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3章
38 ノティスの訪問①
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数日経った昼下がり。
アリシアはジェーンとお茶を飲んでいた。
ジェーンとのお茶会が始まってから、2人の会話はすべてアルスタ語で交わされている。
ジェーンは元々学園であったアルスタ語の授業で一通り話せるようになっているが、外交官としてアルスタへ行くとなるとそれでけでは不十分だ。研修ではアルスタ語を自由に使いこなせるようにと語学の授業に重点が置かれている。
アリシアの方は妃教育でアルスタ語を習得しているが、語学は使わなければ忘れてしまう。
アルスタ語で会話をしようと提案したのは研修で習ったことの復習の為だったけれど、アリシアにとってもいい復習になっていだ。
「レイヴン様が、マルグリット様に注意を受けたみたいなの」
今話題にしているのは、やはりレイヴンとジェーンの噂についてだ。
互いに事実無根だとわかっているので2人が険悪になることはない。
ジェーンはレイヴンとアリシアの仲が拗れることをひたすら心配していた。
「本当に申し訳ありません」
「まあ、仕方のないことよね」
一度は忘れられかけていたはずのレイヴンとジェーンの噂に火がついたのは、あの日ジェーンを王太子宮の侍医に診せたせいだ。
だけどそれがあったからデミオンとアンジュを処罰することができた。
アリシアはレイヴンの判断が間違っていたとは思っていない。
ふいに扉を叩く音がして、エレノアが対応に出る。
訪問者の名を聞いたアリシアは、思いがけない客に驚いたけれど、すぐに入室の許可を出した。
ジェーンと共に立ち上がり、客を迎え入れたる。
「ご無沙汰しております、妃殿下。突然お邪魔をして申し訳ありません」
「お久しぶりですね、ノティス殿下。驚きましたけれど、歓迎いたしますわ」
胸に腕を当て、臣下の礼を取っているのはノティスである。
にこやかに挨拶を交わしながらアリシアの様子を窺っていたノティスは、カナリーの言葉を思い出す。
…教科書の様な人、か。
確かにここにいるアリシアは隙のない完璧な淑女だ。
にこやかな笑みを浮かべているが、ノティスを歓迎しているとは言えない。
笑顔は本心を隠すための仮面である。
ノティスはデミオンとアンジュの処罰の日に、マルグリットに連れられて控えの間を訪れた。
だけどあの時はジェーンに紹介されただけで、他には誰とも話していない。
アリシアとは、まだ実母のところにいた時に何度か顔を合わせたことがある。
ノティスこそ王太子に相応しいと信じていた実母は、レイヴンの婚約者であるアリシアにも高圧的な態度を取っていた。そしてそんな母に育てられたノティスもまた、同様の態度を取っていたのだ。
アリシアに好感を持たれているとは思っていない。
ノティスは背中に冷たい汗が伝うのを感じていた。
だけど目的があってここまで来たのだ。
ここへ来た目的を見失わない様にと、ノティスは腹に力を入れた。
ノティスがアリシアの様子を窺っているのと同様に、アリシアもノティスの様子を窺っていた。
ノティスがここへ来た理由がわからない。
ほとんど交流がない相手を訪ねるのは何か目的があるからだ。
レイヴンは、ノティスのことを「人を信じることが出来ず、人間関係に問題を抱えている」と言っていた。
まだ挨拶を交わしただけだが、そつのない対応でそんなところは見えない。
マルグリットのところで成長し、やり直そうとしているというノティスに手を差し伸べたいという思いはある。
だけど今のノティスが、アリシアやジェーンに対して好意的なのかどうかわからないのだ。
今は警戒するしかないだろう。
アリシアが見つめる中、ノティスはジェーンと挨拶を交わしていた。
「どうかわたしのことはノティスと呼んで下さい」
「光栄です、ノティス殿下。ではどうか私のことはジェーンとお呼びくださいませ」
互いの名を呼ぶことを許し合い、2人は儀礼的な挨拶を終えた。
アリシアが2人をソファへと促す。
