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3章
124 自覚②
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「アリシア様、その気持ちを是非、レイヴン殿下へお伝えくださいませ」
「!!」
「アリシア様の気持ちをお知りになれば、殿下はとてもお喜びになりますわ。アリシア様もおわかりでしょう?」
「………つ」
アリシアがレイヴンを愛していると知れば、レイヴンが喜ぶのは間違いない。
だけど自覚したばかりの気持ちを告げることを考えると、胸が煩い程鳴り出した。
息が詰まるような気がして、顔に熱が溜まるのがわかる。
「ふふっ可愛らしい」
堪え切れずに笑うジェーンをアリシアが恨めしそうに睨む。
そんな表情さえ可愛くて、ジェーンは頬が緩むのを止めることができなかった。
思えばこれまでこんな話をしたことはなかった。
学生の頃、レイヴンは気持ちを隠していたし、アリシアは想ってはいけない人を想っていた。
例えジェーンが相手であっても、アリシアがその想いを口にすることはできない。そしてジェーンも聞くわけにはいかない想いだった。
ジェーンとジョッシュの仲も、学園に入る頃には既に破綻していたと言える。
あの頃の2人に、恋の話で盛り上がれるような要素はなかった。
「アリシア様、失礼してそちらへ行ってもよろしいでしょうか」
「ええ!」
ジェーンの申し出にアリシアは驚いたがすぐに頷いた。
それは2人の間にある、見えない壁を越えることを意味している。
ジェーンは美しい所作で立ち上がると、アリシアの隣へ座った。
「今だけ昔の様に、従姉として話をしてもよろしいでしょうか」
「勿論よ」
アリシアが頷くと、ジェーンはアリシアの手を両手で包みこんだ。
笑顔を浮かべたまま、真剣な目で話し出す。
「今すぐじゃなくても良いわ。あなたが伝えたくなった時で良いの。どうか殿下にあなたの気持ちを伝えてあげて。怖がらなくても大丈夫よ。殿下があなたを想う気持ちは本物だもの」
「……そうね、いつか、その内に…」
頬を染めて俯くアリシアを、ジェーンは抱き締める。
「大好きよ、アリシア。どうか幸せになってね。あなたには絶対に幸せになって欲しいの」
それは別れの言葉だ。
もう少しすればジェーンは離宮を出て簡単には会えなくなる。
「…私も大好きよ、ジェーン。あなたがいてくれて良かった。この半年間、本当に楽しかったわ」
そしてきっとジェーンに言われなければ、レイヴンへの想いを自覚することもなかった。
自分が人を愛することなどないと思い込んでいた。
「あなたと話していると昔に戻ったような気がしていたわ。だけど違うわね。あなたはこの半年間で完璧な淑女になったのだもの」
「ええ、そうね。昔には戻れないけれど、私はずっとあなたの味方よ、アリシア。あなたがこれまで私の味方でいてくれたように、もしあなたが困ることがあれば、今度は私が力になるわ」
2人はぎゅっと抱きしめ合った。
思えばアリシアが嫁ぐ時にも同じ様にして抱き締め合った。
王家に入ってしまえばこれまでのように会うこともできなくなる。
ジェーンが結婚してジョッシュが爵位を継ぐまで何事もありませんように、とあの時は祈るように思ったのだ。
それを思えば今回の別れは随分と幸せな別れである。
ジェーンは使節団の中でも優秀だと認められている。
完璧な作法も身につけることができた。
アナトリアへ戻ってきた後は、自身が侯爵位を継ぐことができる。
「それにしてもあなたが気持ちを自覚してくれてホッとしたわ。私がアルスタへ行くまでに間に合わなければどうしようかと思っていたのよ」
「な…っ!」
ジェーンはアリシアを抱き締めたまま揶揄うように言った。
しんみりとして終わりたくはない。
絶句したアリシアを見て、くすくすと楽しそうに笑う。
アリシアからしてみれば、こんな気持ちを自覚させておいて、いなくなるなんて酷い話である。
過去にマルセルへ向けていたほのかな想いとはまるで違っていて、持て余してしまいそうだ。
「……酷いわ」
むくれるアリシアをジェーンが笑いながら宥める。
ジェーンの狙い通りしんみりした空気は既に消えてしまっていた。
そのまま2人は時間が許す限り従姉妹として語り合い、笑い合った。
