270 / 697
3章
124 自覚②
しおりを挟む
「アリシア様、その気持ちを是非、レイヴン殿下へお伝えくださいませ」
「!!」
「アリシア様の気持ちをお知りになれば、殿下はとてもお喜びになりますわ。アリシア様もおわかりでしょう?」
「………つ」
アリシアがレイヴンを愛していると知れば、レイヴンが喜ぶのは間違いない。
だけど自覚したばかりの気持ちを告げることを考えると、胸が煩い程鳴り出した。
息が詰まるような気がして、顔に熱が溜まるのがわかる。
「ふふっ可愛らしい」
堪え切れずに笑うジェーンをアリシアが恨めしそうに睨む。
そんな表情さえ可愛くて、ジェーンは頬が緩むのを止めることができなかった。
思えばこれまでこんな話をしたことはなかった。
学生の頃、レイヴンは気持ちを隠していたし、アリシアは想ってはいけない人を想っていた。
例えジェーンが相手であっても、アリシアがその想いを口にすることはできない。そしてジェーンも聞くわけにはいかない想いだった。
ジェーンとジョッシュの仲も、学園に入る頃には既に破綻していたと言える。
あの頃の2人に、恋の話で盛り上がれるような要素はなかった。
「アリシア様、失礼してそちらへ行ってもよろしいでしょうか」
「ええ!」
ジェーンの申し出にアリシアは驚いたがすぐに頷いた。
それは2人の間にある、見えない壁を越えることを意味している。
ジェーンは美しい所作で立ち上がると、アリシアの隣へ座った。
「今だけ昔の様に、従姉として話をしてもよろしいでしょうか」
「勿論よ」
アリシアが頷くと、ジェーンはアリシアの手を両手で包みこんだ。
笑顔を浮かべたまま、真剣な目で話し出す。
「今すぐじゃなくても良いわ。あなたが伝えたくなった時で良いの。どうか殿下にあなたの気持ちを伝えてあげて。怖がらなくても大丈夫よ。殿下があなたを想う気持ちは本物だもの」
「……そうね、いつか、その内に…」
頬を染めて俯くアリシアを、ジェーンは抱き締める。
「大好きよ、アリシア。どうか幸せになってね。あなたには絶対に幸せになって欲しいの」
それは別れの言葉だ。
もう少しすればジェーンは離宮を出て簡単には会えなくなる。
「…私も大好きよ、ジェーン。あなたがいてくれて良かった。この半年間、本当に楽しかったわ」
そしてきっとジェーンに言われなければ、レイヴンへの想いを自覚することもなかった。
自分が人を愛することなどないと思い込んでいた。
「あなたと話していると昔に戻ったような気がしていたわ。だけど違うわね。あなたはこの半年間で完璧な淑女になったのだもの」
「ええ、そうね。昔には戻れないけれど、私はずっとあなたの味方よ、アリシア。あなたがこれまで私の味方でいてくれたように、もしあなたが困ることがあれば、今度は私が力になるわ」
2人はぎゅっと抱きしめ合った。
思えばアリシアが嫁ぐ時にも同じ様にして抱き締め合った。
王家に入ってしまえばこれまでのように会うこともできなくなる。
ジェーンが結婚してジョッシュが爵位を継ぐまで何事もありませんように、とあの時は祈るように思ったのだ。
それを思えば今回の別れは随分と幸せな別れである。
ジェーンは使節団の中でも優秀だと認められている。
完璧な作法も身につけることができた。
アナトリアへ戻ってきた後は、自身が侯爵位を継ぐことができる。
「それにしてもあなたが気持ちを自覚してくれてホッとしたわ。私がアルスタへ行くまでに間に合わなければどうしようかと思っていたのよ」
「な…っ!」
ジェーンはアリシアを抱き締めたまま揶揄うように言った。
しんみりとして終わりたくはない。
絶句したアリシアを見て、くすくすと楽しそうに笑う。
アリシアからしてみれば、こんな気持ちを自覚させておいて、いなくなるなんて酷い話である。
過去にマルセルへ向けていたほのかな想いとはまるで違っていて、持て余してしまいそうだ。
「……酷いわ」
むくれるアリシアをジェーンが笑いながら宥める。
ジェーンの狙い通りしんみりした空気は既に消えてしまっていた。
そのまま2人は時間が許す限り従姉妹として語り合い、笑い合った。
時間が来るともう一度抱き締め合い、未練を振り切るようにしてジェーンは戻っていった。
「!!」
「アリシア様の気持ちをお知りになれば、殿下はとてもお喜びになりますわ。アリシア様もおわかりでしょう?」
「………つ」
アリシアがレイヴンを愛していると知れば、レイヴンが喜ぶのは間違いない。
だけど自覚したばかりの気持ちを告げることを考えると、胸が煩い程鳴り出した。
息が詰まるような気がして、顔に熱が溜まるのがわかる。
「ふふっ可愛らしい」
堪え切れずに笑うジェーンをアリシアが恨めしそうに睨む。
