【本編完結】幸福のかたち【R18】

朱里 麗華(reika2854)

文字の大きさ
118 / 697
2章

88 新しい始まり②

しおりを挟む
「…これがアリシアが着ていたものなのか」

 アリシアを腕に抱いたまま部屋の中を見渡して、レイヴンが呟いた。
 部屋の中の至る所に、運び込まれたまま収納しきれていないドレスが置かれている。
 
 アリシアを訪ねたことがないレイヴンは、アリシアが公爵邸で過ごしていた時のドレスを知らない。
 ここにあるドレスは、どれも見たことがないものばかりだ。

 アリシアが着ているところを見てみたかった。
 自分のしてきたことが如何に酷いことだったのか、思い知ったばかりのレイヴンは自己嫌悪に陥るばかりだ。
 胸が痛むのを抑えられない。

「お兄様、一度に随分持ってきましたのね」

 レイヴンの腕から抜け出したアリシアが部屋の中を見渡した。
 近くにあるドレスを手に取ってみたりしている。
 2日後にはまた部屋を移るのに大変だわ、とアリシアが呆れたように言うと、レオナルドが苦笑した。

「マリアンが張り切っていてね。あれもこれもと出してくるから、選びきれなくて全部持ってきたんだ」

 ふと真面目な顔になる。

「マリアンに昨日あったことを話したよ。侯爵邸での事件を僕たちがすべて知ったことも話した。父上の書斎に呼び出されて、部屋の中に母上と僕がいるのを見た時から何の話をされるのか見当がついていたみたいだ。マリアンは落ち着いていて、自分から辞職を願い出た」

「お兄様!」

「もちろん引き留めたよ。アリシアやレイヴン殿下の言葉があったからじゃない。マリアンは一言も言い訳をしなかった。ただ本来の職務を果たさなかったことを謝罪して辞職を申し出たんだ。マリアンの普段の仕事ぶりは僕たちも知っている。彼女は信頼できる侍女だ。父上も自然に引き留めていたよ」

「では、マリアンはこれからも公爵邸で働いてくれるのですね。良かったわ。ありがとうございます、お兄様」

 心から嬉しそうに笑うアリシアを見て、レオナルドも嬉しくなる。
 だけど苦言も忘れない。

「次に何かあった時は絶対に言わなきゃ駄目だよ。何かあった時は昨日みたいに皆で対策を考えるんだ」

 アリシアが怪我をしていたら冷静でいられるとは思わないけれど。

 レオナルドはその思いを口には出さない。

「はい。ごめんなさい、お兄様」

 目を伏せて項垂れるアリシアを、レオナルドは抱き締めた。

「君が無事で良かった。………これは兄妹愛なんだけど、怖い目で睨んでるからそろそろ返そうかな」

「え?」

 レオナルドの視線を追って振り返ると、レイヴンが不機嫌そうな、複雑な顔でアリシアを見ていた。
 レオナルドがアリシアの背に回していた腕を離すと、レイヴンがアリシアを引き寄せてぎゅっと抱き締める。

「…僕の妻だから」

「知っていますよ」

 レオナルドは苦笑した。

 そこへ扉を叩く音がしてマルグリットの訪問が告げられた。
 部屋に入ってきたマルグリットは、礼を取るアリシアたちに微笑んで応えながらジェーンの姿に目を止める。

「ジェーン嬢、素敵なワンピースね」

 マルグリットは微笑んでいるが、ジェーンはさっと顔色を変えた。

「ご無礼な姿で申し訳ありません」

 かつてアリシアが着ていたワンピースである。
 生地の質も仕立ても申し分ないものだ。
 それでもコルセットをつけずに着るこのワンピースが、王太子宮で過ごすのに適したものだとジェーンも思っていない。

「話は聞いているから大丈夫よ。だけどコルセットがつけられないのは困ったわね」

 マルグリットの顔か曇った。




 

しおりを挟む
感想 441

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

お久しぶりです、元旦那様

mios
恋愛
「お久しぶりです。元旦那様。」

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

すれ違いのその先に

ごろごろみかん。
恋愛
転がり込んできた政略結婚ではあるが初恋の人と結婚することができたリーフェリアはとても幸せだった。 彼の、血を吐くような本音を聞くまでは。 ほかの女を愛しているーーーそれを聞いたリーフェリアは、彼のために身を引く決意をする。 *愛が重すぎるためそれを隠そうとする王太子と愛されていないと勘違いしてしまった王太子妃のお話

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

処理中です...