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3章
36 母の愛情②
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「…過ぎてしまったことは仕方がないわ。レイヴンはアリシアとの関係をやり直そうとしているのね?」
「…はい、母上」
「世間の噂を打ち消すのは難しいわ。人が噂を忘れるまで毅然とした姿を見せ続けるしかないの」
マルグリットの言葉には重みがある。
婚姻前、当時王太子だった国王がサンドラを想っていると専らの噂だった。
マルグリットは婚約者なのに愛されていないと陰で嗤われていた。
それでも毅然とした態度を貫き、国王の元へ嫁いだ。
国王もマルグリットを大切にしてくれた。少なくともマルグリットの体面を傷つけるようなことはしなかった。
そうしている内に噂は風化していった。
「あなたはアリシアを大切にしなさい。良好な関係を築いて、アリシアを大切にしていると周りの者に認めさせるのよ。あなたにできるのはそれだけだわ。ジェーン嬢との噂は放っておきなさい。あなたが気にしなければならないのはジェーン嬢ではなくアリシアよ」
ここでマルグリットは、レイヴンの背後にいるノティスへ視線を向けた。
レイヴンはカナリーと話している時からずっと背中にノティスの視線を感じている。
マルグリットはレイヴンへ視線を戻すと、真剣な顔つきで口を開いた。
「一度だけ訊くわ。真実だけを仰いなさい」
「はい」
自然とレイヴンの背筋が伸びる。
「ジェーン嬢を愛しているの?」
「いいえ、ジェーン嬢を愛したことはありません」
「ジェーン嬢と関係を持ったことは?」
レイヴンの顔にカッと血が上る。
だけどそんな疑いをもたれるのも、自分がしてきたことのせいだ。
だからしっかりした声で答える。
「ありません」
「今後ジェーン嬢を身近に置くつもりは?」
「決してありません。ジェーン嬢はアリシアの従姉です。2人は本当に仲が良く、互いを大切に思っています。その関係を邪魔するつもりはありません。ですが、それだけです。僕とは関係がありません。僕の気持ちはアリシアにあります」
「…そう、わかったわ。私はもうアリシアを義娘だと思っているから、晩餐に連れてくるのもここへ来るのも構わないけれど、強引に誘っては駄目よ。あくまでアリシアの気持ちを優先させなさい」
「アリシアの気持ち…ですか?」
「先程の話を聞いていると、アリシアは私たちを家族だとは思っていないでしょう。私たちとの食事はアリシアにとって公務ではないかしら。執務を終えた後、寛げるはずの時間にまた公務を行うのは苦痛でしょう。…思えばずっとそんな態度だったわね」
「公務…ですか」
レイヴンは呆然と呟くが、以前のアリシアを思うとしっくりくる言葉だった。
アリシアはレイヴンとの関りも公務のひとつだと思っていたのだ。
マルグリットの表情が柔和なものに変わる。
「アリシアはあなたにもずっとそんな態度だったでしょう。それが最近は変わってきているのよね。それなら私たちともゆっくりと新しい関係を築いていけばいいわ。決して急いでは駄目よ。あなたはアリシアに、私的なところでは力を抜いて良いのだと伝え続けなさい。アリシアがそれでも見捨てられないのだと、心から信じられるまではね」
「はい、母上。ありがとうございます」
にっこり笑ったマルグリットに見送られて、レイヴンは応接間を後にした。
アリシアの元へ戻る。
ジェーンとの新たな噂を思うと足取りが重くなるけれど、今度こそマルグリットの忠告を守らなければならない。
アリシアと良好な関係を築いて、アリシアを大切にしていると周りの者に認めさせる。
レイヴンが愛しているのはアリシアなのだから。
「…はい、母上」
「世間の噂を打ち消すのは難しいわ。人が噂を忘れるまで毅然とした姿を見せ続けるしかないの」
マルグリットの言葉には重みがある。
婚姻前、当時王太子だった国王がサンドラを想っていると専らの噂だった。
マルグリットは婚約者なのに愛されていないと陰で嗤われていた。
それでも毅然とした態度を貫き、国王の元へ嫁いだ。
国王もマルグリットを大切にしてくれた。少なくともマルグリットの体面を傷つけるようなことはしなかった。
そうしている内に噂は風化していった。
「あなたはアリシアを大切にしなさい。良好な関係を築いて、アリシアを大切にしていると周りの者に認めさせるのよ。あなたにできるのはそれだけだわ。ジェーン嬢との噂は放っておきなさい。あなたが気にしなければならないのはジェーン嬢ではなくアリシアよ」
ここでマルグリットは、レイヴンの背後にいるノティスへ視線を向けた。
レイヴンはカナリーと話している時からずっと背中にノティスの視線を感じている。
マルグリットはレイヴンへ視線を戻すと、真剣な顔つきで口を開いた。
「一度だけ訊くわ。真実だけを仰いなさい」
「はい」
自然とレイヴンの背筋が伸びる。
「ジェーン嬢を愛しているの?」
「いいえ、ジェーン嬢を愛したことはありません」
「ジェーン嬢と関係を持ったことは?」
レイヴンの顔にカッと血が上る。
だけどそんな疑いをもたれるのも、自分がしてきたことのせいだ。
だからしっかりした声で答える。
「ありません」
「今後ジェーン嬢を身近に置くつもりは?」
「決してありません。ジェーン嬢はアリシアの従姉です。2人は本当に仲が良く、互いを大切に思っています。その関係を邪魔するつもりはありません。ですが、それだけです。僕とは関係がありません。僕の気持ちはアリシアにあります」
「…そう、わかったわ。私はもうアリシアを義娘だと思っているから、晩餐に連れてくるのもここへ来るのも構わないけれど、強引に誘っては駄目よ。あくまでアリシアの気持ちを優先させなさい」
「アリシアの気持ち…ですか?」
「先程の話を聞いていると、アリシアは私たちを家族だとは思っていないでしょう。私たちとの食事はアリシアにとって公務ではないかしら。執務を終えた後、寛げるはずの時間にまた公務を行うのは苦痛でしょう。…思えばずっとそんな態度だったわね」
「公務…ですか」
レイヴンは呆然と呟くが、以前のアリシアを思うとしっくりくる言葉だった。
アリシアはレイヴンとの関りも公務のひとつだと思っていたのだ。
マルグリットの表情が柔和なものに変わる。
「アリシアはあなたにもずっとそんな態度だったでしょう。それが最近は変わってきているのよね。それなら私たちともゆっくりと新しい関係を築いていけばいいわ。決して急いでは駄目よ。あなたはアリシアに、私的なところでは力を抜いて良いのだと伝え続けなさい。アリシアがそれでも見捨てられないのだと、心から信じられるまではね」
「はい、母上。ありがとうございます」
にっこり笑ったマルグリットに見送られて、レイヴンは応接間を後にした。
アリシアの元へ戻る。
ジェーンとの新たな噂を思うと足取りが重くなるけれど、今度こそマルグリットの忠告を守らなければならない。
アリシアと良好な関係を築いて、アリシアを大切にしていると周りの者に認めさせる。
レイヴンが愛しているのはアリシアなのだから。
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