【本編完結】幸福のかたち【R18】

朱里 麗華(reika2854)

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2章

87 新しい始まり①

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 翌朝、アリシアはいつもより早い時間に起こされた。
 
 エレノアに促されて浴室へ移動する。
 レイヴンは名残惜しそうにしていたが、アリシアの目は腫れてしまっているのだ。
 昨日レイヴンが冷やしてくれていたのに、その後もまた泣いたので無駄になってしまった。
 時間を掛けてケアをして、丁寧に化粧で隠して貰わなければならない。

 身支度を終えて部屋に入るとレイヴンが待っていた。
 最近は毎日一緒に朝食を摂っているので、特に変わったことではない。
 レイヴンがアリシアを見て嬉しそうに微笑み、そっと抱き締める。そして食事が用意された席へとエスコートしてくれる。

 それはいつものことなのに、アリシアは何故か落ち着かない気持ちになった。
 アリシアの受け止め方が変わったのかもしれない。

 朝食を終えてレイヴンと一緒にジェーンの部屋へ行くと、レオナルドが既に来ていた。
 ジェーンが使節団の研修に合流するのはデミオンとアンジュの処罰が終わった後だ。
 それまでは王太子宮の客室で過ごすことになっている。

「お兄様!早くから来てくれてありがとう」

「可愛い妹たちの為だからね」

 アリシアがレオナルドの背に腕をまわすと、レオナルドも軽く抱き締めてくれる。
 ジェーンが着ているのはアリシアが嫁ぐ時に公爵邸に残してきたもので、コルセットをつけずに着られる楽なワンピースだ。侯爵邸から何も持ってこなかったジェーンの為に、レオナルドが公爵邸からアリシアのドレスを沢山運び込んでいた。

「アリシア様もレオ兄様もありがとうございます。アリシア様のドレスをこんなに譲っていただくなんて申し訳ないですわ」

「私のことは気にしなくて良いわ。誰も着なければ捨てられるものだもの」

 ジェーンは朝から運び込まれたドレスの量に圧倒されいるようで、呆然として見えた。
 アリシアはドレスも装飾品も、一度限りのものだと思っていない。気に入ったドレスを何回でも着たいと思っている。
 公爵邸に残してきたドレスは王太子宮に持ち込めず、もう着ないとわかっていても気に入っていて捨てるのが忍びなかったものたちだ。
 どれも新品同様とは言えないが、マリアンがきちんと管理してくれているので普段使いするには支障がないはずだ。

「ところで昨夜、ひと騒ぎあったみたいね」

 ジェーンの後ろには侍女が2人控えている。
 ジェーンがここにいる間、身の回りの世話をするよう手配した侍女だ。
 アリシアが侍女の方を見ると、2人はびくっと体を強張らせた。

 昨日ジェーンは侍医たちの診察を受けた後、用意された簡単なワンピースを着ていた。
 この侍女たちは、部屋へ戻ったジェーンに着替えを手伝うと申し出たのだ。
 ジェーンは「1人で着替えられるから」と手伝いを断ったが、2人はそれが仕事なのだと譲らない。
 しばらくの押し問答の後、仕方なく手伝ってもらったのだが、侍女たちはワンピースに隠されていた痣だらけの体を見て悲鳴を上げたのだった。
 
 それは以前公爵邸でもあったことで、そうなるとわかっていたからジェーンは断ったのだが、この2人の侍女は随分と慇懃な態度で「仕事を奪うな」というようなことを言ったらしい。
 昨夜あったことはエレノアを通してすべてアリシアの耳に入っている。

「何も知らずにこの痣を見ると誰でも驚きますわ。気の毒なことをしてしまいました」

 ジェーンはこの2人に丁寧に謝り、懐妊疑惑は間違いであることや、侍医たちにはこの怪我を診てもらっていたのだと説明した。
 実際に痣を見た2人はジェーンの話を信じるしかない。
 2人は青くなって酷い態度を取ったことを謝ったという。

 この2人によって、王太子宮内に広がったジェーンの懐妊疑惑は間違いだと既に広まりつつある。
 間違いだと知ったエレノアは、騒動を報告した後頭を下げていた。
 最もエレノアが誤るべきはレイヴンだろう。

「この者たちを許すと?」

 アリシアが問うと、ジェーンは嬉しそうに笑って頷いた。
 
「私、嬉しかったのですわ。噂が本当なら、私はこんなに良くしてくださるアリシア様から夫を寝取った最低な女ですもの。彼女たちはアリシア様を思って怒っていたのですわ。アリシア様はこちらで大切にされているのですね。僭越ながら、私、安心致しました」

「当然だ。アリシアに無礼を働く者は僕が許さない」

 硬い声でレイヴンが答えた。驚くアリシアを引き寄せてこめかみに口づける。
 ジェーンはそんなレイヴンを見て目を瞬かせた後、楽しそうに笑った。




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