【本編完結】幸福のかたち【R18】

朱里 麗華(reika2854)

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3章

102 モルガン伯爵家①

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「アリシア!」

 お茶会の後、着替えを終えたアリシアが一息ついたところでレイヴンが訪ねて来た。
 アリシアの支度が終わったらレイヴンへ伝わるようになっていたらしい。

「外は暑くなかった?大丈夫?」

 アリシアをぎゅっと抱き締めた後、アリシアの額に掛かる前髪を梳きながらレイヴンが訊く。アリシアの頬にはまだ少し赤みが残っていた。

 すっかり暑い季節になっている。
 それでもアリシアたちがいた東屋は、陽を遮る屋根が広くなっていたり、風が通りやすくなっていたりと暑さをしのげるように工夫がされている。
 出された紅茶も氷が入った冷たいもので、お菓子もゼリーやジェラートを盛り合わせたひんやりしたものだった。

「私は大丈夫ですわ。レイヴン様こそ、お忙しいのでしょう。お疲れではありませんか?」

 夜の時間をアリシアと過ごすようになってから、レイヴンは決められた執務時間きっちりに仕事を終えて王太子宮へ戻ってきている。最近は夜遅くまで国王の執務室へ詰めていたり、夜会や紳士クラブへ出掛けているが、夕食は必ず一緒に摂っているので、通常の執務は夕食前に切り上げられていた。

 だけど以前のレイヴンは、平日遅い時間まで部屋へ戻っていなかった。
 休日もほとんど1日中執務室へ籠っていたのだ。
 それを考えると通常の執務が溜まっているというのは至極当然のことである。

 アリシアの考えがわかるレイヴンは苦笑した。
 以前夜遅くまで部屋へ戻らなかったり、休日も執務室へ籠っていたのは、寝室を隔てた隣の部屋にアリシアがいるのに、1人で過ごすことが耐えられなかったからだ。

 レイヴンの部屋はアリシアの部屋より奥にある為、自分の部屋へ戻るには必ずアリシアの部屋の前を通ることになる。
 アリシアの部屋の扉を見る度に、部屋の中にいるアリシアを思い、会いたい気持ちを募らせていた。
 休みの日も部屋にいると寝室へ続く扉を見つめたままアリシアのことばかりを考え、すぐ傍にいるのに会いに行くことができない自分に暗い気持ちになってしまう。
 それが嫌で仕事を言い訳にして執務室へ逃げていたのだ。

 その時の、持て余していた時間で執務内容の見直しを行い、各部署から届けられる、書く方も読む方も難しい報告書を簡略化して統一したり、それまでレイヴンの決裁が必要とされていた案件の中でも比較的重要度の低いものはもっと下の立場の者でも承認して進められるようにと改革したりしていた。
 そのお陰でアリシアと過ごせるようになってからは、執務時間ぴったりに仕事を終えて戻ることが出来ているので、あの時間は無駄ではなかったと思うことにしている。

 今日レイヴンが部屋で読んでいたのは、女性の王位継承権について、レオナルドが接触した貴族の反応を報告するものだ。
 だけどレイヴンは、アリシアにその話をするつもりはない。

 レイヴンはアリシアをひょいと抱き上げてソファへ座る。
 アリシアをしっかりと膝の上に乗せている。
 レオナルドの報告書を読んでいて訊きたいことがあったのだ。

「ねえ、アリシア。アリシアから見てモルガン伯爵はどんな人かな?」

「ライアン伯父様…ですか?」

 アリシアがきょとんとした顔をする。
 ライアン・モルガン伯爵はアダムのもう1人の弟だ。




 
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