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2章
76 マルグリットの采配③
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「母上はどのような処罰を考えているのですか?」
「具体的なことはこれから陛下と相談して決めることになるけれど、アリシアのことがなければ爵位の剥奪も領地の没収も必要ないわ。何より被害者であるジェーン嬢に不利益が及ばないことが1番でしょう。侯爵にはその地位に留まったまま社会的に死んでもらうことになるわ。あの一家はすでに登城を差止められているから、今でも社会的に死んでいるようなものだけどね」
「…わかりました。わたし共も賛同致します。ですがデミオンが取り決めを破ったことに違いはありません。その報復はこちらでさせていただきます」
アダムが低い声で言った。
表面上はアリシアへの暴行を見逃すが、取り決めを破ったことを口実にしてその報復をしようというのだ。
「目こぼしできる範囲内でな」
国王がぼそっと呟き了承したことで、それは決定された。
「では侯爵家はこれまで通りジェーン嬢が受け継ぐことになるわね。そうすると次の婚約者が必要になるけれど、ノティスとの婚約を断ったのは侯爵家が取り潰されると思っていたからかしら?」
「それは…私の体に傷痕があるからです。ジョッシュ殿は傷痕のことを知りません。私はこれを隠して結婚するつもりでした。初夜の時に傷痕があることを知られても『三男で継ぐ家のないジョッシュ殿は私を受け入れるしかない』、『いつかは受け入れてくれるはずだ』。そう思っていました。ですがノティス殿下は違います。ノティス殿下は私と結婚しなければ公爵となられます。公爵となったノティス殿下であれば、縁を結び後ろ盾になろうという貴族もいるでしょう。その方々の中から殿下の年頃と合う素敵な令嬢をお選びになるべきです」
「ジェーン嬢は父上と母上、そしてノティスのことを考えてくれているのです」
「なに?」
「幼い頃、母親とその周囲の大人たちの思惑に翻弄されていたノティスは母上の元でやっとまともな生活を送れるようになりました。今回の縁組は父上と母上が望まれたこと。ノティスは今、父上と母上を心から信頼しています。その父上と母上に傷物の令嬢の元へ婿入りされられたのだと知ればノティスは傷つき、今度こそ誰も信用できなくなるかもしれない。ジェーン嬢はそう考えて辞退してくれたのです」
「そう…。そうなの」
体に残る傷痕が消えることはない。
それはいつまでもついてくる問題だ。
先ほどレイヴンから婚約を打診された時より今は状況が悪い。
デミオンとアンジュによる虐待が公になれば、ジェーンの体に残る傷痕も公のものとなる。
そうなれば傷痕を隠したまま婿を取るということはなくなるが、傷物であると広く知れ渡ることになる。
まさにデミオンとアンジュが狙っていたことで、2人はこれでジョッシュがジェーンと関係を結ぶことはないと確信を持っていた。
「ジェーン嬢、あなたの人となりはよくわかったわ。私たちのことを深く考えてくれているのね。この話は一旦保留にしましょう。あなたはこれからアルスタへ行くことだし、焦る必要はないわ。婚約者のことはゆっくり考えることにしましょう」
「はい、ありがとうございます」
そう答えたが、これから新しい婚約者を探すのが難しいことはジェーンにも良くわかっていた。
外聞をどう取り繕おうと、ジェーンが義妹に婚約者を寝取られたことは既に広く知られている。
婚約はこちらから申し入れての解消となるが、経歴に傷がつくのは間違いない。
更に父と義母から虐待を受け、体にも傷痕がある。
虐待した両親は公に処罰され、社交界から抹殺されるという。
領地の経済状況も火の車だ。ルトビア公爵家からの資金援助がなければ立ち行かない。
いくら入り婿になれば侯爵位が継げるといっても、こんな状態のジェーンと結婚したい者などいないだろう。
ジェーンは少し可笑しくなった。
先ほどレイヴンは、「この婚約はノティスにとってのメリットばかりでジェーン嬢にとって良いところがない」と言っていたが、とてもそうは思えない。
