【本編完結】幸福のかたち【R18】

朱里 麗華(reika2854)

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番外編・処罰の後

24 処罰の後(14)

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「お父様とお母様が使用人棟に?」

「ええ。使用人棟は今、空き部屋が多いですから。アンジュ様の為には人があまり近寄らない部屋の方が良いと思われたのでしょう」

「そう…」

 マーサの言葉にエミリーが目を伏せる。
 本邸から使用人棟へ移るのに、デミオンから一言もなかった。
 エミリーは結局あれからアンジュのところへ行っていない。デミオンと顔を合わせたのもあの怒鳴られた日が最後だ。
 2人と真面に会話をしたのはあの処罰の日が最後になる。

 エミリーはあと2ヶ月程しか侯爵邸にいられない。
 このまま別れることになるのだろうか。

 エミリーが何を考えているのか、マーサには良くわかった。
 どんなに冷たく接せられてもジェーンはずっとデミオンの愛情を諦められずにいた。親からの愛を求めるのは子どもとして当然の気持ちである。
 ジェーンがデミオンへの気持ちを断ち切れたのは、アリシアに怪我を負わせたことを知ったからだ。

「大丈夫ですよ。侯爵邸は使用人棟も綺麗なものですから」

 だからマーサは敢て見当違いなことを言う。
 デミオンは既にエミリーを少しも気に掛けていない。そんな父親に捨てられたなんて思う必要はない。
 
 そんなマーサの言葉にエミリーはきょとんとした顔をした。それから少し笑う。

「そう…。そうよね。お2人はきっと大丈夫だわ。私は、私がやるべきことをやらなくっちゃ」

 エミリーがやるべきこと。
 まずは詫び状と招待状の作成である。
 意気込みを見せるエミリーにマーサは微笑んで頷いた。


 それからは早かった。
 経験豊富な使用人たちは仕事が早い。とても隙間時間の作業とは思えない早さで割り当て分を仕上げていく。
 元々あった内から1/4はカルヴィエ伯爵家で受け持ってくれたこともあり、あっという間に出来上がってしまった。

「確かにすべて揃っています。お疲れ様でした」

 手元のリストと箱に並べられた封筒を見比べていたクレールが頷いてエミリーへ視線を移す。
 こちらを向いたクレールは柔らかい表情をしている。以前、大勢の侍女たちに傅かれていた時でもクレールのそんな表情を見たことはない。 

「これだけの数を揃えるのですから大変だったでしょう」

「…大変だったのは手伝ってくれた人たちよ。私が書いた分なんてほとんどないわ」

 並べられた封筒の内、エミリーが書いたのは1割ほどだった。自分が無能なのだと突きつけられたようで辛い。
 使用人たちが手伝ってくれなければ絶対に間に合わなかった。

「使用人たちを手伝う気にさせたのはあなたでしょう。それも大変だったと思いますよ。正直なところ、わたしは無理だと思っていました」

 エミリーは使用人たちに頭を下げてまわった時のことを思い出す。
 嫌な顔をした使用人たちに冷たくあしらわれるのは辛かった。
 何度も泣きたくなったし止めたくなった。
 だけどエミリーはキャンベル侯爵家の娘だ。
 侯爵家の娘として唯一できることだと思えば止めることができなかった。
 
「途中で放り投げることもできたのに、あなたは最後までやり遂げました。この経験はきっと新しい生活で役に立つでしょう」

 エミリーはぱっと顔を上げた。
 やっと気がついた。これは褒められているのだ。
 ほんのりと胸が暖かくなっていく。

「まだ結婚式の準備は続きますから、引き続きよろしくお願い致します」

 軽く頭を下げたクレールを見ながら、エミリーは頬が緩むのを感じていた。



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