130 / 697
2章
100 鞭打ち②
しおりを挟む
「お、お待ちください、陛下!」
デミオンが震える声で呼び掛けるのを、国王が「黙れ!お前に発言は許しておらん!!」と一喝して黙らせた。
デミオンは慌てて口を閉じたがその体は震え、忙しなく視線を彷徨わせている。
3年前、ジェーンだけではなくアリシアにも怪我を負わせているのだから当然だ。
「過去の件はそなたたちも目撃しているというが、そなたたちはまだ子どもであっただろう。他にも証言する者はいるか?」
「はい。どちらの件も侯爵邸の使用人が目撃しています。3年前の件については、家令のクレールが証言します。彼は使用人ですから主人の行いを止めることができず、偶然訪れたアリシア様に侯爵を止めてくれるよう頼んだそうです。アリシア様に酷い光景を見せてしまったと酷く悔やんでいましたね。またその時アリシア様の指示でジェーンを治療した医師に当時の診断書を提出してもらいました」
レオナルドが玉座の前まで進んで診断書を差し出した。
受け取った国王がさっと目を走らせる。
「へ、陛下。それは、それは…っ」
デミオンは酷く取り乱しているが、誰も相手にする者がいない。
ジェーンの治療をした医師は、同時にアリシアの治療もしている。
この医師はアリシアを傷つけたことの証人でもあるのだ。
そしてデミオンは、家令のクレールがその現場を見ていたことを当然知っている。
だけどクレールがそれを証言するとは考えていなかった。
デミオンがクレールを信頼していたわけではない。
家令といえど、デミオンにとっては唯の使用人である。
使用人とは主人の都合の良い様に動くもので、主人の不利となる証言をするなど有り得ない。
それがデミオンの考えだった。
だから特に口止めもしていない。
――主人に都合よく動くはずの使用人に裏切られた。
今、デミオンの頭を占めるのはそれだけである。
診断書に目を通している国王の表情が変わっていく。
当時あったことを話として知っていても、診断書に記された内容は想像以上のものだったようだ。
しかもその怪我を負わせた理由は、侯爵家の家宝を売り払う為である。
「侯爵よ。よくも実の娘にこのような酷い仕打ちが出来たものだ。そなたは人ではない。人であれば他人の痛みがわかるものだ。そなたは人の皮を被った化け物だ」
「へ、陛下…」
国王の侮蔑を込めた言葉にデミオンがその場に頽れる。
だがマルグリットは容赦しなかった。
「陛下、それだけではありません。侯爵夫妻は己ら娘に傷を負わせておきながら、結婚式で露出の多いウェディングドレスを着せてその傷を参列者に見られるよう画策しました。そうして恥を掻かされたジョッシュ殿が初夜を拒否するよう仕向けようとしていたのです」
「ええ?!」
思いがけない話にジョッシュが驚いて声を上げる。
発言は許されていないが、驚くのも無理のないことだ。ここでは処罰を薦める為に黙殺された。
「そのドレスはアリシアが確認しています。アリシア、間違いないわね?」
「はい、王妃様。間違いありません」
「王妃様、そのドレスは捜査に当たった者たちも確認しています。あのドレスはどう考えても今の状態で着るのに相応しいものではありません。本人が選んだとはとても考えられないものです」
レオナルドの言葉にジョッシュは衝撃を受けていた。
エミリーの嘘を信じていたジョッシュにとって、ジェーンとの結婚は苦痛でしかなかった。
ジョッシュが本当に結婚したいのはエミリーだ。
エミリーの好みに合わせて選ばれたあのウェディングドレスは、当然ながらジェーンよりエミリーの方がよく似合う。
結婚式で隣に並ぶのはジェーンだが、あのドレスであれば、これはエミリーなのだと錯覚することができる。
アンジュに、「本当に結婚したいのはエミリーなのだと見せつけてやりなさい」と言われて、喜んで承諾したのだ。
本当のことを知った今では、最低な考えだったと思う。
それにマルグリットの言葉が事実であれば――今はもう事実としか思えないが――アンジュはジョッシュにも恥を掻かせるつもりだったのだ。
そして侯爵家簒奪の片棒を担がせようとしていたのか。
デミオンが震える声で呼び掛けるのを、国王が「黙れ!お前に発言は許しておらん!!」と一喝して黙らせた。
デミオンは慌てて口を閉じたがその体は震え、忙しなく視線を彷徨わせている。
3年前、ジェーンだけではなくアリシアにも怪我を負わせているのだから当然だ。
「過去の件はそなたたちも目撃しているというが、そなたたちはまだ子どもであっただろう。他にも証言する者はいるか?」
「はい。どちらの件も侯爵邸の使用人が目撃しています。3年前の件については、家令のクレールが証言します。彼は使用人ですから主人の行いを止めることができず、偶然訪れたアリシア様に侯爵を止めてくれるよう頼んだそうです。アリシア様に酷い光景を見せてしまったと酷く悔やんでいましたね。またその時アリシア様の指示でジェーンを治療した医師に当時の診断書を提出してもらいました」
レオナルドが玉座の前まで進んで診断書を差し出した。
受け取った国王がさっと目を走らせる。
「へ、陛下。それは、それは…っ」
デミオンは酷く取り乱しているが、誰も相手にする者がいない。
ジェーンの治療をした医師は、同時にアリシアの治療もしている。
この医師はアリシアを傷つけたことの証人でもあるのだ。
そしてデミオンは、家令のクレールがその現場を見ていたことを当然知っている。
だけどクレールがそれを証言するとは考えていなかった。
デミオンがクレールを信頼していたわけではない。
家令といえど、デミオンにとっては唯の使用人である。
使用人とは主人の都合の良い様に動くもので、主人の不利となる証言をするなど有り得ない。
それがデミオンの考えだった。
だから特に口止めもしていない。
――主人に都合よく動くはずの使用人に裏切られた。
今、デミオンの頭を占めるのはそれだけである。
診断書に目を通している国王の表情が変わっていく。
当時あったことを話として知っていても、診断書に記された内容は想像以上のものだったようだ。
しかもその怪我を負わせた理由は、侯爵家の家宝を売り払う為である。
「侯爵よ。よくも実の娘にこのような酷い仕打ちが出来たものだ。そなたは人ではない。人であれば他人の痛みがわかるものだ。そなたは人の皮を被った化け物だ」
「へ、陛下…」
国王の侮蔑を込めた言葉にデミオンがその場に頽れる。
だがマルグリットは容赦しなかった。
「陛下、それだけではありません。侯爵夫妻は己ら娘に傷を負わせておきながら、結婚式で露出の多いウェディングドレスを着せてその傷を参列者に見られるよう画策しました。そうして恥を掻かされたジョッシュ殿が初夜を拒否するよう仕向けようとしていたのです」
「ええ?!」
思いがけない話にジョッシュが驚いて声を上げる。
発言は許されていないが、驚くのも無理のないことだ。ここでは処罰を薦める為に黙殺された。
「そのドレスはアリシアが確認しています。アリシア、間違いないわね?」
「はい、王妃様。間違いありません」
「王妃様、そのドレスは捜査に当たった者たちも確認しています。あのドレスはどう考えても今の状態で着るのに相応しいものではありません。本人が選んだとはとても考えられないものです」
レオナルドの言葉にジョッシュは衝撃を受けていた。
エミリーの嘘を信じていたジョッシュにとって、ジェーンとの結婚は苦痛でしかなかった。
ジョッシュが本当に結婚したいのはエミリーだ。
エミリーの好みに合わせて選ばれたあのウェディングドレスは、当然ながらジェーンよりエミリーの方がよく似合う。
結婚式で隣に並ぶのはジェーンだが、あのドレスであれば、これはエミリーなのだと錯覚することができる。
アンジュに、「本当に結婚したいのはエミリーなのだと見せつけてやりなさい」と言われて、喜んで承諾したのだ。
本当のことを知った今では、最低な考えだったと思う。
それにマルグリットの言葉が事実であれば――今はもう事実としか思えないが――アンジュはジョッシュにも恥を掻かせるつもりだったのだ。
そして侯爵家簒奪の片棒を担がせようとしていたのか。
21
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
すれ違いのその先に
ごろごろみかん。
恋愛
転がり込んできた政略結婚ではあるが初恋の人と結婚することができたリーフェリアはとても幸せだった。
彼の、血を吐くような本音を聞くまでは。
ほかの女を愛しているーーーそれを聞いたリーフェリアは、彼のために身を引く決意をする。
*愛が重すぎるためそれを隠そうとする王太子と愛されていないと勘違いしてしまった王太子妃のお話
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる