97 / 697
2章
67 ジェーンの決意②
しおりを挟む
「私は、自分が被害を受けるのは我慢をすればいいと思っていました。すべては爵位を受け継ぐ為です。母や祖母が受け継いできた爵位と領地を、私も受け継ぎ子どもに受け渡す為に、これまですべてのことに耐えてきました。ですがアリシア様は違います。アリシア様は私の大切な従妹。そのアリシア様が私の為に傷を負い、一人で重い決断をして、今までその正否を悩んで苦しんでいたのでしょう。そのすべてを父は裏切った。いえ、あんな男はもう父ではありません。絶対に許さない…!!」
ジェーンの慟哭を全員が静かに聞いていた。
胸中に浮かぶのは同じことだ。
デミオンを断罪すれば爵位が無くなる。
これまで耐えてきたことが無駄になる。
それをどうすればいい?
「…とにかくこれ以上この屋敷にジェーンを置いておくわけにはいかない。取り敢えず公爵邸に移ろう」
「いや、待ってくれ」
レオナルドをレイヴンが止めた。
ジェーンを公爵邸へ移し、通常の手順でデミオンやアンジュを告発すれば、爵位や領地を失くすことになる。
「…王宮へ連れて行き、父上と母上に相談しよう。父上も母上もジェーン嬢のことを心配している。悪いようにはしないだろう」
レオナルドがジェーンを見ると、しっかりと頷いた。
デミオンとアンジュと決別する。
しっかりと決意した眼差しだった
木戸の前までロバートがジェーンを横抱きにして進んだ。
あまり歩かせない方が良いという配慮だが、対策が決まるまでデミオンたちに警戒されない方が良い。
だから木戸から馬車まではロバートのエスコートで歩くことにした。
ジェーンがそうしたいと主張したのだ。
「なにか持っていく物はない?」
もう二度とこの屋敷に戻ることはないかもしれない。
そう思ったジェーンは、ブローチを取りに戻った。
ルトビア公爵家のブローチである。
大切な物なので外に出てくる前に部屋へ戻していた。
あの時は当然のことだと思っていたが、今は失敗だったと思う。
ジェーン1人で取りに行くのは心配なので、ロバートと護衛が3人ついて行くことになった。
アリシアはレイヴンにずっと横抱きにされていた。
アリシアは怪我をしていないし、自分で歩けると主張したが、顔を見ると泣いていたのがわかってしまう。
「アリシアの泣き顔を誰にも見せたくないんだ」
レイヴンのこれは独占欲だが、「人前で感情を露わにするなんて王太子妃として失格だ」と教えられて育ったアリシアは従うしかない。
かくしてアリシアはレイヴンの胸に顔を埋めたまま馬車まで運ばれた。
屋敷に戻ったジェーンとロバートを待つ間、レイヴンが騎乗の護衛1人を先に王宮へ戻して侍医を準備させておくよう命じていた。
そしてもう1人の護衛に、レオナルドが書いた文をルトビア公爵邸へ届けるよう命じている。
「ごめんね、アリシア。僕が知った以上、父上に知らせないわけにはいかないんだ」
そう言って謝るレオナルドを止めることはできない。
本当はあの時、アリシアが話さなければいけなかった。
そう思うとまた涙が溢れてしまう。
「ごめんなさい、お兄様。どうかマリアンのことを叱らないで。マリアンに罰を与えないで」
「…それは父上と相談しよう」
レイヴンに横抱きにされたアリシアの頬に手を伸ばし、涙を拭う。
大切に、大切にしていた妹に傷を負わせていたなんて許せない。
アリシアの涙を優しく拭いながら、レオナルドはふつふつと湧いてくる怒りを抑え込んでいた。
帰りの馬車はレイヴンとアリシアの2人と、レオナルド、ロバート、ジェーンの3人にわかれて乗った。
馬車の中でもレイヴンはアリシアを離さない。
「マリアンのことは僕も公爵にお願いするから大丈夫だよ」
アリシアの髪を撫でながらそう言い聞かせる。
レイヴンはこれまで知らなったアリシア付きの侍女の名前をやっと知ったのだ。
ジェーンの慟哭を全員が静かに聞いていた。
胸中に浮かぶのは同じことだ。
デミオンを断罪すれば爵位が無くなる。
これまで耐えてきたことが無駄になる。
それをどうすればいい?
