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第2部 4章
25 思い出話②
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「マリアンに会いたい?」
レイヴンに訊かれてアリシアは振り向いた。
じっとレイヴンの顔を見つめる。
輿入れの時、公爵家から侍女を連れて来ても良いと言われていた。アリシアが選ぶならマリアンしかいない。
だけどマリアンは一族といっても血筋が遠く、親が爵位を持っていないので王宮に上がることができない。
「誰も連れて行かない」と言うアリシアに、公爵家の使用人たちはこぞって反対の声を上げた。中でも一番熱心に誰か連れて行くよう主張したのはマリアンだ。
「アリシア様の絶対的な味方を傍に」
マリアンはそう言っていた。
アリシアはまたふふっと笑う。
マリアンがレイヴンを信用していないのはわかっていた。
「このまま結婚すればアリシア様が不幸になる」と嘆いていたのも知っている。
マリアンが今の2人を見たらどう思うだろうか。
マリアンが傍に置くべきと強く主張していた「絶対的な味方」にレイヴンがなってくれた。
「レイヴン様」
アリシアはレイヴンの名を呼ぶとぎゅっと抱き着いた。
剣の鍛錬を増やしたレイヴンの体は以前よりしっかりしている。
「アリシア?!どうしたの?!」
レイヴンが慌てた声を出す。
アリシアから甘えることはほとんどないから、抱き着かれても甘えられているとは思いつかないのだ。
「どうも致しません。ただこうしたくなったのです」
レイヴンはアリシアにそう言われてやっと甘えられているのだとわかったようだ。
目を見開いた後、嬉しそうにアリシアの背中へ手をまわす。
「レイヴン様は子どもの頃、どのように過ごしておられたのですか?」
それはアリシアにとって何気ない質問だった。
自分の思い出を話した。
だからレイヴンの思い出も聞きたい。
だけどレイヴンはびくっと体を震わせると、苦し気な表情を見せた。
アリシアのことなら何でも知りたいレイヴンとは違って、アリシアはレイヴンのことに興味がなかった。
それがこうして興味を示してくれるようになった。
それはとても嬉しい。
だけど。
「子どもの頃のことはあまり知られたくないなあ」
力ない声と言葉に、アリシアが顔を上げる。
目が合うとレイヴンは哀し気に笑った。
レイヴンの育った環境はノティスと似ている。
生まれた時から王太子位に一番近いと言われていたレイヴンの周りにはいつでも大勢の大人がいた。
立太子してからは、レイヴンに取り入ろうと欲望を剥き出しにする大人たちと、その地位から引きずり降ろそうとする大人たちの悪意に晒されていた。
そんな大人たちに惑わされずに済んだのは、ノティスと違って相応の教育を受けていたからだ。
だけどそんな大人たちの影響をレイヴンも受けていた。
「レオは一族の子どもたちと揉まれて逞しくなったと言っていたよね。大人に怒られたからじゃなく、同じ年頃の子どもたちと遊んで、喧嘩をして、相手にも感情があることを学んだんだ」
感情を持っているのは一族の子どもたちだけではない。王都で出会う子息たちにも感情がある。
何をしても、何を言っても怒らないのは、何も感じないからではなく、身分の違いから怒りを表すことができないからだ。
レイヴンも学友として王宮へ来るようになったレオナルドには何度も言われていた。
「僕にはレオがいたのに、なんでなのかな。アリシアと出会った時の僕は、間違いなく傲慢で嫌な子どもだった」
「そんな…っ」
レイヴンが何のことを言っているのか、アリシアにはわかっている。
アリシアが気にしていないと言っても、婚約者に選ばれた時のことをレイヴンは後悔し続けているのだ。
レイヴンは緩やかに首を振る。
「良いんだ。過ちは過ちとして認めないとね」
レイヴンはアリシアの髪を撫でると、額に口づけを落とした。
レイヴンに訊かれてアリシアは振り向いた。
じっとレイヴンの顔を見つめる。
輿入れの時、公爵家から侍女を連れて来ても良いと言われていた。アリシアが選ぶならマリアンしかいない。
だけどマリアンは一族といっても血筋が遠く、親が爵位を持っていないので王宮に上がることができない。
「誰も連れて行かない」と言うアリシアに、公爵家の使用人たちはこぞって反対の声を上げた。中でも一番熱心に誰か連れて行くよう主張したのはマリアンだ。
「アリシア様の絶対的な味方を傍に」
マリアンはそう言っていた。
アリシアはまたふふっと笑う。
マリアンがレイヴンを信用していないのはわかっていた。
「このまま結婚すればアリシア様が不幸になる」と嘆いていたのも知っている。
マリアンが今の2人を見たらどう思うだろうか。
マリアンが傍に置くべきと強く主張していた「絶対的な味方」にレイヴンがなってくれた。
「レイヴン様」
アリシアはレイヴンの名を呼ぶとぎゅっと抱き着いた。
剣の鍛錬を増やしたレイヴンの体は以前よりしっかりしている。
「アリシア?!どうしたの?!」
レイヴンが慌てた声を出す。
アリシアから甘えることはほとんどないから、抱き着かれても甘えられているとは思いつかないのだ。
「どうも致しません。ただこうしたくなったのです」
レイヴンはアリシアにそう言われてやっと甘えられているのだとわかったようだ。
目を見開いた後、嬉しそうにアリシアの背中へ手をまわす。
「レイヴン様は子どもの頃、どのように過ごしておられたのですか?」
それはアリシアにとって何気ない質問だった。
自分の思い出を話した。
だからレイヴンの思い出も聞きたい。
だけどレイヴンはびくっと体を震わせると、苦し気な表情を見せた。
アリシアのことなら何でも知りたいレイヴンとは違って、アリシアはレイヴンのことに興味がなかった。
それがこうして興味を示してくれるようになった。
それはとても嬉しい。
だけど。
「子どもの頃のことはあまり知られたくないなあ」
力ない声と言葉に、アリシアが顔を上げる。
目が合うとレイヴンは哀し気に笑った。
レイヴンの育った環境はノティスと似ている。
生まれた時から王太子位に一番近いと言われていたレイヴンの周りにはいつでも大勢の大人がいた。
立太子してからは、レイヴンに取り入ろうと欲望を剥き出しにする大人たちと、その地位から引きずり降ろそうとする大人たちの悪意に晒されていた。
そんな大人たちに惑わされずに済んだのは、ノティスと違って相応の教育を受けていたからだ。
だけどそんな大人たちの影響をレイヴンも受けていた。
「レオは一族の子どもたちと揉まれて逞しくなったと言っていたよね。大人に怒られたからじゃなく、同じ年頃の子どもたちと遊んで、喧嘩をして、相手にも感情があることを学んだんだ」
感情を持っているのは一族の子どもたちだけではない。王都で出会う子息たちにも感情がある。
何をしても、何を言っても怒らないのは、何も感じないからではなく、身分の違いから怒りを表すことができないからだ。
レイヴンも学友として王宮へ来るようになったレオナルドには何度も言われていた。
「僕にはレオがいたのに、なんでなのかな。アリシアと出会った時の僕は、間違いなく傲慢で嫌な子どもだった」
「そんな…っ」
レイヴンが何のことを言っているのか、アリシアにはわかっている。
アリシアが気にしていないと言っても、婚約者に選ばれた時のことをレイヴンは後悔し続けているのだ。
レイヴンは緩やかに首を振る。
「良いんだ。過ちは過ちとして認めないとね」
レイヴンはアリシアの髪を撫でると、額に口づけを落とした。
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