時間が来るともう一度抱き締め合い、未練を振り切るようにしてジェーンは戻っていった。
「!!」
「アリシア様の気持ちをお知りになれば、殿下はとてもお喜びになりますわ。アリシア様もおわかりでしょう?」
「………つ」
アリシアがレイヴンを愛していると知れば、レイヴンが喜ぶのは間違いない。
だけど自覚したばかりの気持ちを告げることを考えると、胸が煩い程鳴り出した。
息が詰まるような気がして、顔に熱が溜まるのがわかる。
「ふふっ可愛らしい」
堪え切れずに笑うジェーンをアリシアが恨めしそうに睨む。
そんな表情さえ可愛くて、ジェーンは頬が緩むのを止めることができなかった。
思えばこれまでこんな話をしたことはなかった。
学生の頃、レイヴンは気持ちを隠していたし、アリシアは想ってはいけない人を想っていた。
例えジェーンが相手であっても、アリシアがその想いを口にすることはできない。そしてジェーンも聞くわけにはいかない想いだった。
ジェーンとジョッシュの仲も、学園に入る頃には既に破綻していたと言える。
あの頃の2人に、恋の話で盛り上がれるような要素はなかった。
「アリシア様、失礼してそちらへ行ってもよろしいでしょうか」
「ええ!」
ジェーンの申し出にアリシアは驚いたがすぐに頷いた。
それは2人の間にある、見えない壁を越えることを意味している。
ジェーンは美しい所作で立ち上がると、アリシアの隣へ座った。
「今だけ昔の様に、従姉として話をしてもよろしいでしょうか」
「勿論よ」
アリシアが頷くと、ジェーンはアリシアの手を両手で包みこんだ。
笑顔を浮かべたまま、真剣な目で話し出す。
「今すぐじゃなくても良いわ。あなたが伝えたくなった時で良いの。どうか殿下にあなたの気持ちを伝えてあげて。怖がらなくても大丈夫よ。殿下があなたを想う気持ちは本物だもの」
「……そうね、いつか、その内に…」
頬を染めて俯くアリシアを、ジェーンは抱き締める。
「大好きよ、アリシア。どうか幸せになってね。あなたには絶対に幸せになって欲しいの」
それは別れの言葉だ。
もう少しすればジェーンは離宮を出て簡単には会えなくなる。
「…私も大好きよ、ジェーン。あなたがいてくれて良かった。この半年間、本当に楽しかったわ」
そしてきっとジェーンに言われなければ、レイヴンへの想いを自覚することもなかった。
自分が人を愛することなどないと思い込んでいた。
「あなたと話していると昔に戻ったような気がしていたわ。だけど違うわね。あなたはこの半年間で完璧な淑女になったのだもの」
「ええ、そうね。昔には戻れないけれど、私はずっとあなたの味方よ、アリシア。あなたがこれまで私の味方でいてくれたように、もしあなたが困ることがあれば、今度は私が力になるわ」
2人はぎゅっと抱きしめ合った。
思えばアリシアが嫁ぐ時にも同じ様にして抱き締め合った。
王家に入ってしまえばこれまでのように会うこともできなくなる。
ジェーンが結婚してジョッシュが爵位を継ぐまで何事もありませんように、とあの時は祈るように思ったのだ。
それを思えば今回の別れは随分と幸せな別れである。
ジェーンは使節団の中でも優秀だと認められている。
完璧な作法も身につけることができた。
アナトリアへ戻ってきた後は、自身が侯爵位を継ぐことができる。
「それにしてもあなたが気持ちを自覚してくれてホッとしたわ。私がアルスタへ行くまでに間に合わなければどうしようかと思っていたのよ」
「な…っ!」
ジェーンはアリシアを抱き締めたまま揶揄うように言った。
しんみりとして終わりたくはない。
絶句したアリシアを見て、くすくすと楽しそうに笑う。
アリシアからしてみれば、こんな気持ちを自覚させておいて、いなくなるなんて酷い話である。
過去にマルセルへ向けていたほのかな想いとはまるで違っていて、持て余してしまいそうだ。
「……酷いわ」
むくれるアリシアをジェーンが笑いながら宥める。
ジェーンの狙い通りしんみりした空気は既に消えてしまっていた。
そのまま2人は時間が許す限り従姉妹として語り合い、笑い合った。
時間が来るともう一度抱き締め合い、未練を振り切るようにしてジェーンは戻っていった。
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