「…とにかくこれ以上この屋敷にジェーンを置いておくわけにはいかない。取り敢えず公爵邸に移ろう」
「いや、待ってくれ」
レオナルドをレイヴンが止めた。
ジェーンを公爵邸へ移し、通常の手順でデミオンやアンジュを告発すれば、爵位や領地を失くすことになる。
「…王宮へ連れて行き、父上と母上に相談しよう。父上も母上もジェーン嬢のことを心配している。悪いようにはしないだろう」
レオナルドがジェーンを見ると、しっかりと頷いた。
デミオンとアンジュと決別する。
しっかりと決意した眼差しだった
木戸の前までロバートがジェーンを横抱きにして進んだ。
あまり歩かせない方が良いという配慮だが、対策が決まるまでデミオンたちに警戒されない方が良い。
だから木戸から馬車まではロバートのエスコートで歩くことにした。
ジェーンがそうしたいと主張したのだ。
「なにか持っていく物はない?」
もう二度とこの屋敷に戻ることはないかもしれない。
そう思ったジェーンは、ブローチを取りに戻った。
ルトビア公爵家のブローチである。
大切な物なので外に出てくる前に部屋へ戻していた。
あの時は当然のことだと思っていたが、今は失敗だったと思う。
ジェーン1人で取りに行くのは心配なので、ロバートと護衛が3人ついて行くことになった。
アリシアはレイヴンにずっと横抱きにされていた。
アリシアは怪我をしていないし、自分で歩けると主張したが、顔を見ると泣いていたのがわかってしまう。
「アリシアの泣き顔を誰にも見せたくないんだ」
レイヴンのこれは独占欲だが、「人前で感情を露わにするなんて王太子妃として失格だ」と教えられて育ったアリシアは従うしかない。
かくしてアリシアはレイヴンの胸に顔を埋めたまま馬車まで運ばれた。
屋敷に戻ったジェーンとロバートを待つ間、レイヴンが騎乗の護衛1人を先に王宮へ戻して侍医を準備させておくよう命じていた。
そしてもう1人の護衛に、レオナルドが書いた文をルトビア公爵邸へ届けるよう命じている。
「ごめんね、アリシア。僕が知った以上、父上に知らせないわけにはいかないんだ」
そう言って謝るレオナルドを止めることはできない。
本当はあの時、アリシアが話さなければいけなかった。
そう思うとまた涙が溢れてしまう。
「ごめんなさい、お兄様。どうかマリアンのことを叱らないで。マリアンに罰を与えないで」
「…それは父上と相談しよう」
レイヴンに横抱きにされたアリシアの頬に手を伸ばし、涙を拭う。
大切に、大切にしていた妹に傷を負わせていたなんて許せない。
アリシアの涙を優しく拭いながら、レオナルドはふつふつと湧いてくる怒りを抑え込んでいた。
帰りの馬車はレイヴンとアリシアの2人と、レオナルド、ロバート、ジェーンの3人にわかれて乗った。
馬車の中でもレイヴンはアリシアを離さない。
「マリアンのことは僕も公爵にお願いするから大丈夫だよ」
アリシアの髪を撫でながらそう言い聞かせる。
レイヴンはこれまで知らなったアリシア付きの侍女の名前をやっと知ったのだ。
20
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
すれ違いのその先に
ごろごろみかん。
恋愛
転がり込んできた政略結婚ではあるが初恋の人と結婚することができたリーフェリアはとても幸せだった。
彼の、血を吐くような本音を聞くまでは。
ほかの女を愛しているーーーそれを聞いたリーフェリアは、彼のために身を引く決意をする。
*愛が重すぎるためそれを隠そうとする王太子と愛されていないと勘違いしてしまった王太子妃のお話
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる