【本編完結】幸福のかたち【R18】

朱里 麗華(reika2854)

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2章

100 鞭打ち②

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「お、お待ちください、陛下!」

 デミオンが震える声で呼び掛けるのを、国王が「黙れ!お前に発言は許しておらん!!」と一喝して黙らせた。
 デミオンは慌てて口を閉じたがその体は震え、忙しなく視線を彷徨わせている。
 3年前、ジェーンだけではなくアリシアにも怪我を負わせているのだから当然だ。

「過去の件はそなたたちも目撃しているというが、そなたたちはまだ子どもであっただろう。他にも証言する者はいるか?」

「はい。どちらの件も侯爵邸の使用人が目撃しています。3年前の件については、家令のクレールが証言します。彼は使用人ですから主人の行いを止めることができず、偶然訪れたアリシア様に侯爵を止めてくれるよう頼んだそうです。アリシア様に酷い光景を見せてしまったと酷く悔やんでいましたね。またその時アリシア様の指示でジェーンを治療した医師に当時の診断書を提出してもらいました」

 レオナルドが玉座の前まで進んで診断書を差し出した。
 受け取った国王がさっと目を走らせる。

「へ、陛下。それは、それは…っ」

 デミオンは酷く取り乱しているが、誰も相手にする者がいない。

 ジェーンの治療をした医師は、同時にアリシアの治療もしている。
 この医師はアリシアを傷つけたことの証人でもあるのだ。

 そしてデミオンは、家令のクレールがその現場を見ていたことを当然知っている。
 だけどクレールがそれを証言するとは考えていなかった。

 デミオンがクレールを信頼していたわけではない。
 家令といえど、デミオンにとっては唯の使用人である。
 使用人とは主人の都合の良い様に動くもので、主人の不利となる証言をするなど有り得ない。
 それがデミオンの考えだった。
 だから特に口止めもしていない。
 
――主人に都合よく動くはずの使用人に裏切られた。

 今、デミオンの頭を占めるのはそれだけである。

 診断書に目を通している国王の表情が変わっていく。
 当時あったことを話として知っていても、診断書に記された内容は想像以上のものだったようだ。
 しかもその怪我を負わせた理由は、侯爵家の家宝を売り払う為である。

「侯爵よ。よくも実の娘にこのような酷い仕打ちが出来たものだ。そなたは人ではない。人であれば他人の痛みがわかるものだ。そなたは人の皮を被った化け物だ」

「へ、陛下…」

 国王の侮蔑を込めた言葉にデミオンがその場に頽れる。
 だがマルグリットは容赦しなかった。

「陛下、それだけではありません。侯爵夫妻は己ら娘に傷を負わせておきながら、結婚式で露出の多いウェディングドレスを着せてその傷を参列者に見られるよう画策しました。そうして恥を掻かされたジョッシュ殿が初夜を拒否するよう仕向けようとしていたのです」

「ええ?!」

 思いがけない話にジョッシュが驚いて声を上げる。
 発言は許されていないが、驚くのも無理のないことだ。ここでは処罰を薦める為に黙殺された。

「そのドレスはアリシアが確認しています。アリシア、間違いないわね?」

「はい、王妃様。間違いありません」

「王妃様、そのドレスは捜査に当たった者たちも確認しています。あのドレスはどう考えても今の状態で着るのに相応しいものではありません。本人が選んだとはとても考えられないものです」

 レオナルドの言葉にジョッシュは衝撃を受けていた。

 エミリーの嘘を信じていたジョッシュにとって、ジェーンとの結婚は苦痛でしかなかった。
 ジョッシュが本当に結婚したいのはエミリーだ。
 エミリーの好みに合わせて選ばれたあのウェディングドレスは、当然ながらジェーンよりエミリーの方がよく似合う。
 結婚式で隣に並ぶのはジェーンだが、あのドレスであれば、これはエミリーなのだと錯覚することができる。
 アンジュに、「本当に結婚したいのはエミリーなのだと見せつけてやりなさい」と言われて、喜んで承諾したのだ。

 本当のことを知った今では、最低な考えだったと思う。
 それにマルグリットの言葉が事実であれば――今はもう事実としか思えないが――アンジュはジョッシュにも恥を掻かせるつもりだったのだ。
 そして侯爵家簒奪の片棒を担がせようとしていたのか。




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