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番外編・処罰の後
12 処罰の後(7-①)
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翌朝、目覚めたエミリーはベッドの上で寝ころんだまま天蓋を見つめていた。
昨日は色んなことが起きて、色んなことを知った。
それは同時にそれまで信じていた世界が壊れたことでもあった。
外がすっかり暗くなってからデミオンが帰って来た。
侯爵家の馭者が迎えに行ったわけではなく、囚人を護送する馬車に乗せられて送り返されたのだ。
牢に入れられていたことよりアンジュを掬い出せなかったことが堪えたらしく、すっかり憔悴した様子で帰宅したデミオンは、調度品が運び出されてがらんとした玄関ホールに気付くと呆然としていた。
そんな父の様子をエミリーは階上の廊下の陰からこっそり見ていた。
父の憔悴した様子や呆然としている姿を見ても少しも心が動かない。
それよりも階段上からデミオンを見下ろすロバートが気になっていた。
ロバートはデミオンを見て「1日しか預かってくれなかったのか」と言ったのだ。
「まあ陛下にはこれ以上の罪科を与えるつもりがないのだから何日もただ飯ぐらいを置いておいてはくれないか」と溜息を吐いていた。
「ただ飯ぐらい」
その言葉に昼間言われた言葉を思い出す。
食堂ではあの後警戒したマーサに何か用かと訊かれた。
「お腹が空いたから食事がしたい」と答えたエミリーに、マーサだけではなくそこにいた使用人すべてが驚いた顔になった。
食堂の様子を見て薄々わかっていたことだが、食事は用意されていなかった。
ただそれは嫌がらせではなく、調度品の運び出しや守り切ることができた家宝にすっかり気を取られてしまい、忘れていたのだ。
エミリーは侍女の嫌がらせを受けたジェーンが度々食事を抜かれていることを知っていた。
だけどここにいる使用人たちはエミリーを嫌っていてもそんな低次元な嫌がらせはしない。
ジェーンがそんなことを喜ぶはずがないと知っているし、人としての矜持を持っているからだ。
エミリーとジョッシュは暫くサンテラスで待つよう言われた。
調度品の運び出しが終わって掃除もされていたのでそこが一番食事をするのに相応しい場所だったのだ。
いつもの様なコース料理ではなかったけれど、トレイに乗せて運ばれてきた食事は味も量も十分なものだった。
しばらくしてロバートがサンテラスに現れた。
食事を摂るエミリーとジョッシュにロバートが淡々と告げる。
「先程も言った通り、侯爵家は財政難で余計な出費は抑えなければならない。申し訳ないがしばらくは客人を持て成す余裕もない」
エミリーは何を言われているのかわからなかった。
だけどジョッシュは青い顔をしている。
「気を遣わせて申し訳ないが、明日からはよろしく頼む」
「こちらこそ、ご迷惑をお掛けして申し訳ありません」
頭を下げたジョッシュにロバートは頷いた。
あとでジョッシュに教えてもらったけれど、あれは「明日からはジョッシュの食事を用意するつもりはない」ということなのだ。
エミリーは昨日まで知らなかったけれど、侯爵家の財政は本当に逼迫して一食分の食費も惜しむ程だった。それに使用人の数を減らしているので余計な仕事を増やすわけにはいかない。これからの食事は食堂ではなく、すべて部屋で摂ることになっていた。
ベッドの上でエミリーは大きく息を吐いた。
昨日は昼食を食べ終えると暗くなるまでジョッシュと2人で結婚式の招待客へ送る詫び状と招待状を書いていた。
「侯爵家の面目が掛かっているから」とロバートが詫び状の文面を用意していたので正しくはそれを書き写していただけだ。
だけどこれまで正式な文書を書いたことのないエミリーは何度も書き損じて全然先に進まない。
これまでのエミリーだったら間違いなく泣き喚いていただろう。だけど昨日のエミリーは泣きたくなってもぐっと堪えて書き続けた。
結局日が暮れるまで書いていたのに、きちんと書きあがったのはほんの少しの数だった。
