【本編完結】幸福のかたち【R18】

朱里 麗華(reika2854)

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3章

108 それぞれの胸の内②

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 アリシアは暗い顔で溜息を吐く。

「勿論私もロイ兄様が功績を上げた時は正当に評価され、褒賞を得ることを望みますわ。その上での叙爵であれば、喜ばしいことに違いありません。ですがあの叙爵はそういったものではありませんでしょう」

「…だけど、職務を円滑に行う為に必要な爵位を与えることは、これまでにもあることだよ」

「それではジェーンが戻り、侯爵家当主の代行業務を終えた後、爵位は返還されるのでしょうか」

「いや、それはないかな…」

 レイヴンも国王が高い能力を持つロバートを取り込む為に爵位を与えたことはわかっている。
 キャンベル侯爵家の領地は少しずつだが確実に復興されているので、ロバートが爵位の返還を申し出たとしてもそれを功績としてそのまま留めるだろう。
 大体叙爵を受けることは名誉なことで、実家の爵位を継げない立場の者は何とかして爵位を得ようと藻掻いている。それを喜ばない者がいるとは国王もレイヴンも思っていなかった。

「私とロイ兄様の仲が良いことはルーファス兄様もご存知ですから、これからのことを考えておられるかもしれません」

 王太子妃と仲が良く信頼されているというのは大きい。
 アリシアが王妃になった時にはアリシアの推薦で重要な役職に就くこともできる。反対にいえばロバートが自分の能力と功績で地位を得たとしても、アリシアの執り成しがあったからだと言われることもあるのだ。

 ライアンが当主でいる間はともかく、当主が変った後は王家との関係が拗れるかもしれないということか。

「アリシアはルーファス殿との交流はなかったの?」

「先程も言いましたが、ルーファス兄様はとても優しくて良い方ですわ。お会いした時は優しくしてくださいました。ただ私とは少し年が離れすぎていますから…」

 アリシアとルーファスでは7歳違う。
 ルーファスはアリシアが物心ついた頃には従兄妹といえども公爵家の令嬢と伯爵家の子息という身分の差を弁え、一線を画した態度を崩さなかった。
 勿論ロバートも身分差は弁えている。だけど年の近いレオナルドがいて、幼い頃から頻繁に顔を合わせていた。
 レオナルドにとってロバートは良い兄貴分だ。身分差のない振る舞いを望んでいた。
 当然それはアリシアも同じである。

「できればライアン殿だけじゃなく、ルーファス殿とも話したいね」

 レイヴンがそういうとアリシアは頷いた。
 すっかり気持ちが沈んでしまったアリシアを、レイヴンは抱き締める。

「話しづらいことを言わせてごめんね」

 アリシアは小さく首を振るが、話しづらいことなのは間違いない。
 国王が決めた叙爵に不満があるなんて、人に聞かれたら反逆心有りと捉えられるかもしれない。
 それでも話してくれたのは、レイヴンを信用してくれているからだ。

 レイヴンはもう一度アリシアをぎゅっと抱き締めると額に口づけた。
 モルガン伯爵家のことはもうおしまいでいい。

「お茶会は楽しかった?どんな話をしていたの?」

 話を変えたくて持ち出した話題に、アリシアが「あっ!」と声を上げた。
 アリシアには訊きたいことがあったのだ。

「レイヴン様はお兄様がグーリッド伯爵家を度々訪ねていることをご存知ですか?」

「っ!」

 アリシアの問い掛けに息を飲んだレイヴンは、視線を彷徨わせた後頷いた。





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