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第2部 4章
18 旧友との再会②
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「お声を掛けたのはジェーン嬢のことをお話したいと思ったからです」
「え?」
普段のマルセルならアリシアを見かけたとしても声を掛けたりしない。
学生時代に仲良くしていたとはいえ、今は互いに立場が変わった。それはマルセルもきちんと理解している。
それでも声を掛けたのは、ジェーンのことを話したかったからだ。マルセルにとってもジェーンは大切な友人だった。
ジェーンとレイヴンの噂もマルセルは知っていたけれど、馬鹿な噂だと鼻で笑っていた。
学生時代のレイヴンとアリシアの仲は親密とは言い難かったけれど、互いを婚約者として認め合い、尊重していた。その頃にもレイヴンとジェーンの仲は噂されていたけれど、マルセルは信じていない。
それはジェーンに向けられた悪意があまりにも多く、レイヴンは心無い中傷からジェーンを庇っているだけだと知っているからだ。
ジェーンに向けられる悪意や中傷にはマルセルも憤っていたし、どうすることもできない自分を情けなく思ったりもしていた。だからあの時のレイヴンの気持ちは、マルセルにも良くわかる。
そして何よりアリシアとジェーンの仲が変わらなかった。
ジェーンを誰よりも庇っていたのはアリシアだったし、ジェーンもアリシアを一番に慕っていた。
そんなジェーンがアリシアを裏切るはずがないのだ。
そんな中聞こえてきた、議会でジェーンが証言をするという噂。
マルセルはまだ下っ端とはいえ貴族院の議員なので、継承権に纏わる法改正の是非を話し合い、国王へ報告する立場にいる。
マルセルはあの議場でジェーンの話を聞いていたのだ。
そして知った非道の数々。
ジェーンの体にある痣を見た時には息が止まる思いがした。
「わたしは学生時代、あんなに一緒に過ごしていたのに、ジェーン嬢の身に起こっていることを知りませんでした。余計なことを言ってしまったこともあります」
ああ、そうか、とアリシアは合点がいった。
マルセルはアリシアに罪悪感を抱くオレリアと同じなのだ。
マルセルはジェーンの能力を高く評価していた。そしてジェーンの境遇はそれとなく知っていても、暴力を受けていることは知らなかった。
だからこそ拙い所作や作法で損をしているジェーンに、「もっと良い作法の家庭教師は雇えないのか」というようなことを遠回しに言っていたのだ。アリシアもそれを聞いたことがあった。
だけどそれは悪意からの言葉ではなく、所作や作法のせいで損をしているジェーンを歯がゆく思ってのことだ。
だからジェーンも怒ったり恨んだりすることはなく、逆に心配を掛けて申し訳ないと言っていた。
そもそも友人の所作や作法がなっていないからと注意する者がどれほどいるだろうか。
大抵の者は見て見ぬふりをする。それで評価や評判を落としても、それは本人や家の責任である。余計な諍いを生むより黙っていた方が良い。
それでも注意しようと思うのは、その相手のことを本当に思っているからだ。
「あの頃私たちは必死に隠していましたから、知らないのは当然のことですわ。マルセル殿がジェーンのことを思って下さっていたのは私たちもわかっています。私にもジェーンにも、マルセル殿を怒ったり恨んだりする気持ちはありませんわ。だからお気になさらないで」
アリシアがそう言うと、マルセルは少し笑顔を見せた。
胸のつかえが取れたような、そんな表情だった。
「壮行会の日、ジェーン嬢がスピーチをすると聞いて、わたしは広場へ向かいました。そこで見たジェーン嬢は素晴らしかった。正直わたしは、ジェーン嬢が大勢の前で恥を掻くのではないかと案じていたのです。ですがそんな心配は無用のものでした。わたしは目を見張る思いでしたよ。短時間であれだけの所作を身につけるのは大変だったと、わたしにもわかります。わたしはジェーン嬢を、そしてジェーン嬢と友人として過ごした時間を、誇りに思います」
マルセルの言葉からまっすぐな思いが伝わってくる。
だからアリシアも笑顔を見せた。
「マルセル殿にそう言っていただけて、ジェーンもきっと喜びますわ」
アリシアがそう言った時だった。