こんな不良債権を押し付けられたらノティスが気の毒だ。
「具体的なことはこれから陛下と相談して決めることになるけれど、アリシアのことがなければ爵位の剥奪も領地の没収も必要ないわ。何より被害者であるジェーン嬢に不利益が及ばないことが1番でしょう。侯爵にはその地位に留まったまま社会的に死んでもらうことになるわ。あの一家はすでに登城を差止められているから、今でも社会的に死んでいるようなものだけどね」
「…わかりました。わたし共も賛同致します。ですがデミオンが取り決めを破ったことに違いはありません。その報復はこちらでさせていただきます」
アダムが低い声で言った。
表面上はアリシアへの暴行を見逃すが、取り決めを破ったことを口実にしてその報復をしようというのだ。
「目こぼしできる範囲内でな」
国王がぼそっと呟き了承したことで、それは決定された。
「では侯爵家はこれまで通りジェーン嬢が受け継ぐことになるわね。そうすると次の婚約者が必要になるけれど、ノティスとの婚約を断ったのは侯爵家が取り潰されると思っていたからかしら?」
「それは…私の体に傷痕があるからです。ジョッシュ殿は傷痕のことを知りません。私はこれを隠して結婚するつもりでした。初夜の時に傷痕があることを知られても『三男で継ぐ家のないジョッシュ殿は私を受け入れるしかない』、『いつかは受け入れてくれるはずだ』。そう思っていました。ですがノティス殿下は違います。ノティス殿下は私と結婚しなければ公爵となられます。公爵となったノティス殿下であれば、縁を結び後ろ盾になろうという貴族もいるでしょう。その方々の中から殿下の年頃と合う素敵な令嬢をお選びになるべきです」
「ジェーン嬢は父上と母上、そしてノティスのことを考えてくれているのです」
「なに?」
「幼い頃、母親とその周囲の大人たちの思惑に翻弄されていたノティスは母上の元でやっとまともな生活を送れるようになりました。今回の縁組は父上と母上が望まれたこと。ノティスは今、父上と母上を心から信頼しています。その父上と母上に傷物の令嬢の元へ婿入りされられたのだと知ればノティスは傷つき、今度こそ誰も信用できなくなるかもしれない。ジェーン嬢はそう考えて辞退してくれたのです」
「そう…。そうなの」
体に残る傷痕が消えることはない。
それはいつまでもついてくる問題だ。
先ほどレイヴンから婚約を打診された時より今は状況が悪い。
デミオンとアンジュによる虐待が公になれば、ジェーンの体に残る傷痕も公のものとなる。
そうなれば傷痕を隠したまま婿を取るということはなくなるが、傷物であると広く知れ渡ることになる。
まさにデミオンとアンジュが狙っていたことで、2人はこれでジョッシュがジェーンと関係を結ぶことはないと確信を持っていた。
「ジェーン嬢、あなたの人となりはよくわかったわ。私たちのことを深く考えてくれているのね。この話は一旦保留にしましょう。あなたはこれからアルスタへ行くことだし、焦る必要はないわ。婚約者のことはゆっくり考えることにしましょう」
「はい、ありがとうございます」
そう答えたが、これから新しい婚約者を探すのが難しいことはジェーンにも良くわかっていた。
外聞をどう取り繕おうと、ジェーンが義妹に婚約者を寝取られたことは既に広く知られている。
婚約はこちらから申し入れての解消となるが、経歴に傷がつくのは間違いない。
更に父と義母から虐待を受け、体にも傷痕がある。
虐待した両親は公に処罰され、社交界から抹殺されるという。
領地の経済状況も火の車だ。ルトビア公爵家からの資金援助がなければ立ち行かない。
いくら入り婿になれば侯爵位が継げるといっても、こんな状態のジェーンと結婚したい者などいないだろう。
ジェーンは少し可笑しくなった。
先ほどレイヴンは、「この婚約はノティスにとってのメリットばかりでジェーン嬢にとって良いところがない」と言っていたが、とてもそうは思えない。
こんな不良債権を押し付けられたらノティスが気の毒だ。
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