263 / 697
3章
117 お茶会②
しおりを挟む
お茶会の時間が近づき、庭園に設けられた会場へ招待客が訪れはじめる。
レイヴンはアリシアの隣に寄り添い、一緒に挨拶を受けていた。
このお茶会を主催しているのはアリシアで、レイヴンも招かれた側なのだから、本来ならばその立ち位置はおかしい。
だけどいつものお茶会と違って気掛かりなことが多いアリシアは気を張っている。それを知っているレイヴンは、るだけ近くで支えたいと思ったのだ。
「大丈夫?」
レイヴンが小声で囁くとアリシアが笑顔を見せて小さく頷く。
その笑顔が可愛くてレイヴンの目尻が下がる。
アリシアへ向けられる熱が籠った視線に、居合わせた夫人たちは顔を赤らめた。
2人の仲睦まじい姿を見せるのもお茶会の目的のひとつだったが、意識しなくても十分にその目的を果たしている。
このお茶会は元々アリシアが各家の夫人と交流を持つために行っている為、一度に招かれる人数は少ない。
その少ない招待客を今回はレイヴンも一緒に選んだ。
選ばれたのは社交界でも選りすぐりの噂好きばかりである。
だけど本質的に悪い人たちではなく、どんな相手でもまずは好意的に見ようする人たちだ。
ここでジェーンが気に入られることができれば、これまでの悪評を覆すことができるだろう。
今、彼女たちは王太子夫妻が仲睦まじく寄り添って客を迎え入れている姿や、時折目を合わせては微笑み合う姿を目を輝かせて見ている。
数日後にはこの2人の様子が社交界を駆け巡っているのは間違いない。
暫くするとざわめきが起きた。
アリシアが会場の入り口へ視線を向けると、そこにジェーンとカナリーの姿があった。
「アリシア」
耳元で聞こえた声にハッとして顔を上げると、レイヴンが優しい顔でアリシアを見つめていた。
知らずに強張っていた体から力が抜けていく。
ジェーンがこれまでとは違う美しい動きで近づいてきた時には、いつもの自分を取り戻すことが出来ていた。
ここからが大事なところなのだ。
「本日はお招きいただき、ありがとうございます」
美しいカテーシーを披露したジェーンにまたざわめきが起きた。
このざわめきには色々な意味がある。
ジェーンとレイヴンの噂を知らない者はいない。
噂が本当であれば、正妻の前で夫と愛人が顔を合わせていることになるのだ。
僅かに聞こえる囁き声には、なぜジェーンが招かれているのか、それを訝しがる声もあった。
また、夫人の中にはジェーンが話をした議会を聴講してた者もいた。
あれからまだ数か月しか経っていないのに、ジェーンが見せたカテーシーはあの時とは比べ物にならない程美しい。
夫人は急成長を見せたジェーンにただただ驚きの声を上げていた。
アリシアはそんな夫人たちの視線を感じながら、いつも通りの完璧な笑顔を見せる。
「忙しいところを来てくれて嬉しいわ。暫く会えなくなってしまうから、その前にゆっくり話をしたいと思っていたのよ」
「出立前の忙しい時にありがとう。アリシアは本当にジェーン嬢と会いたがっていたんだ。お茶会の間くらいは是非ゆっくりとして、楽しんで欲しい」
「はい。お心遣いをいただき、ありがとうございます」
ジェーンがアリシアと視線を合わせて笑顔を見せる。
その親愛に満ちた笑顔は、とても愛人から正妻へ向けるようなものではなかった。
それに初めから今も、レイヴンが熱の籠った目を向けているのはアリシアだけだ。
夫人たちは顔を見合わせ、レイヴンとジェーンの噂はやはり間違いなのだと囁き合った。
レイヴンはアリシアの隣に寄り添い、一緒に挨拶を受けていた。
このお茶会を主催しているのはアリシアで、レイヴンも招かれた側なのだから、本来ならばその立ち位置はおかしい。
