として慎ましく暮らしていたアンジェリアは、王都からやって来る上級神官の夜のお世話役に任命されてしまう。それも黒の神官という異名を持ち、様々な悪い噂に包まれた恐ろしい相手だ。ところが実際に現れたのは、アンジェリアの想像とは違っていて……。※完結しました

ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました

大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる

ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。 幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。 幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。 関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

処理中です...