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3章
107 それぞれの胸の内①
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「決められたことを守る…か」
ライアンからすれば、建国当初からの法を変えようとしているレイヴンはとんでもないのかもしれない。
レイヴンはそう考えるが、ライアンは女性に継承権を与えることには反対していない。ジェーンが侯爵家を継ぐことが出来ることを喜んでいるという。
サンドラやジェーンを見ていて、きちんと教育さえ受ければ女性であっても当主としての能力を身につけることができると理解しているのだ。
それに王家に関していえば長子相続が絶対ではない。
王太子として選ばれるのに第一王子が有力なのは間違いないが、子の生母、生母の実家が持つ勢力、本人の能力と性格などを総合して考え、最も相応しい者が選ばれる。
もしレイヴンが迎えた側妃が第一王子を生んだとしても、アリシアが第二王子を生めば正妃であるアリシアとルトビア公爵家の勢力を考慮して第二王子が王太子となる可能性が高かった。
だからアリシアが生んだ子を世継ぎにしたいだけなら王女の継承権など認める必要はないのだ。
レイヴンにとって重要なのは、側妃を娶らずに済むこと、それだけである。
ルトビア公爵家の子息として教育を受け、高い能力を持つライアンには、どれだけ建て前の言葉を並べてもその浅はかな胸の内を見抜かれているのかもしれない。
「一度会って話してみないといけないな…」
「ライアン叔父様とですか?」
レイヴンが頷くと、アリシアは申し訳なさそうに眉を下げる。
「叔父様は大抵領地にいらっしゃいますから、中々難しいかもしれません」
「え?王都にいると聞いたけど」
つい最近レオナルドが話をしてきている。レオナルドに伯爵領まで行っている時間は無い。
だけどアリシアはライアンが王都にいるとは思ってもいなかったらしい。
「叔父様が王都にいらっしゃるのですか?それは何故…。ロイ兄様は王都にいないはずですし…」
「ロバートがどうかしたの?」
レイヴンが問い掛けるとアリシアはハッとした顔をする。
ロバートの名前は無意識に出た独り言だったようだ。
アリシアはそのまま暫く無言でいたが、少し考えた後気まずそうに話し出した。
「…先程ライアン叔父様が、早々にルーファス兄様を跡継ぎと定めたことで揉め事が起きずに済んだと話しましたけれど、それでもやはりルーファス兄様はロイ兄様を称賛する声を気にしていました。ルーファス兄様自身が、ご自分よりロイ兄様の方が跡継ぎとして相応しいと感じていたからです。ロイ兄様もまた、それをずっと感じていて、ご自身に伯爵家を継ぐ意志がないことを示す為に、領地経営に関わる勉強はしませんでした。お祖母様はロイ兄様も入り婿になる可能性があるからと、お兄様とジェーンが領地経営を学ぶ時に一緒に公爵家の領地へ連れて行こうとしましたが、ロイ兄様はそれを拒否しました。そして在学中に商会を立ち上げ、卒業と同時に家を出られました。ロイ兄様には商才もあったようで、すぐに外国に支店を構えるようになったのはレイヴン様もご存知だと思います」
「それじゃあロバートがあまり国内にいないのは…」
「ルーファス兄様の為に、ご自身は国内にいない方が良いと思ったからですわ。ロイ兄様は国を離れる前、ジェーンのことをとても気にしていました。こんな状態のジェーンを置いて国外へ出るのは見捨てたと言われても仕方がないと、どうか自分の分もジェーンを守ってやって欲しいと、お兄様に頭を下げておられました」
レイヴンは言葉を失った。
嫡男ではない以上、学園を卒業した後は家を出て独立しなければならない。
そして自分の力で立ち上げた商会が上手くいき、国外にまで支店を構えることができたのは誇るべきことである。
だけどジェーンの事情を深く知るロバートにとって、それは苦渋の決断だったのだ。
「ロイ兄様の事情はジェーンも勿論知っています。ジェーンはロイ兄様に見捨てられたなどとは思っていません。ロイ兄様がいつもジェーンを気に掛けていることはジェーンも知っていますし、ご自身の兄弟や家のことを優先するのは当然のことだと思っています。…ですからキャンベル侯爵家当主の権限をロイ兄様へ委譲したことを、ジェーンは心苦しく思っているはずです」
「え…?」
「ロイ兄様は、領地経営に関して学んでいないと言いましたでしょう?ですが今、ロイ兄様は侯爵領を立て直すために必死に励んでおられますわ。1年もあれば領地経営に必要な知識を身につけてしまわれるでしょう」
