【本編完結】幸福のかたち【R18】

朱里 麗華(reika2854)

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3章

26 リトマインのお部屋④

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 肖像画のサンドラがしている首飾りとは、キャンベル侯爵家の家宝であるルビーの首飾りのことだ。
 侯爵邸には歴代の侯爵夫人が首飾りをつけて描かれた肖像画が並ぶ部屋がある。
 この頃には鍵が掛けられていて簡単に入ることができなくなっていたけれど、アリシアやレオナルド、ロバートはサンドラに見せてもらったことがあったのだ。

 ジェーンはアリシアの突拍子もない言葉に目を丸くしていた。
 それに気がついたアリシアはもっと焦ってしまう。
 だけどジェーンはそんなアリシアのことを良くわかってくれていた。

「そうね、私は宝石花の首飾りが欲しいわ」

「え?」

 宝石花とは、絵本『花の王国』に出てくる花だ。
 花の王国のお姫様は、宝石花で作られた首飾りをつけている。

 ジェーンは言葉を失っているアリシアへ微笑んでみせた後、様子を窺っていたレオナルドとロバートへ声を掛けた。

「レオ兄様とロイ兄様が欲しいものは?」

 2人は笑ってそつなく答える。

「僕は父上の万年筆が欲しいな」

 由来は知らないがアダムが大切にしているもので、息子であっても決して譲られることはないだろう。

「王室騎士団の剣が欲しい」

 これは騎士団へ入れば支給されるものだが、ロバートは騎士になるつもりがないので手に入ることはない。



「王室騎士団の剣!いいな、僕も剣が欲しい」

「あら、あの剣が格好良く見えるのは、騎士団の制服を着ているからだわ」

「じゃあ制服も!」

 呆然とするアリシアをよそに、3人は空想の世界で盛り上がる。

「ねえ、アリシアもそう思うでしょう?」

 ジェーンに呼びかけられたアリシアは、はっとして笑顔で頷いた。



「それから私たちは空想の世界で遊ぶようになりました。私たちが願うのは、決して現実では叶えられないことです。『あそこへ行ってみたい』『こんなことをしてみたい』。誰かが言い出したことを皆で膨らませて、一時楽しむ。あれはそうした遊びだったのです」

 あれは現実の世界で欲しいものを買ってもらえないジェーンの為に始められた遊びだった。
 誰もが決して叶えられないことだとわかっているから楽しむことができる。

 だからあそこで語られた夢が叶えられてはならないのだ。

 実際のところ、ルトビア公爵家であればアリシアが使う調度品をリトマインのもので揃えることはできるだろう。
 だけど無駄な散財を嫌うアダムがそれを許すことはない。

「離宮でそれを揃えるのは…」

 アリシアが気まずそうに笑う。

「私が離宮へ移るということは、レイヴン様の寵愛が側妃へ移ったということです。心が離れた正妃がそんな贅沢をすることをレイヴン様が許されるでしょうか」

 だからあれは、絶対に叶わない夢だったのだ。

 レイヴンはアリシアを引き寄せて抱き締めた。
 アリシアも大人しくレイヴンの胸に体を寄せる。

「デミオン殿やアンジュが処罰されてジェーンの状況も変わりました。ジェーンがこの部屋を見ても傷つくことはないかもしれません。ですが私はあの時、咄嗟に見せてはいけないと思ってしまったのです」

「うん。よくわかったよ」

 レイヴンはアリシアの額に口づける。

「アリシアはあまり物欲がないよね。ドレスも装飾品も必要なものしか買わないし、同じものを何度も使っている。それも同じ理由なんだろうね」

 アリシアもレイヴンの婚約者として、そして王太子妃として、必要だと思う装いをしている、
 その為に必要だと思うものは躊躇いなく購入する。
 
 だけどそれ以上のものを欲しいとは思わない。
 同じものを2度使うことを恥だとも思わない。
 それは必要なものさえ買ってもらえないジェーンを見ていたからだろうか。

 アリシアはそんな風に考えたことはなかった。

 レイヴンはアリシアの額にもう1度口づける。

「この部屋のことは、アリシアが好きにしていいよ。ジェーン嬢を招きたいと思えば招けばいいし、招きたくないのなら招かなくて良い。――アリシアの部屋なんだから」

 ごめんね、と囁くレイヴンに、アリシアは小さく首を振った。
 レイヴンが謝るようなことは初めから何もない。

「ありがとうございます」と言って頬を寄せるアリシアを、レイヴンは抱き締めた。
 




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