【本編完結】幸福のかたち【R18】

朱里 麗華(reika2854)

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番外編・処罰の後

10 処罰の後(6-①)

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 食堂へ続く廊下はすっかり寂しくなっていた。
 
 壁に掛けられていた絵画も、等間隔に置かれた飾り棚も、そこに乗せられていた花瓶や置き物もすべて無くなっている。
 こうしてガランとした廊下を見ていると、これまでゴテゴテと飾り立てられていたのだと実感する。

 この邸では長年晩餐に客人を招いていない。
 いや、正しくは招いても断られるので招くのを止めてしまったのだ。
 ジェーンが戻った後どうなるのかは分からないが、少なくとも今はこの廊下を飾っておく必要はない。そして人を招くようになった時に。もっと侯爵家に相応しい物を飾れば良い。
 ロバートはそう判断したのだろう。

 食堂の入り口までたどり着くと、中から人の声が聞こえていた。
 食堂で仕事をしている侍女はいるかもしれないが、主家の者が食事をするような時間におしゃべりをしているなんて、これまでなかったことだ。

 不思議に思ったエミリーがそっと扉を開けて中を覗くと、思った以上の人数がいた。侍女や女中だけではなく、執事や従僕、下働きの使用人までいるようだ。
 彼女たちは中央のテーブルを囲んでいる。

「この品をまたこうして見ることができるなんて…」

 そう言ったメイドがエプロンを持ち上げて涙を拭った。

「私も話には聞いていたけれど、信じてなかったわ」

 泣き笑いの顔で侍女が頷く。

「ああ、ジェーンお嬢様にも早く見ていただきたいわ」

 そう言ってマーサはテーブルに置かれたものにそっと手をふれた。
 その手につられて、エミリーはテーブルに置かれたものへ視線を向ける。

 彼らが囲んで愛し気に見つめているのは、侯爵家の紋章が入った銀食器とテーブルクロスだ。
 だけどエミリーはこれらの品に見覚えがない。
 普段使っているものよりも随分とシンプルなものだった。

 エミリーは瞬時に悟った。
 これはジェーンの母、サンドラがいた頃に使われていたものだ。
 そしてロバートが先ほど言っていた、「故意に傷つけたら許さない」というのは、これらの品のことなのだ。
 
「僅かでも守れて良かった…」

 執事が深く息を吐いてそう言うと、集まった者たちが一斉に頷いた。




 侯爵家に来たばかりのアンジュはサンドラの面影を消そうと邸にあるものをすべて捨てようとした。
 その中には侯爵家に代々伝わる品もある。
 銀食器はその最たる例で、どこの家でも高価な銀食器には家紋が入れられ、代々受け継がれている。
 男爵家とはいえ、貴族の出であるアンジュはそれが一族にとってどれほど大切なものなのか知っているはずなのに、躊躇いなく捨ててしまった。
 
 何とかして当家の家宝を守らなければならない。
 
 横暴な当主夫妻に使用人たちの団結力は上がっていた。

 銀食器の管理は執事の仕事である。
 普段使いにしていたものはアンジュの目につき、早々に捨てられてしまった。
 だけど一部、来客用や子ども用などで普段使われていないものがパントリーの奥深くに仕舞われ、残っている。

 パントリーは執事の聖域である。
 デミオンとアンジュも流石にそこへ踏み込むことは躊躇っていた。

 だけどいつ踏み込まれるかわからない。

 執事は密かに信頼できる侍女や女中を招き入れ、パントリーに仕舞われたものを少しずつ移動さた。
 結局踏み込まれるまでに持ち出せたのは、来客用のカトラリー数人分と1つのテーブルクロス、そして子供用のカトラリーだけである。
 それを託された侍女たちは必死で守り、使用人棟の自室や木戸の向こうのあの家に隠していた。
 ハンナはあの家を管理しながら、侯爵家の家宝も守っていたのだ。
 
 このことはジェーンも知らない。

 秘密を守る為には、秘密を知る人数が少なければ少ないほど良い。
 だからジェーンの夫が当主になるまで隠し通すつもりでいた。

 だけど昨日、デミオンは当主としての権限を失った。
 今となっては家令や執事の方が立場が強く、パントリーに踏み込まれる恐れもない。
 むしろ踏み込まれたら叩き出してやる、と意気込んだ執事がロバートへ家宝の存在を明かし、パントリーへ移す許可を得た。

 家宝の存在を知らされたロバートは、思いがけないことに目を潤ませて喜んでいた。
 


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