【本編完結】幸福のかたち【R18】

朱里 麗華(reika2854)

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3章

101 現状確認②

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「アリシア様はここまでの私の所作をどう思われましたか?」

 アリシアはジェーンの声に、レイヴンへ向けていた視線を戻した。
 ジェーンを見つめるだけで言葉が出てこない。

 ジェーンの所作は以前に比べると格段に美しくなっている。
 ただ侯爵令嬢としてどうかと言われると、"努力していることがわかる”、といったところだろうか。
 ジェーンの事情を知り、好意的な者であれば何も言うことはないだろう。
 だが事情を知らない者、悪意を持つ者であれば――。


 ジェーンにとってはアリシアの沈黙こそが答えだった。
 自分の所作がまだ拙いことは、ジェーン自身が一番良く感じている。

「アリシア様にお願いがございます。図々しいお願いばかりで心苦しいのですが、研修が終わった後、礼儀作法とダンスを教えて下さる方を紹介していただきたいのです」

「なんですって?」

「私の所作が拙く、ダンスの技量が足りていないのは、私が一番良くわかっています。このままではアルスタへ出立するまでに間に合いません。アナトリアの恥とならない為にも、出来る限りのことをしたいのです」

「…………」

 ジェーンの言いたいことは理解できた。
 使節団はアナトリアの代表である。
 アナトリアの代表としてアルスタへ行く以上、ジェーンの評価はアナトリアの評価となる。
 アルスタにはジェーンの事情を知る者はいないのだ。

 だけど研修は団員の体のことも考えてスケジュールを組んでいる。
 そういう意味では休息をとることも研修の一部なのだ。
 以前は学習の進まないエミリーの為に補講が組まれていたけれど、あれは初級教育も受けていないエミリーの出来があまりにも酷過ぎたせいで、研修を受け持っている指導員の判断だった。

「アリシア様が懸念なさっていることは私も理解しています。勝手なことですが、私を診て下さっている侍医長にも相談致します。侍医長から許可が出た範囲で、ということでいかがでしょうか?」

「……侍医長の許可が出るのなら、補講を受けること自体は構わないわ。だけど私が知っている方は…」

 アリシアはまたバルコニーへ視線を向けた。
 レイヴンの姿は既にない。諦めて部屋の中へ戻ったようだ。
 今日は休日だが執務が立て込んでいる為、アリシアがお茶会をしている間は仕事をしているようなことを悲しそうに言っていた。
 
 アリシアに礼儀作法やダンスを教えてくれていたのは、どちらもマルグリット、アリシアと二代続けて妃教育を請け負っていた伯爵夫人である。
 妃教育を受けるようになってから、公爵家ではアリシアに家庭教師を雇っていない。
 妃教育を施してくれた伯爵夫人に依頼するのであれば、いくつか問題がある。
 これは王家に関わる問題なので、アリシアだけで決められることではなかった。

 それに遅い時間に補講をお願いするのであれば、通いではなく泊り込んでもらわなければならないだろう。
 その為の部屋や身の回りの世話をする侍女も必要になる。
 
「費用についてはルトビア公爵に許可を取りました。必要な経費として公爵が援助して下さいます」

 そう、問題のひとつは伯爵夫人へ支払う報酬だ。
 妃教育は公費で行われていた為、伯爵夫人へ支払われた報酬がどれくらいなのかアリシアは知らない。それでも安くはないだろうことはわかる。
 今のキャンベル侯爵家にその費用を賄えるだけの財力はないが、後見のルトビア公爵家が支払うのであれば報酬については心配しなくていい。
 とはいえ、まずはレイヴンに相談しなくてはならない。

「それでは私からレイヴン様へお話してみるわ。ただあのお2人の授業は……。物凄く、厳しいわよ」

 そう言ったアリシアの据わった目、低い声にジェーンだけではなくカナリーも息を飲んだ。
 特にジェーンは、妃教育を受けているアリシアが毎日疲れ切り、ぐったりしていたことを知っている。当時のアリシアは休日になると起き上がれない程だったのだ。
 それでもジェーンには後がない。

「お願い致します、アリシア様」

 ジェーンが姿勢を正して頭を下げると、アリシアは頷いた。



 
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