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番外編・処罰の後
1 処罰の後
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国王から処罰を言い渡された後。
母のアンジュが鞭打ち刑の為に引きずられて行くのをエミリーは呆然と見送っていた。
父のデミオンはその場で頽れ、「アンジュ、アンジュ…」と繰り返している。
そんな父もすぐに謁見室から引きずり出されてしまった。
「退室せよ」
国王の言葉の後、エミリーもジョッシュやカルヴィエ伯爵夫妻と共に謁見室を出る。
そこには既にデミオンの姿はなかった。
無言のまま馬車止めまで4人で歩く。
カルヴィエ伯爵夫妻やジョッシュは暗い顔をしていたが、エミリーにはそれが何故かわからなかった。
ジョッシュと結婚すれば貴族でなくなることは理解できた。
だけどアリシアの話を聞く限りでは家に残っていても良いことはなさそうだ。
それにデミオンやアンジュに愛されていないのなら、愛してくれている相手と一緒にいられる方が良い。
エミリーが笑い掛けるとジョッシュは暗い顔のまま笑い返してくれたが、カルヴィエ伯爵夫妻にはきつく睨まれた。
エミリーはいつも人に嫌われる。
それがなぜだかわからなかったが、きちんと教育を受けていればわかったのだろうか。
「侯爵はどうされたのだろう」
ジョッシュが呟く。
馬車止めにはここまで乗って来た侯爵家の馬車が停まっているが、デミオンの姿はない。
「侯爵がまだなら侯爵家の馬車は使えないね。一緒に…」
「ジョッシュ!!」
「帰ろう」という言葉はカルヴィエ伯爵の厳しい声に遮られた。
カルヴィエ伯爵が険しい顔でジョッシュを睨んでいる。
「おまえはこの事態をどう思っているんだ!伯爵家を破滅させるつもりか!!」
「あなたは出ていくから良いかもしれないけど、伯爵家を継ぐローガンのことも考えなさい!少しは申し訳ないと思わないの?!」
今回処罰を受けたのはデミオンとアンジュだけで、形の上ではジョッシュもエミリーも罰を受けたわけではない。だけどそれはジェーンの体面を守る為であり、2人が国王夫妻や王太子夫妻の怒りを買ったのは間違いなかった。
伯爵家としてエミリーを受け入れるような素振りを見せれば伯爵家全体が怒りを買うことになる。
「同じ馬車で帰りたいならおまえがそちらの馬車に乗りなさい」
両親の言葉にジョッシュは項垂れた。
ジョッシュも兄のことを言われると弱い。
確かにジョッシュは長兄や次兄に比べて軽く扱われていたけれど、その分2人が跡取りとそのスペアとしての厳しい教育と重圧を受けていたのを知っている。
ジョッシュはそんな教育を受けなくても侯爵になれる自分は幸運なのだと思っていた。
物事がそんなに都合よく進むはずがないと理解していなかったのだ。
爵位というのはただ継げばいいというものではない。
与えられた領地を運営し、領民の暮らしを守るのが領主の務めである。
ジョッシュはアリシアやジェーンの話を聞いていて、やっとその事に気がついた。
思えば兄たちにも一緒に勉強をしようと誘われたし、侯爵家の領地へきちんと目を向けるよう言われていたのだ。
兄たちは教えようとしてくれていた。
それを煩いと、余計なことだと聞かなかったのはジョッシュ自身だ。
愛していれば間違えた時に叱ったり正しいことを教えたりするはずだというアリシアの言葉が事実ならば、ジョッシュが何をしていても何も言わなかった両親より兄たちの方が愛してくれていたことになる。
そんな2人にこれ以上迷惑を掛けるわけにはいかない。
「……ごめん」
「え?」
ジョッシュはぽつりと呟くと、エミリーに背を向けて伯爵家の馬車へ乗り込んだ。
馬車がゆっくりと動き出す。
1人取り残されたエミリーはわけがわからないまま走り去っていく馬車を見送っていた。
「お帰りになりますか?」
硬い声がする。
振り返ると、侯爵家の馭者が冷たい目でエミリーを見ていた。
この馭者はエミリーが侯爵家に移った時からいた馭者で、いつも温和で人の良さそうな顔をしていた。
これまでこんな冷たい目を向けられたことはない。
慇懃無礼、という難しい言葉をエミリーは知らなかったが、正にそういった態度だった。
これまでのエミリーであれば使用人にこんな態度を取られたら喚き散らしていただろう。
だけどこの時エミリーはなんだか嫌な予感がして込み上げる言葉を飲み込んだ。
「……帰るわ」
一度侯爵邸へ帰ってからもう一度デミオンを迎えに来させればいい。
エミリーは馭者を睨みつけると馬車へ乗り込んだ。
だけどエミリーはすぐに1人で帰ったことを後悔することになる。
母のアンジュが鞭打ち刑の為に引きずられて行くのをエミリーは呆然と見送っていた。
父のデミオンはその場で頽れ、「アンジュ、アンジュ…」と繰り返している。
そんな父もすぐに謁見室から引きずり出されてしまった。
「退室せよ」
国王の言葉の後、エミリーもジョッシュやカルヴィエ伯爵夫妻と共に謁見室を出る。
そこには既にデミオンの姿はなかった。
無言のまま馬車止めまで4人で歩く。
カルヴィエ伯爵夫妻やジョッシュは暗い顔をしていたが、エミリーにはそれが何故かわからなかった。
ジョッシュと結婚すれば貴族でなくなることは理解できた。
だけどアリシアの話を聞く限りでは家に残っていても良いことはなさそうだ。
それにデミオンやアンジュに愛されていないのなら、愛してくれている相手と一緒にいられる方が良い。
エミリーが笑い掛けるとジョッシュは暗い顔のまま笑い返してくれたが、カルヴィエ伯爵夫妻にはきつく睨まれた。
エミリーはいつも人に嫌われる。
それがなぜだかわからなかったが、きちんと教育を受けていればわかったのだろうか。
「侯爵はどうされたのだろう」
ジョッシュが呟く。
馬車止めにはここまで乗って来た侯爵家の馬車が停まっているが、デミオンの姿はない。
「侯爵がまだなら侯爵家の馬車は使えないね。一緒に…」
「ジョッシュ!!」
「帰ろう」という言葉はカルヴィエ伯爵の厳しい声に遮られた。
カルヴィエ伯爵が険しい顔でジョッシュを睨んでいる。
「おまえはこの事態をどう思っているんだ!伯爵家を破滅させるつもりか!!」
「あなたは出ていくから良いかもしれないけど、伯爵家を継ぐローガンのことも考えなさい!少しは申し訳ないと思わないの?!」
今回処罰を受けたのはデミオンとアンジュだけで、形の上ではジョッシュもエミリーも罰を受けたわけではない。だけどそれはジェーンの体面を守る為であり、2人が国王夫妻や王太子夫妻の怒りを買ったのは間違いなかった。
伯爵家としてエミリーを受け入れるような素振りを見せれば伯爵家全体が怒りを買うことになる。
「同じ馬車で帰りたいならおまえがそちらの馬車に乗りなさい」
両親の言葉にジョッシュは項垂れた。
ジョッシュも兄のことを言われると弱い。
確かにジョッシュは長兄や次兄に比べて軽く扱われていたけれど、その分2人が跡取りとそのスペアとしての厳しい教育と重圧を受けていたのを知っている。
ジョッシュはそんな教育を受けなくても侯爵になれる自分は幸運なのだと思っていた。
物事がそんなに都合よく進むはずがないと理解していなかったのだ。
爵位というのはただ継げばいいというものではない。
与えられた領地を運営し、領民の暮らしを守るのが領主の務めである。
ジョッシュはアリシアやジェーンの話を聞いていて、やっとその事に気がついた。
思えば兄たちにも一緒に勉強をしようと誘われたし、侯爵家の領地へきちんと目を向けるよう言われていたのだ。
兄たちは教えようとしてくれていた。
それを煩いと、余計なことだと聞かなかったのはジョッシュ自身だ。
愛していれば間違えた時に叱ったり正しいことを教えたりするはずだというアリシアの言葉が事実ならば、ジョッシュが何をしていても何も言わなかった両親より兄たちの方が愛してくれていたことになる。
そんな2人にこれ以上迷惑を掛けるわけにはいかない。
「……ごめん」
「え?」
ジョッシュはぽつりと呟くと、エミリーに背を向けて伯爵家の馬車へ乗り込んだ。
馬車がゆっくりと動き出す。
1人取り残されたエミリーはわけがわからないまま走り去っていく馬車を見送っていた。
「お帰りになりますか?」
硬い声がする。
振り返ると、侯爵家の馭者が冷たい目でエミリーを見ていた。
この馭者はエミリーが侯爵家に移った時からいた馭者で、いつも温和で人の良さそうな顔をしていた。
これまでこんな冷たい目を向けられたことはない。
慇懃無礼、という難しい言葉をエミリーは知らなかったが、正にそういった態度だった。
これまでのエミリーであれば使用人にこんな態度を取られたら喚き散らしていただろう。
だけどこの時エミリーはなんだか嫌な予感がして込み上げる言葉を飲み込んだ。
「……帰るわ」
一度侯爵邸へ帰ってからもう一度デミオンを迎えに来させればいい。
エミリーは馭者を睨みつけると馬車へ乗り込んだ。
だけどエミリーはすぐに1人で帰ったことを後悔することになる。
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