だけどいつものお茶会と違って気掛かりなことが多いアリシアは気を張っている。それを知っているレイヴンは、るだけ近くで支えたいと思ったのだ。
「大丈夫?」
レイヴンが小声で囁くとアリシアが笑顔を見せて小さく頷く。
その笑顔が可愛くてレイヴンの目尻が下がる。
アリシアへ向けられる熱が籠った視線に、居合わせた夫人たちは顔を赤らめた。
2人の仲睦まじい姿を見せるのもお茶会の目的のひとつだったが、意識しなくても十分にその目的を果たしている。
このお茶会は元々アリシアが各家の夫人と交流を持つために行っている為、一度に招かれる人数は少ない。
その少ない招待客を今回はレイヴンも一緒に選んだ。
選ばれたのは社交界でも選りすぐりの噂好きばかりである。
だけど本質的に悪い人たちではなく、どんな相手でもまずは好意的に見ようする人たちだ。
ここでジェーンが気に入られることができれば、これまでの悪評を覆すことができるだろう。
今、彼女たちは王太子夫妻が仲睦まじく寄り添って客を迎え入れている姿や、時折目を合わせては微笑み合う姿を目を輝かせて見ている。
数日後にはこの2人の様子が社交界を駆け巡っているのは間違いない。
暫くするとざわめきが起きた。
アリシアが会場の入り口へ視線を向けると、そこにジェーンとカナリーの姿があった。
「アリシア」
耳元で聞こえた声にハッとして顔を上げると、レイヴンが優しい顔でアリシアを見つめていた。
知らずに強張っていた体から力が抜けていく。
ジェーンがこれまでとは違う美しい動きで近づいてきた時には、いつもの自分を取り戻すことが出来ていた。
ここからが大事なところなのだ。
「本日はお招きいただき、ありがとうございます」
美しいカテーシーを披露したジェーンにまたざわめきが起きた。
このざわめきには色々な意味がある。
ジェーンとレイヴンの噂を知らない者はいない。
噂が本当であれば、正妻の前で夫と愛人が顔を合わせていることになるのだ。
僅かに聞こえる囁き声には、なぜジェーンが招かれているのか、それを訝しがる声もあった。
また、夫人の中にはジェーンが話をした議会を聴講してた者もいた。
あれからまだ数か月しか経っていないのに、ジェーンが見せたカテーシーはあの時とは比べ物にならない程美しい。
夫人は急成長を見せたジェーンにただただ驚きの声を上げていた。
アリシアはそんな夫人たちの視線を感じながら、いつも通りの完璧な笑顔を見せる。
「忙しいところを来てくれて嬉しいわ。暫く会えなくなってしまうから、その前にゆっくり話をしたいと思っていたのよ」
「出立前の忙しい時にありがとう。アリシアは本当にジェーン嬢と会いたがっていたんだ。お茶会の間くらいは是非ゆっくりとして、楽しんで欲しい」
「はい。お心遣いをいただき、ありがとうございます」
ジェーンがアリシアと視線を合わせて笑顔を見せる。
その親愛に満ちた笑顔は、とても愛人から正妻へ向けるようなものではなかった。
それに初めから今も、レイヴンが熱の籠った目を向けているのはアリシアだけだ。
夫人たちは顔を見合わせ、レイヴンとジェーンの噂はやはり間違いなのだと囁き合った。
10
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
すれ違いのその先に
ごろごろみかん。
恋愛
転がり込んできた政略結婚ではあるが初恋の人と結婚することができたリーフェリアはとても幸せだった。
彼の、血を吐くような本音を聞くまでは。
ほかの女を愛しているーーーそれを聞いたリーフェリアは、彼のために身を引く決意をする。
*愛が重すぎるためそれを隠そうとする王太子と愛されていないと勘違いしてしまった王太子妃のお話
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる