【本編完結】幸福のかたち【R18】

朱里 麗華(reika2854)

文字の大きさ
257 / 697
3章

111 正殿へ

しおりを挟む
 夕食を終えた後、アリシアはレイヴンと正殿の応接間へ向かっていた。
 散歩から戻ると既にマルグリットからの返事が届けられていて、夕食の後に正殿の応接間へ来るようにとあったのだ。

 正殿の応接間には結婚当初何度かレイヴンに連れられて行ったことがある。
 そこにいるマルグリットは、王妃ではなく母親の顔をしていた。隣にいるレイヴンの表情もいつもより幼く見えたので驚いたものだ。
 思い返せばアリシアはそれまで王太子としてのレイヴンしか知らなかった。
 あの時一緒にいたレイヴンは、王太子ではなくマルグリットの息子だったのだ。

 最近になってまたレイヴンから応接間へ誘われる様になっていた。
 カナリーからも、レイヴンがいない夜は応接間へ来て欲しいと言われている。
 2人はアリシアを家族として迎え入れようとしているのだろう。

 ………?

 アリシアは応接間に近づくにつれて自身の足取りが重くなっていることに気がついていた。
 だけどそれが何故なのかわからない。
 わからないから余計に不安を感じている。

「アリシア?どうかしたの?大丈夫?!」

 レイヴンの焦ったような声がして、アリシアは足を止めた。
 何を言われているのかわからずに隣のレイヴンを見上げると、レイヴンは強いショックを受けた様で表情を引き攣らせている。

「レイヴン様?」

「……酷い顔色だよ。今日は止めておいた方が良い」

 暗い顔をしたレイヴンにアリシアは驚いた。
 確かに不安を感じていたけれど、それが顔色に表れているとは思わなかったのだ。
 
「…少し緊張してしまって」

 そう口にしてから、アリシアは自分が緊張していることに気がついた。
 足取りが重くなっていたのは緊張しているからなのだ。

 だけど何に緊張するというのだろうか。
 マルグリットとはこれまで何度も顔を合わせているし、公務についての相談も何度もしてきているのだ。
 そう、公務であるのなら、今更マルグリットに会うことで緊張などするはずがない。 

「……っ!!」

「アリシアっ?!」

 真っ青だったアリシアの顔が赤く染まるのを見てレイヴンは声を上げた。
 これだけ急激に顔色が変わるのが良いことだとは思えない。

 レイヴンは、マルグリットがアリシアを応接間へ呼んでくれたことを喜んでいた自分を恥じた。
 レイヴンの家族と会うことは、こんなにもアリシアの負担になっているのだ。

「今日はやめよう、アリシア。応接間になんか行かなくて良い。母上には謝罪の文を出すから、このまま部屋へ戻ろう」

「いいえ、いいえ、レイヴン様」

 アリシアを抱き込むようにして踵を返そうとするレイヴンをアリシアが止めた。
 まだ顔は赤く火照っているし、レイヴンの腕を掴むアリシアの手は小刻みに震えている。
 だけど自分の気持ちが理解できたアリシアに、このまま部屋へ戻るつもりはなかった。

「大丈夫ですわ。少し緊張しているだけです。…私、これまでマルグリット様とお会いするのは公務なのだと思っていました。だけど今日は、そうではないようです。私が公務で緊張などするはずがありませんもの」

「っ!アリシア…っ!!」

 その言葉の意味を理解したレイヴンはアリシアを抱き締めていた。
 アリシアは公務ではなく、マルグリットと会おうとしてくれている。
 すぐに義親子にはなれないかもしれない。
 だけどアリシアは新しい関係を築こうとしてくれているのだ。


 

しおりを挟む
感想 441

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

すれ違いのその先に

ごろごろみかん。
恋愛
転がり込んできた政略結婚ではあるが初恋の人と結婚することができたリーフェリアはとても幸せだった。 彼の、血を吐くような本音を聞くまでは。 ほかの女を愛しているーーーそれを聞いたリーフェリアは、彼のために身を引く決意をする。 *愛が重すぎるためそれを隠そうとする王太子と愛されていないと勘違いしてしまった王太子妃のお話

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

お久しぶりです、元旦那様

mios
恋愛
「お久しぶりです。元旦那様。」

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

処理中です...