そんな表情さえ可愛くて、ジェーンは頬が緩むのを止めることができなかった。
思えばこれまでこんな話をしたことはなかった。
学生の頃、レイヴンは気持ちを隠していたし、アリシアは想ってはいけない人を想っていた。
例えジェーンが相手であっても、アリシアがその想いを口にすることはできない。そしてジェーンも聞くわけにはいかない想いだった。
ジェーンとジョッシュの仲も、学園に入る頃には既に破綻していたと言える。
あの頃の2人に、恋の話で盛り上がれるような要素はなかった。
「アリシア様、失礼してそちらへ行ってもよろしいでしょうか」
「ええ!」
ジェーンの申し出にアリシアは驚いたがすぐに頷いた。
それは2人の間にある、見えない壁を越えることを意味している。
ジェーンは美しい所作で立ち上がると、アリシアの隣へ座った。
「今だけ昔の様に、従姉として話をしてもよろしいでしょうか」
「勿論よ」
アリシアが頷くと、ジェーンはアリシアの手を両手で包みこんだ。
笑顔を浮かべたまま、真剣な目で話し出す。
「今すぐじゃなくても良いわ。あなたが伝えたくなった時で良いの。どうか殿下にあなたの気持ちを伝えてあげて。怖がらなくても大丈夫よ。殿下があなたを想う気持ちは本物だもの」
「……そうね、いつか、その内に…」
頬を染めて俯くアリシアを、ジェーンは抱き締める。
「大好きよ、アリシア。どうか幸せになってね。あなたには絶対に幸せになって欲しいの」
それは別れの言葉だ。
もう少しすればジェーンは離宮を出て簡単には会えなくなる。
「…私も大好きよ、ジェーン。あなたがいてくれて良かった。この半年間、本当に楽しかったわ」
そしてきっとジェーンに言われなければ、レイヴンへの想いを自覚することもなかった。
自分が人を愛することなどないと思い込んでいた。
「あなたと話していると昔に戻ったような気がしていたわ。だけど違うわね。あなたはこの半年間で完璧な淑女になったのだもの」
「ええ、そうね。昔には戻れないけれど、私はずっとあなたの味方よ、アリシア。あなたがこれまで私の味方でいてくれたように、もしあなたが困ることがあれば、今度は私が力になるわ」
2人はぎゅっと抱きしめ合った。
思えばアリシアが嫁ぐ時にも同じ様にして抱き締め合った。
王家に入ってしまえばこれまでのように会うこともできなくなる。
ジェーンが結婚してジョッシュが爵位を継ぐまで何事もありませんように、とあの時は祈るように思ったのだ。
それを思えば今回の別れは随分と幸せな別れである。
ジェーンは使節団の中でも優秀だと認められている。
完璧な作法も身につけることができた。
アナトリアへ戻ってきた後は、自身が侯爵位を継ぐことができる。
「それにしてもあなたが気持ちを自覚してくれてホッとしたわ。私がアルスタへ行くまでに間に合わなければどうしようかと思っていたのよ」
「な…っ!」
ジェーンはアリシアを抱き締めたまま揶揄うように言った。
しんみりとして終わりたくはない。
絶句したアリシアを見て、くすくすと楽しそうに笑う。
アリシアからしてみれば、こんな気持ちを自覚させておいて、いなくなるなんて酷い話である。
過去にマルセルへ向けていたほのかな想いとはまるで違っていて、持て余してしまいそうだ。
「……酷いわ」
むくれるアリシアをジェーンが笑いながら宥める。
ジェーンの狙い通りしんみりした空気は既に消えてしまっていた。
そのまま2人は時間が許す限り従姉妹として語り合い、笑い合った。
時間が来るともう一度抱き締め合い、未練を振り切るようにしてジェーンは戻っていった。
10
あなたにおすすめの小説
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
俺様上司に今宵も激しく求められる。
美凪ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
**2026.01.02start~2026.01.17end**
◆エブリスタ様にも掲載。人気沸騰中です!
https://estar.jp/novels/26513389
黒の神官と夜のお世話役
苺野 あん
恋愛
辺境の神殿で雑用係として慎ましく暮らしていたアンジェリアは、王都からやって来る上級神官の夜のお世話役に任命されてしまう。それも黒の神官という異名を持ち、様々な悪い噂に包まれた恐ろしい相手だ。ところが実際に現れたのは、アンジェリアの想像とは違っていて……。※完結しました
ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました
大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる