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2章
90 訊けない想い①
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「だけど座学を受けるにしても服装は問題ね」
「…制服のようなものがあればいいのですが」
ぽつりと呟いたのはアリシアだ。
マルグリットが目を瞬かせる。
「制服?」
「はい。王立学園の制服のように決められたものがあれば、それを着ていてもおかしくありません」
「制服」と聞いてレイヴンが思い出すのは学園で着ていた制服だったが、アリシアが考えていたことも同じだったようだ。
レイヴンは学生の頃を思い出す。
王立学園に制服はあるが、形式的なもので必ず着なければいけないものではない。
貴族の子どもたちが通う学園では制服で通う者の方が少数だ。
だけどアリシアとジェーンは常に制服を着て通っていた。
入学式で制服姿のアリシアを見つけたレイヴンは心底驚いた。
令嬢たちはドレスの質やデザインで家の家格や財力を見せつけ合うものだ。
レイヴンの婚約者であるアリシアがどんなドレスを着てくるのか注目していた生徒たちは一様に驚いた様子を見せた。
だけどアリシアは、そんな周りの目を全く気にせず前を向いている。
翌日からは、レイヴンも制服で通うことにした。
もちろんアリシアに合わせる為だ。
王太子とその婚約者が制服で通うのを見た生徒たちは、自然と制服を着るようになっていった。
初めは戸惑っていた上級生たちも、制服で通う生徒が増えるうちに倣うようになっていく。
1年も経つ頃には学園全体で見ても私服で通う生徒の方が少数になり、それはレイヴンとアリシアの在学期間中続いていた。
結局アリシアが学園でドレスを着たのは卒業パーティーの時だけである。
その理由が、今では理解できた。
アリシアが制服を着ていたのは、ジェーンの為なのだ。
ジェーンの入学金や制服代はアダムが払ったのだろうが、学園に着て通えるようなドレスを与えられていなかった。ジェーンが持っているのは、エミリーの興味を惹かないような質素で地味なドレスだけだ。
侯爵家の令嬢がそんなドレスを着ていたら蔑みの対象になる。
自分のせいで侯爵家の評判を落とすわけにはいかないジェーンは、制服で通うしかない。
それを知っていたアリシアは、自分も制服で通うことを選んだ。
結果として、それが流行となった。
「それは良い考えだわ。今後もなんらかの理由で必要とする人が出てくるかもしれないものね。学園と同じ様に、必ず着なければならないのではなく、必要があれば着ることができる制服を作りましょう」
マルグリットも3年間制服を着て学園を通った息子を知っている。
そのことを合わせて当時のことに思い至ったのだろう。
「ありがとうございます!」
「では失礼をして、早急に手配をしましょう。あと2日しかないものね」
マルグリットはそう言って立ち上がると、退室する為に扉へ向かう。
その姿を見ていたアリシアは、無意識に呼び止めてしまっていた。
「マルグリット様」
「なにかしら?」
振り返ったマルグリットに優しく問いかけられて、アリシアはハッと我に返った。
義娘として気軽く接して欲しいと言われているが、これまで気軽く接したことなどない。
それなのに、何を言おうとしていたのか。
「いえ…。申し訳ありません」
マルグリットは、言葉を詰まらせて謝るアリシアの手を取ると、両手で包み込んだ。
「何か話があるならいつでも私のところへいらっしゃい。あなたならいつでも歓迎よ」
「――ありがとうございます」
アリシアが躊躇いがちに微笑む。
その笑顔は自然なもので、マルグリットは嬉しくなる。
アリシアは妃教育が進む内にその素顔を完全に見せなくなった。
マルグリットと接する時のアリシアは、感情のない完全なお人形になっていたのだ。
だけど昨日レオナルドやジェーンと過ごしていた時の表情は自然なものだ。
王宮でもプライベートな時間はある。
その時にはそんな顔で過ごして欲しい。
そんな気持ちを込めてアリシアの手をきゅっと握ると、微笑んで部屋を出て行った。
「母上がどうかした?」
アリシアはマルグリットが出て行った扉を見つめたまま動かない。
レイヴンが心配そうな表情でアリシアに声を掛けた。
「いえ、なんでもありませんわ。私たちもそろそろ失礼致しましょう。執務がありますものね」
振り返ったアリシアが見せた笑顔は、綺麗に取り繕われたものだった。
レイヴンの胸が痛む。
だけどアリシアが自分からマルグリットに話し掛けるのは珍しいことだ。