誰かが駆け寄る足音がして、「アリシア!」と呼ぶ声が聞こえた。
レイヴンが駆けつけてきたところだった。
「え?」
普段のマルセルならアリシアを見かけたとしても声を掛けたりしない。
学生時代に仲良くしていたとはいえ、今は互いに立場が変わった。それはマルセルもきちんと理解している。
それでも声を掛けたのは、ジェーンのことを話したかったからだ。マルセルにとってもジェーンは大切な友人だった。
ジェーンとレイヴンの噂もマルセルは知っていたけれど、馬鹿な噂だと鼻で笑っていた。
学生時代のレイヴンとアリシアの仲は親密とは言い難かったけれど、互いを婚約者として認め合い、尊重していた。その頃にもレイヴンとジェーンの仲は噂されていたけれど、マルセルは信じていない。
それはジェーンに向けられた悪意があまりにも多く、レイヴンは心無い中傷からジェーンを庇っているだけだと知っているからだ。
ジェーンに向けられる悪意や中傷にはマルセルも憤っていたし、どうすることもできない自分を情けなく思ったりもしていた。だからあの時のレイヴンの気持ちは、マルセルにも良くわかる。
そして何よりアリシアとジェーンの仲が変わらなかった。
ジェーンを誰よりも庇っていたのはアリシアだったし、ジェーンもアリシアを一番に慕っていた。
そんなジェーンがアリシアを裏切るはずがないのだ。
そんな中聞こえてきた、議会でジェーンが証言をするという噂。
マルセルはまだ下っ端とはいえ貴族院の議員なので、継承権に纏わる法改正の是非を話し合い、国王へ報告する立場にいる。
マルセルはあの議場でジェーンの話を聞いていたのだ。
そして知った非道の数々。
ジェーンの体にある痣を見た時には息が止まる思いがした。
「わたしは学生時代、あんなに一緒に過ごしていたのに、ジェーン嬢の身に起こっていることを知りませんでした。余計なことを言ってしまったこともあります」
ああ、そうか、とアリシアは合点がいった。
マルセルはアリシアに罪悪感を抱くオレリアと同じなのだ。
マルセルはジェーンの能力を高く評価していた。そしてジェーンの境遇はそれとなく知っていても、暴力を受けていることは知らなかった。
だからこそ拙い所作や作法で損をしているジェーンに、「もっと良い作法の家庭教師は雇えないのか」というようなことを遠回しに言っていたのだ。アリシアもそれを聞いたことがあった。
だけどそれは悪意からの言葉ではなく、所作や作法のせいで損をしているジェーンを歯がゆく思ってのことだ。
だからジェーンも怒ったり恨んだりすることはなく、逆に心配を掛けて申し訳ないと言っていた。
そもそも友人の所作や作法がなっていないからと注意する者がどれほどいるだろうか。
大抵の者は見て見ぬふりをする。それで評価や評判を落としても、それは本人や家の責任である。余計な諍いを生むより黙っていた方が良い。
それでも注意しようと思うのは、その相手のことを本当に思っているからだ。
「あの頃私たちは必死に隠していましたから、知らないのは当然のことですわ。マルセル殿がジェーンのことを思って下さっていたのは私たちもわかっています。私にもジェーンにも、マルセル殿を怒ったり恨んだりする気持ちはありませんわ。だからお気になさらないで」
アリシアがそう言うと、マルセルは少し笑顔を見せた。
胸のつかえが取れたような、そんな表情だった。
「壮行会の日、ジェーン嬢がスピーチをすると聞いて、わたしは広場へ向かいました。そこで見たジェーン嬢は素晴らしかった。正直わたしは、ジェーン嬢が大勢の前で恥を掻くのではないかと案じていたのです。ですがそんな心配は無用のものでした。わたしは目を見張る思いでしたよ。短時間であれだけの所作を身につけるのは大変だったと、わたしにもわかります。わたしはジェーン嬢を、そしてジェーン嬢と友人として過ごした時間を、誇りに思います」
マルセルの言葉からまっすぐな思いが伝わってくる。
だからアリシアも笑顔を見せた。
「マルセル殿にそう言っていただけて、ジェーンもきっと喜びますわ」
アリシアがそう言った時だった。
誰かが駆け寄る足音がして、「アリシア!」と呼ぶ声が聞こえた。
レイヴンが駆けつけてきたところだった。
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