今日も続きが待っている。
ジョッシュは昼食を自宅で摂った後、訪ねて来ることになっていた。
昨日は色んなことが起きて、色んなことを知った。
それは同時にそれまで信じていた世界が壊れたことでもあった。
外がすっかり暗くなってからデミオンが帰って来た。
侯爵家の馭者が迎えに行ったわけではなく、囚人を護送する馬車に乗せられて送り返されたのだ。
牢に入れられていたことよりアンジュを掬い出せなかったことが堪えたらしく、すっかり憔悴した様子で帰宅したデミオンは、調度品が運び出されてがらんとした玄関ホールに気付くと呆然としていた。
そんな父の様子をエミリーは階上の廊下の陰からこっそり見ていた。
父の憔悴した様子や呆然としている姿を見ても少しも心が動かない。
それよりも階段上からデミオンを見下ろすロバートが気になっていた。
ロバートはデミオンを見て「1日しか預かってくれなかったのか」と言ったのだ。
「まあ陛下にはこれ以上の罪科を与えるつもりがないのだから何日もただ飯ぐらいを置いておいてはくれないか」と溜息を吐いていた。
「ただ飯ぐらい」
その言葉に昼間言われた言葉を思い出す。
食堂ではあの後警戒したマーサに何か用かと訊かれた。
「お腹が空いたから食事がしたい」と答えたエミリーに、マーサだけではなくそこにいた使用人すべてが驚いた顔になった。
食堂の様子を見て薄々わかっていたことだが、食事は用意されていなかった。
ただそれは嫌がらせではなく、調度品の運び出しや守り切ることができた家宝にすっかり気を取られてしまい、忘れていたのだ。
エミリーは侍女の嫌がらせを受けたジェーンが度々食事を抜かれていることを知っていた。
だけどここにいる使用人たちはエミリーを嫌っていてもそんな低次元な嫌がらせはしない。
ジェーンがそんなことを喜ぶはずがないと知っているし、人としての矜持を持っているからだ。
エミリーとジョッシュは暫くサンテラスで待つよう言われた。
調度品の運び出しが終わって掃除もされていたのでそこが一番食事をするのに相応しい場所だったのだ。
いつもの様なコース料理ではなかったけれど、トレイに乗せて運ばれてきた食事は味も量も十分なものだった。
しばらくしてロバートがサンテラスに現れた。
食事を摂るエミリーとジョッシュにロバートが淡々と告げる。
「先程も言った通り、侯爵家は財政難で余計な出費は抑えなければならない。申し訳ないがしばらくは客人を持て成す余裕もない」
エミリーは何を言われているのかわからなかった。
だけどジョッシュは青い顔をしている。
「気を遣わせて申し訳ないが、明日からはよろしく頼む」
「こちらこそ、ご迷惑をお掛けして申し訳ありません」
頭を下げたジョッシュにロバートは頷いた。
あとでジョッシュに教えてもらったけれど、あれは「明日からはジョッシュの食事を用意するつもりはない」ということなのだ。
エミリーは昨日まで知らなかったけれど、侯爵家の財政は本当に逼迫して一食分の食費も惜しむ程だった。それに使用人の数を減らしているので余計な仕事を増やすわけにはいかない。これからの食事は食堂ではなく、すべて部屋で摂ることになっていた。
ベッドの上でエミリーは大きく息を吐いた。
昨日は昼食を食べ終えると暗くなるまでジョッシュと2人で結婚式の招待客へ送る詫び状と招待状を書いていた。
「侯爵家の面目が掛かっているから」とロバートが詫び状の文面を用意していたので正しくはそれを書き写していただけだ。
だけどこれまで正式な文書を書いたことのないエミリーは何度も書き損じて全然先に進まない。
これまでのエミリーだったら間違いなく泣き喚いていただろう。だけど昨日のエミリーは泣きたくなってもぐっと堪えて書き続けた。
結局日が暮れるまで書いていたのに、きちんと書きあがったのはほんの少しの数だった。
今日も続きが待っている。
ジョッシュは昼食を自宅で摂った後、訪ねて来ることになっていた。
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