2人は共に作り物の笑顔で笑い合っている。
保留になっているけれど、2人には婚約の話があるのだ。
アリシアはジェーンとお茶を飲んでいた。
ジェーンとのお茶会が始まってから、2人の会話はすべてアルスタ語で交わされている。
ジェーンは元々学園であったアルスタ語の授業で一通り話せるようになっているが、外交官としてアルスタへ行くとなるとそれでけでは不十分だ。研修ではアルスタ語を自由に使いこなせるようにと語学の授業に重点が置かれている。
アリシアの方は妃教育でアルスタ語を習得しているが、語学は使わなければ忘れてしまう。
アルスタ語で会話をしようと提案したのは研修で習ったことの復習の為だったけれど、アリシアにとってもいい復習になっていだ。
「レイヴン様が、マルグリット様に注意を受けたみたいなの」
今話題にしているのは、やはりレイヴンとジェーンの噂についてだ。
互いに事実無根だとわかっているので2人が険悪になることはない。
ジェーンはレイヴンとアリシアの仲が拗れることをひたすら心配していた。
「本当に申し訳ありません」
「まあ、仕方のないことよね」
一度は忘れられかけていたはずのレイヴンとジェーンの噂に火がついたのは、あの日ジェーンを王太子宮の侍医に診せたせいだ。
だけどそれがあったからデミオンとアンジュを処罰することができた。
アリシアはレイヴンの判断が間違っていたとは思っていない。
ふいに扉を叩く音がして、エレノアが対応に出る。
訪問者の名を聞いたアリシアは、思いがけない客に驚いたけれど、すぐに入室の許可を出した。
ジェーンと共に立ち上がり、客を迎え入れたる。
「ご無沙汰しております、妃殿下。突然お邪魔をして申し訳ありません」
「お久しぶりですね、ノティス殿下。驚きましたけれど、歓迎いたしますわ」
胸に腕を当て、臣下の礼を取っているのはノティスである。
にこやかに挨拶を交わしながらアリシアの様子を窺っていたノティスは、カナリーの言葉を思い出す。
…教科書の様な人、か。
確かにここにいるアリシアは隙のない完璧な淑女だ。
にこやかな笑みを浮かべているが、ノティスを歓迎しているとは言えない。
笑顔は本心を隠すための仮面である。
ノティスはデミオンとアンジュの処罰の日に、マルグリットに連れられて控えの間を訪れた。
だけどあの時はジェーンに紹介されただけで、他には誰とも話していない。
アリシアとは、まだ実母のところにいた時に何度か顔を合わせたことがある。
ノティスこそ王太子に相応しいと信じていた実母は、レイヴンの婚約者であるアリシアにも高圧的な態度を取っていた。そしてそんな母に育てられたノティスもまた、同様の態度を取っていたのだ。
アリシアに好感を持たれているとは思っていない。
ノティスは背中に冷たい汗が伝うのを感じていた。
だけど目的があってここまで来たのだ。
ここへ来た目的を見失わない様にと、ノティスは腹に力を入れた。
ノティスがアリシアの様子を窺っているのと同様に、アリシアもノティスの様子を窺っていた。
ノティスがここへ来た理由がわからない。
ほとんど交流がない相手を訪ねるのは何か目的があるからだ。
レイヴンは、ノティスのことを「人を信じることが出来ず、人間関係に問題を抱えている」と言っていた。
まだ挨拶を交わしただけだが、そつのない対応でそんなところは見えない。
マルグリットのところで成長し、やり直そうとしているというノティスに手を差し伸べたいという思いはある。
だけど今のノティスが、アリシアやジェーンに対して好意的なのかどうかわからないのだ。
今は警戒するしかないだろう。
アリシアが見つめる中、ノティスはジェーンと挨拶を交わしていた。
「どうかわたしのことはノティスと呼んで下さい」
「光栄です、ノティス殿下。ではどうか私のことはジェーンとお呼びくださいませ」
互いの名を呼ぶことを許し合い、2人は儀礼的な挨拶を終えた。
アリシアが2人をソファへと促す。
2人は共に作り物の笑顔で笑い合っている。
保留になっているけれど、2人には婚約の話があるのだ。
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