【本編完結】幸福のかたち【R18】

朱里 麗華(reika2854)

文字の大きさ
341 / 697
番外編・処罰の後

24 処罰の後(14)

しおりを挟む
「お父様とお母様が使用人棟に?」

「ええ。使用人棟は今、空き部屋が多いですから。アンジュ様の為には人があまり近寄らない部屋の方が良いと思われたのでしょう」

「そう…」

 マーサの言葉にエミリーが目を伏せる。
 本邸から使用人棟へ移るのに、デミオンから一言もなかった。
 エミリーは結局あれからアンジュのところへ行っていない。デミオンと顔を合わせたのもあの怒鳴られた日が最後だ。
 2人と真面に会話をしたのはあの処罰の日が最後になる。

 エミリーはあと2ヶ月程しか侯爵邸にいられない。
 このまま別れることになるのだろうか。

 エミリーが何を考えているのか、マーサには良くわかった。
 どんなに冷たく接せられてもジェーンはずっとデミオンの愛情を諦められずにいた。親からの愛を求めるのは子どもとして当然の気持ちである。
 ジェーンがデミオンへの気持ちを断ち切れたのは、アリシアに怪我を負わせたことを知ったからだ。

「大丈夫ですよ。侯爵邸は使用人棟も綺麗なものですから」

 だからマーサは敢て見当違いなことを言う。
 デミオンは既にエミリーを少しも気に掛けていない。そんな父親に捨てられたなんて思う必要はない。
 
 そんなマーサの言葉にエミリーはきょとんとした顔をした。それから少し笑う。

「そう…。そうよね。お2人はきっと大丈夫だわ。私は、私がやるべきことをやらなくっちゃ」

 エミリーがやるべきこと。
 まずは詫び状と招待状の作成である。
 意気込みを見せるエミリーにマーサは微笑んで頷いた。


 それからは早かった。
 経験豊富な使用人たちは仕事が早い。とても隙間時間の作業とは思えない早さで割り当て分を仕上げていく。
 元々あった内から1/4はカルヴィエ伯爵家で受け持ってくれたこともあり、あっという間に出来上がってしまった。

「確かにすべて揃っています。お疲れ様でした」

 手元のリストと箱に並べられた封筒を見比べていたクレールが頷いてエミリーへ視線を移す。
 こちらを向いたクレールは柔らかい表情をしている。以前、大勢の侍女たちに傅かれていた時でもクレールのそんな表情を見たことはない。 

「これだけの数を揃えるのですから大変だったでしょう」

「…大変だったのは手伝ってくれた人たちよ。私が書いた分なんてほとんどないわ」

 並べられた封筒の内、エミリーが書いたのは1割ほどだった。自分が無能なのだと突きつけられたようで辛い。
 使用人たちが手伝ってくれなければ絶対に間に合わなかった。

「使用人たちを手伝う気にさせたのはあなたでしょう。それも大変だったと思いますよ。正直なところ、わたしは無理だと思っていました」

 エミリーは使用人たちに頭を下げてまわった時のことを思い出す。
 嫌な顔をした使用人たちに冷たくあしらわれるのは辛かった。
 何度も泣きたくなったし止めたくなった。
 だけどエミリーはキャンベル侯爵家の娘だ。
 侯爵家の娘として唯一できることだと思えば止めることができなかった。
 
「途中で放り投げることもできたのに、あなたは最後までやり遂げました。この経験はきっと新しい生活で役に立つでしょう」

 エミリーはぱっと顔を上げた。
 やっと気がついた。これは褒められているのだ。
 ほんのりと胸が暖かくなっていく。

「まだ結婚式の準備は続きますから、引き続きよろしくお願い致します」

 軽く頭を下げたクレールを見ながら、エミリーは頬が緩むのを感じていた。



しおりを挟む
感想 441

あなたにおすすめの小説

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

俺様上司に今宵も激しく求められる。

美凪ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。 **2026.01.02start~2026.01.17end** ◆エブリスタ様にも掲載。人気沸騰中です! https://estar.jp/novels/26513389

黒の神官と夜のお世話役

苺野 あん
恋愛
辺境の神殿で雑用係として慎ましく暮らしていたアンジェリアは、王都からやって来る上級神官の夜のお世話役に任命されてしまう。それも黒の神官という異名を持ち、様々な悪い噂に包まれた恐ろしい相手だ。ところが実際に現れたのは、アンジェリアの想像とは違っていて……。※完結しました

ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました

大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる

ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。 幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。 幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。 関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

処理中です...