「…っ!」
「それにロイ兄様は子爵位を賜りました。これからはアナトリアの貴族として、ルーファス兄様と比べられることも増えるでしょう」
ライアンからすれば、建国当初からの法を変えようとしているレイヴンはとんでもないのかもしれない。
レイヴンはそう考えるが、ライアンは女性に継承権を与えることには反対していない。ジェーンが侯爵家を継ぐことが出来ることを喜んでいるという。
サンドラやジェーンを見ていて、きちんと教育さえ受ければ女性であっても当主としての能力を身につけることができると理解しているのだ。
それに王家に関していえば長子相続が絶対ではない。
王太子として選ばれるのに第一王子が有力なのは間違いないが、子の生母、生母の実家が持つ勢力、本人の能力と性格などを総合して考え、最も相応しい者が選ばれる。
もしレイヴンが迎えた側妃が第一王子を生んだとしても、アリシアが第二王子を生めば正妃であるアリシアとルトビア公爵家の勢力を考慮して第二王子が王太子となる可能性が高かった。
だからアリシアが生んだ子を世継ぎにしたいだけなら王女の継承権など認める必要はないのだ。
レイヴンにとって重要なのは、側妃を娶らずに済むこと、それだけである。
ルトビア公爵家の子息として教育を受け、高い能力を持つライアンには、どれだけ建て前の言葉を並べてもその浅はかな胸の内を見抜かれているのかもしれない。
「一度会って話してみないといけないな…」
「ライアン叔父様とですか?」
レイヴンが頷くと、アリシアは申し訳なさそうに眉を下げる。
「叔父様は大抵領地にいらっしゃいますから、中々難しいかもしれません」
「え?王都にいると聞いたけど」
つい最近レオナルドが話をしてきている。レオナルドに伯爵領まで行っている時間は無い。
だけどアリシアはライアンが王都にいるとは思ってもいなかったらしい。
「叔父様が王都にいらっしゃるのですか?それは何故…。ロイ兄様は王都にいないはずですし…」
「ロバートがどうかしたの?」
レイヴンが問い掛けるとアリシアはハッとした顔をする。
ロバートの名前は無意識に出た独り言だったようだ。
アリシアはそのまま暫く無言でいたが、少し考えた後気まずそうに話し出した。
「…先程ライアン叔父様が、早々にルーファス兄様を跡継ぎと定めたことで揉め事が起きずに済んだと話しましたけれど、それでもやはりルーファス兄様はロイ兄様を称賛する声を気にしていました。ルーファス兄様自身が、ご自分よりロイ兄様の方が跡継ぎとして相応しいと感じていたからです。ロイ兄様もまた、それをずっと感じていて、ご自身に伯爵家を継ぐ意志がないことを示す為に、領地経営に関わる勉強はしませんでした。お祖母様はロイ兄様も入り婿になる可能性があるからと、お兄様とジェーンが領地経営を学ぶ時に一緒に公爵家の領地へ連れて行こうとしましたが、ロイ兄様はそれを拒否しました。そして在学中に商会を立ち上げ、卒業と同時に家を出られました。ロイ兄様には商才もあったようで、すぐに外国に支店を構えるようになったのはレイヴン様もご存知だと思います」
「それじゃあロバートがあまり国内にいないのは…」
「ルーファス兄様の為に、ご自身は国内にいない方が良いと思ったからですわ。ロイ兄様は国を離れる前、ジェーンのことをとても気にしていました。こんな状態のジェーンを置いて国外へ出るのは見捨てたと言われても仕方がないと、どうか自分の分もジェーンを守ってやって欲しいと、お兄様に頭を下げておられました」
レイヴンは言葉を失った。
嫡男ではない以上、学園を卒業した後は家を出て独立しなければならない。
そして自分の力で立ち上げた商会が上手くいき、国外にまで支店を構えることができたのは誇るべきことである。
だけどジェーンの事情を深く知るロバートにとって、それは苦渋の決断だったのだ。
「ロイ兄様の事情はジェーンも勿論知っています。ジェーンはロイ兄様に見捨てられたなどとは思っていません。ロイ兄様がいつもジェーンを気に掛けていることはジェーンも知っていますし、ご自身の兄弟や家のことを優先するのは当然のことだと思っています。…ですからキャンベル侯爵家当主の権限をロイ兄様へ委譲したことを、ジェーンは心苦しく思っているはずです」
「え…?」
「ロイ兄様は、領地経営に関して学んでいないと言いましたでしょう?ですが今、ロイ兄様は侯爵領を立て直すために必死に励んでおられますわ。1年もあれば領地経営に必要な知識を身につけてしまわれるでしょう」
「…っ!」
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