きっと触れられたくないことなのだろうと、これ以上は訊かないことにした。
「…制服のようなものがあればいいのですが」
ぽつりと呟いたのはアリシアだ。
マルグリットが目を瞬かせる。
「制服?」
「はい。王立学園の制服のように決められたものがあれば、それを着ていてもおかしくありません」
「制服」と聞いてレイヴンが思い出すのは学園で着ていた制服だったが、アリシアが考えていたことも同じだったようだ。
レイヴンは学生の頃を思い出す。
王立学園に制服はあるが、形式的なもので必ず着なければいけないものではない。
貴族の子どもたちが通う学園では制服で通う者の方が少数だ。
だけどアリシアとジェーンは常に制服を着て通っていた。
入学式で制服姿のアリシアを見つけたレイヴンは心底驚いた。
令嬢たちはドレスの質やデザインで家の家格や財力を見せつけ合うものだ。
レイヴンの婚約者であるアリシアがどんなドレスを着てくるのか注目していた生徒たちは一様に驚いた様子を見せた。
だけどアリシアは、そんな周りの目を全く気にせず前を向いている。
翌日からは、レイヴンも制服で通うことにした。
もちろんアリシアに合わせる為だ。
王太子とその婚約者が制服で通うのを見た生徒たちは、自然と制服を着るようになっていった。
初めは戸惑っていた上級生たちも、制服で通う生徒が増えるうちに倣うようになっていく。
1年も経つ頃には学園全体で見ても私服で通う生徒の方が少数になり、それはレイヴンとアリシアの在学期間中続いていた。
結局アリシアが学園でドレスを着たのは卒業パーティーの時だけである。
その理由が、今では理解できた。
アリシアが制服を着ていたのは、ジェーンの為なのだ。
ジェーンの入学金や制服代はアダムが払ったのだろうが、学園に着て通えるようなドレスを与えられていなかった。ジェーンが持っているのは、エミリーの興味を惹かないような質素で地味なドレスだけだ。
侯爵家の令嬢がそんなドレスを着ていたら蔑みの対象になる。
自分のせいで侯爵家の評判を落とすわけにはいかないジェーンは、制服で通うしかない。
それを知っていたアリシアは、自分も制服で通うことを選んだ。
結果として、それが流行となった。
「それは良い考えだわ。今後もなんらかの理由で必要とする人が出てくるかもしれないものね。学園と同じ様に、必ず着なければならないのではなく、必要があれば着ることができる制服を作りましょう」
マルグリットも3年間制服を着て学園を通った息子を知っている。
そのことを合わせて当時のことに思い至ったのだろう。
「ありがとうございます!」
「では失礼をして、早急に手配をしましょう。あと2日しかないものね」
マルグリットはそう言って立ち上がると、退室する為に扉へ向かう。
その姿を見ていたアリシアは、無意識に呼び止めてしまっていた。
「マルグリット様」
「なにかしら?」
振り返ったマルグリットに優しく問いかけられて、アリシアはハッと我に返った。
義娘として気軽く接して欲しいと言われているが、これまで気軽く接したことなどない。
それなのに、何を言おうとしていたのか。
「いえ…。申し訳ありません」
マルグリットは、言葉を詰まらせて謝るアリシアの手を取ると、両手で包み込んだ。
「何か話があるならいつでも私のところへいらっしゃい。あなたならいつでも歓迎よ」
「――ありがとうございます」
アリシアが躊躇いがちに微笑む。
その笑顔は自然なもので、マルグリットは嬉しくなる。
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だけど昨日レオナルドやジェーンと過ごしていた時の表情は自然なものだ。
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「母上がどうかした?」
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「いえ、なんでもありませんわ。私たちもそろそろ失礼致しましょう。執務がありますものね」
振り返ったアリシアが見せた笑顔は、綺麗に取り繕われたものだった。
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だけどアリシアが自分からマルグリットに話し掛けるのは珍しいことだ。
きっと触れられたくないことなのだろうと、これ以上は訊かないことにした。
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