【本編完結】幸福のかたち【R18】

朱里 麗華(reika2854)

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3章

60 国王の決定①

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 アリシアは知らず知らずの内に溜息を吐いていた。
 目の前の書類をもう何度も読み返しているが、少しも頭に入ってこない。
 
 もう午後の休憩時間になっているのに、レイヴンは国王の部屋へ呼ばれていて戻ってきていなかった。
 レイヴンからは、議会で話をするという、ジェーンの希望について話し合うことになったと昼食の時に聞かされている。
 呼ばれているのはレイヴン、アダム、レオナルド、ジェーンの4人だけで、議会に参加することが出来ないアリシアは、話し合いの結果を待つしかないのだった。

 アリシア個人としては、ジェーンに話なんてさせたくない。
 いや、話をするだけなら良いのだが、ジェーンは議会で痣や傷痕を見せようとしている。
 その結果ジェーンが周りからどんな目で見られるようになるのかわかっているだけに、アリシアは止めたかった。

 ただアリシアにも恐れていることがある。

 娘に爵位を譲れる可能性が出来たことで、引退するはずだった当主が引退を撤回した家がいくつかあった。
 その家では今、当主と女婿が激しく争っている。

 もしこの当主が今、死んだとしたら。
 女性の継承権はまだ認められていないので、元の通り女婿が爵位を継ぐことになる。

―ー今の内に義父が死んでくれたら。

 この状況が長く続けば、そう思う者が出てくるだろう。
「死なないのであれば、死なせればいい」と考える者も出てくるはずだ。

 反対に、女婿に命を狙われていると考える者も出てくるだろう。
 唯の事故や食中毒でも女婿が疑われるようになる。
 疑心暗鬼になって互いに傷つけ合う。
 そうなれば家族が破綻する。

 ジェーンが案じているのも同じことだろう。
 一度壊れてしまった家族が元に戻るのは難しい。
 その時、彼らの恨みが向かう先は、その原因を持ち込んだ国王とレイヴンになる。
 王家に反感を持つ者が増えれば王権が揺らぐことになる。

 だからできるだけ早く――暗殺を企てる暇も、疑われる暇もない内に決着をつけた方が良い。
 
 ジェーンが議会で話をしようとしているのはその為だ。


 やめましょう。

 アリシアは大きく息を吐きだした。
 
 アリシアが1人で考えていても仕方がない。
 話し合いが終われば、レイヴンが結果を伝えに来てくれる。
 アリシアが今やるべき事は、今日の分の執務を予定通りに終えることだ。

「ふふっ」

 レイヴンを思い出したアリシアは、思わず笑っていた。

 いつも中々アリシアと離れたがらないレイヴンだが、今日は特に離れがたく思っていたようだ。
 朝、執務室へ向かう時も、昼食を終えて戻る時も、ぎりぎりまでアリシアを抱き締めて放さなかった。
 気まずそうな侍従に何度も促されたレイヴンは、渋々、本当に渋々といった様子で執務室へ戻っていった。

 アリシアがクスクスと笑っていると、机の上にすっと紅茶が置かれた。
 エレノアは、アリシアが集中できずにいるのをわかっていて、紅茶を出すタイミングを計っていたのだろう。
 ティーカップを持ち上げてゆっくり紅茶を味わっていると、頭の中がすっきりしてくる。
 紅茶を飲み終えた時には雑念が消えていた。

 アリシアはもう一度手元の書類へ視線を落とすと、今度こそ執務に取り掛かった。 



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